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転生したらカルタゴ人だったので、ハンニバルを勝たせてローマに勝利します  作者: レモンティー


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第二十六話 ハンニバルの父を失脚させる計画を知ったので、軍の帳簿を調べ直した

カルタゴ本国。

その朝、俺のもとに届いたのは、ハミルカル将軍からの書簡ではなかった。

政府からの正式な通知だった。

『ヒスパニア方面軍の補給管理に重大な問題が確認されたため、ハミルカル・バルカ将軍の指揮責任について審議する』

俺は、その文章を三度読んだ。

「……指揮責任?」

隣にいたメルカルが顔を上げる。

「アドン様。

どうしました?」

俺は通知を渡した。

メルカルは読み終えると、顔色を変えた。

「ハミルカル将軍が責任を問われるんですか?」

「そうらしい」

「ですが、将軍は不正を調べていた側ですよね?」

「そうだね」

俺は椅子に座った。

そして、深く息を吐いた。

「……うまいことを考えたな」

メルカルが首を傾げる。

「何がです?」

「不正があったこと自体は、もう隠せない」

俺は机の上に資料を並べた。

軍の穀物不足。

民間倉庫への無断移送。

補給予定の情報漏洩。

政府監査官と商会の接触。

「だから、今度は責任の所在を変えようとしているんだ」

メルカルが眉をひそめた。

「責任の所在?」

俺は頷いた。

「商会や監査官の問題ではなく、軍を管理していたハミルカル将軍の問題にする」

「……そんな」

「もちろん、将軍にも監督責任がある可能性はある」

俺は続けた。

「でも、それと不正を行った人間の責任は別だよ」

メルカルは黙った。

俺は通知を机に置いた。

「……まずは、何を理由に将軍を処分しようとしているのか確認しよう」

その日の午後。

俺はハンノを訪ねた。

彼の執務室には、すでに何人もの役人が出入りしていた。

ハンノは俺を見るなり言った。

「アドン殿。

通知を見たな?」

「はい」

「どう思う?」

俺は答えた。

「調査は必要だと思います」

ハンノは少し驚いた。

「ほう?」

「軍の物資が不足し、補給情報まで漏れていたのですから、指揮系統の問題を確認する必要はあります」

ハンノは頷いた。

「そのとおりだ」

俺は続けた。

「ただし、調査が終わる前に将軍を解任するなら、理由を明確にするべきです」

ハンノは深く息を吐いた。

「……そこが問題なのだ」

「どういうことです?」

ハンノは一枚の書類を差し出した。

そこには、政府内で提出された提案が書かれていた。

『ヒスパニア方面軍の補給管理を正常化するため、ハミルカル将軍の指揮権を一時停止し、政府が任命する監督官の管理下に置く』

俺は眉をひそめた。

「……指揮権の一時停止?」

「そうだ」

「誰が提案したんですか?」

ハンノは答えた。

「アズバル・ハンノンだ」

俺は思わず苦笑した。

「……また、あの人ですか」

ハンノは続けた。

「彼の主張にも、表面上は筋が通っている」

「といいますと?」

「軍の補給に不正があった以上、現場の指揮官を調査対象にするべきだということだ」

俺は頷いた。

「それ自体は理解できます」

「だが、問題はその先だ」

ハンノは別の書類を取り出した。

「指揮権を停止した場合の代行者についても、提案が出ている」

俺は受け取った。

そこには、一人の名前があった。

マゴン。

ハミルカル将軍の配下にいる将校だ。

俺は顔を上げた。

「……マゴン殿ですか?」

ハンノは頷いた。

「そうだ」

「マゴン殿本人は承知しているんですか?」

「まだ確認できていない」

俺は考え込んだ。

マゴンは以前から軍の実務を担当していた。

能力もある。

だが、将軍の指揮権を停止してまで交代させる理由になるかは別だ。

俺は静かに言った。

「……本人が望んでいない可能性もありますね」

ハンノは頷いた。

「その可能性はある」

俺はさらに尋ねた。

「ハミルカル将軍を解任した場合、軍の補給はどうなるんですか?」

ハンノは少し考えた。

「新しい指揮官が引き継ぐことになる」

「引き継ぎには時間がかかりますよね?」

「当然だ」

俺は頷いた。

「その間、軍の食料や輸送の管理が混乱する可能性があります」

ハンノは黙った。

俺は続けた。

「しかも、今は情報漏洩事件の調査中です」

「……」

「関係者が証拠を隠す時間を与えてしまうかもしれません」

ハンノは深く息を吐いた。

「……確かにな」

俺は静かに言った。

「調査のために将軍を交代させた結果、調査そのものが難しくなる可能性があります」

ハンノはしばらく考え込んだ。

そして言った。

「アドン殿」

「はい」

「君なら、どうする?」

俺は少し考えた。

「将軍の指揮権を維持したまま、補給管理だけを独立して調査する方法を提案します」

ハンノが顔を上げた。

「独立して?」

「はい」

俺は頷いた。

「軍の指揮と、物資の会計監査を分けるんです」

ハンノは考え込んだ。

俺は続けた。

「将軍は軍を指揮する」

「うむ」

「監査担当者は、納入記録や支払い記録を確認する」

「……」

「ただし、監査担当者が軍の作戦情報を自由に閲覧できるわけではない」

ハンノは頷いた。

「ほう」

俺は続けた。

「そして、監査担当者には、今回の事件に関係していない人物を選ぶべきです」

ハンノは少し笑った。

「……アズバル・ハンノンは外すべきだということだな」

俺は答えた。

「少なくとも、本人に関係する疑惑を本人が調べるのは適切ではありません」

その日の夕方。

俺は父の商会へ戻った。

父は帳簿を確認していた。

「アドン」

「何?」

「政府の動きはどうだ?」

俺は説明した。

ハミルカル将軍の指揮責任。

指揮権停止の提案。

そして、マゴンを代行者にする案。

父は深く息を吐いた。

「……政治家たちは、軍のことを簡単に考えすぎているな」

俺は頷いた。

「そうだね」

父は続けた。

「軍は、指揮官を交代させればそのまま動くものではない」

「うん」

「兵士たちの信頼もある」

俺は頷いた。

「それに、現地の部族との関係もある」

父は顔を上げた。

「そうだな」

俺は続けた。

「ハミルカル将軍が結んだ協定や、現地の商人との契約もある」

父は考え込んだ。

「……ほう」

俺は静かに言った。

「将軍を交代させれば、軍だけでなく、ヒスパニア全体の関係が変わる可能性がある」

その夜。

俺は軍の補給記録を調べ直した。

目的は、ハミルカル将軍の責任を否定することではない。

何が起きたのかを、正確に確認するためだ。

まず、物資不足が発生した時期。

次に、民間倉庫への移送が始まった時期。

そして、政府監査官が関与した時期。

俺は三つの記録を並べた。

すると、一つのことに気づいた。

「……あれ?」

メルカルが顔を上げた。

「どうしました?」

俺は記録を指差した。

「この倉庫への移送、最初に始まったのはいつだ?」

メルカルが確認した。

「……ハミルカル将軍が現地の部族との交渉に出ていた時期ですね」

俺は頷いた。

「そうなんだ」

「将軍が不在だったんですか?」

「そう」

俺は続けた。

「その間、補給業務の一部は別の担当者が管理していた」

メルカルは首を傾げた。

「では、その担当者が?」

俺は首を振った。

「まだ分からない」

そして、別の記録を指差した。

「ただ、移送の承認欄に気になる印がある」

軍の補給記録には、承認者の印が押されていた。

通常なら、軍の担当将校の印がある。

だが、問題の移送記録には、別の印が押されていた。

俺は拡大して確認した。

いや、拡大鏡なんて便利なものはない。

明るい窓際へ持っていき、慎重に見比べた。

「……これは」

メルカルが尋ねた。

「何の印ですか?」

俺は答えた。

「軍の印じゃない」

「えっ?」

「政府の調達監督部門の印だ」

メルカルの表情が変わった。

「……政府の?」

俺は頷いた。

「そう」

そして、別の資料を確認した。

そこには、政府の調達監督部門から出された通達があった。

『軍倉庫の容量不足に対応するため、指定された民間倉庫の一時利用を認める』

俺は深く息を吐いた。

「……ほう」

つまり、軍の物資を民間倉庫へ移す仕組みは、政府側の通達によって認められていた可能性がある。

ただし、個々の移送が適切だったかどうかは別だ。

俺は静かに言った。

「……将軍だけの判断で行われたわけではないかもしれない」

翌朝。

俺はハンノへ資料を持っていった。

「確認していただきたい記録があります」

ハンノは頷いた。

「見せてくれ」

俺は移送記録と政府通達を並べた。

ハンノはしばらく黙って読んでいた。

そして、眉をひそめた。

「……これは」

俺は頷いた。

「政府の調達監督部門が、民間倉庫の利用を認めています」

ハンノは深く息を吐いた。

「確かに」

俺は続けた。

「そのため、民間倉庫への移送がすべて将軍の独断だったという説明は、正確ではないと思います」

ハンノは頷いた。

「……そうだな」

俺はさらに言った。

「ただし、将軍の監督責任がなくなるわけではありません」

ハンノは俺を見た。

俺は続けた。

「問題は、政府と軍のどちらが、何を管理する責任を負っていたのかです」

ハンノは静かに頷いた。

「……そのとおりだ」

ハンノは通達の末尾を確認した。

そして、表情を変えた。

「……アズバル・ハンノン」

俺は顔を上げた。

「えっ?」

ハンノは書類を指差した。

そこには、通達の起案者として、アズバル・ハンノンの名前が記載されていた。

俺は深く息を吐いた。

「……また、あの人ですか」

ハンノは頷いた。

「そうだ」

俺は考え込んだ。

アズバル・ハンノン。

民間倉庫の利用を認める通達に関わる。

その倉庫で物資不足が発生する。

さらに、情報漏洩事件が起きる。

そして、今度はハミルカル将軍の指揮責任を追及する。

俺は静かに呟いた。

「……自分が関わった制度の問題を、将軍の責任にしようとしている可能性がありますね」

ハンノは険しい表情になった。

「……慎重に扱う必要がある」

俺は頷いた。

「はい」

数日後。

カルタゴ政府で、ハミルカル将軍の指揮責任について審議が行われた。

会議室には、多くの政治家が集まっていた。

アズバル・ハンノンも出席している。

彼は立ち上がった。

「諸君!」

会議室が静かになった。

「ヒスパニア方面軍では、重大な補給管理上の問題が発生している!」

政治家たちが頷いた。

「物資の不足!」

「……」

「民間倉庫への不透明な移送!」

「……」

「そして、軍の補給情報の漏洩!」

アズバルは続けた。

「これらの問題について、現地軍の最高指揮官が責任を負うべきではないか!」

会議室がざわついた。

俺は黙って聞いていた。

アズバルはさらに言った。

「だからこそ、ハミルカル将軍の指揮権を一時停止し、政府の監督下で軍の管理体制を立て直すべきだ!」

一部の政治家が拍手した。

俺は深く息を吐いた。

……来たな。

議長が尋ねた。

「反対意見はあるか?」

ハンノが立ち上がった。

「ある」

会議室が静かになった。

ハンノは続けた。

「軍の補給問題を調査する必要があることには同意する」

アズバルが頷いた。

「当然だ」

ハンノは続けた。

「だが、民間倉庫の利用を認めたのは、軍だけではない」

会議室がざわついた。

アズバルの表情が変わった。

ハンノは書類を掲げた。

「政府の調達監督部門から、民間倉庫の利用を認める通達が出されている」

政治家たちが顔を見合わせた。

「……何?」

「政府の通達だと?」

ハンノは頷いた。

「そうだ」

そして続けた。

「しかも、その通達の起案者は、アズバル・ハンノン殿だ」

会議室が静まり返った。

アズバルは眉をひそめた。

「……それが何だ?」

ハンノは答えた。

「あなた自身が関わった制度のもとで問題が起きている」

「……」

「ならば、軍だけでなく、政府側の責任も調査する必要があるのではないか?」

アズバルは反論した。

「私は民間倉庫の利用を認めただけだ!」

ハンノは頷いた。

「その点は理解している」

「……」

「だが、管理方法や承認手続きが適切だったかどうかは、確認する必要がある」

会議室がざわついた。

俺は静かに思った。

……これで、少なくとも一方的な責任追及は難しくなる。

議長が俺に発言を求めた。

「アドン殿」

「はい」

「今回の補給記録について、説明してもらいたい」

俺は立ち上がった。

「承知しました」

そして、資料を並べた。

「まず、軍の物資不足が発生したことは事実です」

会議室が静かになる。

「ただし、その原因は一つとは限りません」

俺は続けた。

「輸送中の損失」

「……」

「倉庫間の移送記録の不備」

「……」

「請求数量と受領数量の不一致」

「……」

「そして、管理権限の不明確さ」

俺は議長を見た。

「これらを個別に確認する必要があります」

議長は頷いた。

俺はさらに続けた。

「また、軍の補給情報が外部へ漏れた疑いについても、調査が続いています」

アズバルが眉をひそめた。

俺は静かに言った。

「そのため、現時点で特定の人物だけに責任を集中させるのは、調査を難しくする可能性があります」

議長が尋ねた。

「では、どうするべきだと考える?」

俺は答えた。

「軍の指揮を維持しながら、独立した調査を進めるべきだと思います」

「独立した調査?」

「はい」

俺は頷いた。

「軍の指揮官だけでなく、政府の調達担当者、商会、倉庫管理者についても確認する」

会議室が静かになった。

俺は続けた。

「そして、調査に関係する人物は、調査を担当しない」

議長は考え込んだ。

「……ほう」

審議は長時間に及んだ。

ハミルカル将軍の指揮権を停止するべきだという意見。

調査が終わるまで維持するべきだという意見。

政府の監督を強化するべきだという意見。

さまざまな主張が出た。

そして、最終的に。

ハミルカル将軍の指揮権停止案は、保留となった。

代わりに、軍と政府の双方を対象とする調査が進められることになった。

俺は深く息を吐いた。

「……ひとまず、よかった」

だが、会議が終わった後。

アズバルが俺に近づいてきた。

「アドン殿」

「はい」

「君は、ずいぶんとハミルカル将軍に肩入れしているようだな」

俺は首を振った。

「事実を確認したいだけです」

アズバルは笑った。

「……そうか」

俺は頷いた。

「はい」

アズバルは続けた。

「だが、君は一つ忘れている」

俺は顔を上げた。

「何でしょう?」

アズバルは静かに言った。

「カルタゴは、将軍一人の国ではない」

俺は頷いた。

「そのとおりです」

アズバルは少し驚いた。

俺は続けた。

「だからこそ、政治家も商人も将軍も、同じように責任を確認されるべきだと思います」

アズバルの笑みが消えた。

俺は静かに頭を下げた。

「失礼します」

その夜。

俺は父の商会へ戻った。

父が尋ねた。

「どうだった?」

俺は答えた。

「将軍の指揮権停止は保留になった」

父は頷いた。

「そうか」

「ただし、調査は続く」

「当然だな」

俺は椅子に座った。

「……疲れた」

父は笑った。

「商人の仕事とは思えんな」

俺も笑った。

「本当に」

翌朝。

ハミルカル将軍から書簡が届いた。

俺は封を開いた。

『アドン殿。

本国での審議について報告を受けた。

感謝する。

ただし、今回の件で明らかになった問題は、軍の補給制度だけではない。

軍と政府の間で、責任と権限が曖昧になっていることだ。

この問題を改善しなければ、同じことが繰り返されるだろう。』

俺は頷いた。

「……そのとおりですね」

さらに読み進めた。

『また、アズルバルの調査について進展があった。

民間倉庫に移された物資の一部が、別の商会へ売却されていたことが確認された。

売却先については、現在調査中である。』

俺は眉をひそめた。

「……軍の物資を売った?」

メルカルが顔を上げた。

「どうしました?」

俺は説明した。

メルカルは驚いた。

「軍の食料を、勝手に売ったんですか?」

「その可能性がある」

俺は頷いた。

「ただし、正式な払い下げだった可能性もあるから、確認が必要だね」

俺はさらに書簡を読んだ。

そこには、売却された物資の種類が書かれていた。

穀物。

保存食。

鉄材。

そして、軍用の革製品。

俺は眉をひそめた。

「……かなり幅広いな」

さらに、売却先の商会名が記載されていた。

俺はその名前を見た瞬間、手が止まった。

『アウレリウス商会』

俺は深く息を吐いた。

「……また、この商会か」

ローマ方面で活動する商会。

バアルハンノ商会へ銀貨三万枚を送った商会。

そして、サグントゥムの港湾事業にも関わっていた商会だ。

俺は静かに呟いた。

「……軍の物資まで、この商会に流れていたのか」

だが、書簡にはさらに重要なことが書かれていた。

『なお、売却代金の一部は、カルタゴ本国の政治家に関係する商会へ送られていた可能性がある。』

俺は顔を上げた。

「……政治家?」

そして、最後の行を読んだ。

『その商会は、アズバル・ハンノンの親族が経営している。』

俺は書簡を机に置いた。

しばらく、何も言えなかった。

軍の物資が消える。

民間倉庫へ移される。

別の商会へ売られる。

代金が政治家の親族へ流れる。

そして、その政治家が将軍の責任を追及する。

俺は静かに呟いた。

「……ようやく、金の流れが見えてきたな」

メルカルが尋ねた。

「どうするんですか?」

俺は答えた。

「次は、売却代金を調べる」

そして、続けた。

「誰が受け取って、何に使ったのか」

俺は深く息を吐いた。

「戦争を防ぐには、まず戦争で儲けようとしている人間の仕組みを壊さないといけない」

だが、このときの俺には、まだ知る由もなかった。

アズバル・ハンノンが、すでにカルタゴ本国で新しい提案を準備していたことを。

それは、ハミルカル将軍の指揮権停止よりも、はるかに危険なものだった。

ヒスパニア方面軍の補給を、政府が直接管理するという提案だった。

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