↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したらカルタゴ人だったので、ハンニバルを勝たせてローマに勝利します  作者: レモンティー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
25/137

第二十五話 裏切り者だと思った将校が、誰よりもカルタゴを守ろうとしていた

アズルバル。

ハミルカル将軍の配下にいる補給担当将校。

俺が初めてヒスパニアへ渡ったときから、何度も世話になった人物だ。

軍の食料不足を調べたときも。

村からの物資徴発を見直したときも。

彼は協力してくれた。

そのアズルバルが、バアルハンノ商会の人間と密かに接触していた。

「……信じられないな」

俺は書簡を机に置いた。

メルカルが心配そうに尋ねる。

「アドン様。

アズルバル様が情報を漏らしていたのでしょうか?」

「まだ分からない」

俺は首を振った。

「会っていたというだけでは、裏切りの証拠にはならないよ」

「ですが、秘密にしていたんですよね?」

「そうだね」

俺は少し考えた。

「だからこそ、本人の話を聞く必要がある」

翌朝。

俺はハミルカル将軍へ返書を書いた。

『アズルバル殿については、以前から軍の補給業務で協力していただいています。

商会関係者との接触だけで不正を断定することはできません。

軍の判断を尊重しますが、可能であれば接触の目的を確認していただきたいと思います。』

書き終えると、メルカルに渡した。

「これを送ってくれる?」

「分かりました」

俺は深く息を吐いた。

本当なら、すぐにでもヒスパニアへ向かいたい。

だが、今の俺にはカルタゴ本国でやるべきことがある。

父の商会に対する特別監査。

軍需物資輸送契約の見直し。

そして、共同倉庫計画。

どれも途中で放り出すわけにはいかない。

俺は机の上の帳簿を見た。

「……やることが多すぎるな」

三日後。

ハミルカル将軍から返事が届いた。

俺はすぐに封を開いた。

そこには、意外なことが書かれていた。

『アズルバル本人から事情を聴いた。

彼は、バアルハンノ商会の軍連絡担当者と接触していたことを認めた。

ただし、軍の情報を渡したことは否定している。

接触の目的は、商会による不正な物資取引について情報を得るためだったと説明している。』

俺は眉をひそめた。

「……不正な物資取引?」

さらに読み進めた。

『アズルバルによれば、バアルハンノ商会が軍へ納入する物資の一部について、数量と実際の納入量が一致していない疑いがあるという。

彼は独自に調査していたが、正式な報告はまだ行っていなかった。』

俺は深く息を吐いた。

「……ほう」

アズルバルは、商会の不正を調べていたのかもしれない。

だが、それならなぜ秘密にしていたのだろう。

俺は続きを読んだ。

『本人は、軍内部にも商会と関係の深い人物がいる可能性を疑い、報告先を慎重に選んでいたと述べている。

現在、証言の裏付けを確認中である。』

俺は書簡を閉じた。

「……これは、思ったより複雑だな」

その日の午後。

俺はハンノを訪ねた。

「アズルバル殿について、新しい情報が入りました」

ハンノは頷いた。

「聞こう」

俺は書簡の内容を説明した。

ハンノは静かに考え込んだ。

「……つまり、軍の将校が商会の不正を独自に調べていたというのか」

「本人はそう説明しています」

「証拠は?」

「まだ確認中です」

ハンノは頷いた。

「慎重に扱う必要があるな」

俺も頷いた。

「はい」

ハンノは続けた。

「もし本当なら、軍内部の監督体制にも問題がある」

俺は答えた。

「そうですね」

「だが、もし嘘なら、情報漏洩を隠すための説明かもしれない」

俺は頷いた。

「その可能性もあります」

ハンノは少し笑った。

「……君は、簡単に人を信じないのだな」

俺は苦笑した。

「信じたい人ほど、確認が必要だと思っています」

数日後。

ハミルカル将軍から、さらに詳しい報告が届いた。

アズルバルが調べていたのは、軍へ納入された穀物だった。

記録上は、百袋。

だが、実際に倉庫へ届いたのは九十二袋。

別の輸送では、百五十袋のはずが百四十一袋。

さらに別の輸送でも、同じような差が出ていた。

俺は数字を確認した。

「……これは」

メルカルが尋ねた。

「どうしました?」

「以前、似たような問題を見たことがある」

「どこでですか?」

俺は答えた。

「軍の食料不足を調べたときだよ」

メルカルは頷いた。

「そうでしたね」

俺は続けた。

「帳簿には十分な食料があるのに、実際の倉庫には足りない」

「……」

「その差が、どこで生まれたのか」

俺は紙に書いた。

納入予定。

輸送記録。

倉庫受領記録。

実際の在庫。

「この四つを照合すれば、どこで減ったのか分かる可能性がある」

メルカルは頷いた。

「ほう」

さらに報告書を読み進める。

すると、アズルバルが独自に集めた記録について説明があった。

輸送船の積み荷記録。

港での荷降ろし記録。

軍倉庫の受領記録。

そして、商会から提出された請求書。

俺は数字を並べた。

ある輸送では、船から降ろされた穀物は百袋。

軍倉庫が受け取ったのは九十二袋。

ところが、商会の請求書には百袋と記載されている。

俺は眉をひそめた。

「……途中で八袋消えている」

メルカルが頷いた。

「はい」

俺は続けた。

「ただし、輸送中の損失かもしれない」

「そうですね」

「問題は、その損失が正式に記録されていないことだ」

メルカルは頷いた。

「ほう」

俺は深く息を吐いた。

「……また、記録の問題か」

だが、さらに気になることがあった。

不足している物資の多くが、バアルハンノ商会の輸送分だった。

もちろん、同商会の輸送量が多ければ、不足件数も増える可能性がある。

だから、件数だけでは判断できない。

俺はメルカルに言った。

「輸送量に対する不足の割合を確認しよう」

「割合ですか?」

「そう」

俺は頷いた。

「百袋運んで八袋足りないのと、千袋運んで八袋足りないのでは、意味が違うからね」

メルカルは頷いた。

「分かりました」

数時間後。

俺たちは記録を整理した。

すると、興味深いことが分かった。

複数の商会の輸送記録を比較すると、バアルハンノ商会の一部の輸送経路で、不足の割合が高かった。

特に、特定の港を経由した輸送で目立っていた。

俺は地図を広げた。

「……この港か」

メルカルが覗き込む。

「ヒスパニア沿岸の港ですね」

俺は頷いた。

「そう」

そして、さらに記録を確認した。

その港では、最近、倉庫の管理担当者が交代していた。

俺は眉をひそめた。

「……担当者が変わっている」

メルカルが尋ねた。

「関係がありますか?」

俺は答えた。

「まだ分からない」

そして続けた。

「でも、確認する価値はある」

俺はハミルカル将軍へ追加の報告を送った。

『不足が発生している輸送について、特定の港を経由する割合が高いようです。

その港の倉庫管理者が最近交代しているため、管理体制と受領記録の確認を提案します。

なお、アズルバル殿の説明が正しいかどうかについても、独立した記録との照合が必要と考えます。』

数日後。

将軍から返事が届いた。

『指摘された港について調査を行った。

倉庫管理者の交代後、受領記録の記載方法が変更されていた。

さらに、物資の一部が軍倉庫ではなく、民間倉庫へ一時的に移されていたことが判明した。』

俺は顔を上げた。

「……民間倉庫?」

続きを読んだ。

『移送先は、バアルハンノ商会が利用する倉庫だった。

移送の理由は、軍倉庫の容量不足と説明されている。

ただし、軍側に正式な承認記録が残っていない。』

俺は深く息を吐いた。

「……これは問題だな」

軍の物資を、一時的に民間倉庫へ移す。

それ自体は、事情によっては必要になることもある。

だが、正式な記録がなければ。

どこに何があるのか分からなくなる。

さらに、民間倉庫の管理者が物資を動かしても、軍が把握できない。

俺は静かに呟いた。

「……補給物資が、軍の管理から外れている」

メルカルが頷いた。

「危険ですね」

俺は答えた。

「かなり危険だよ」

その日の夕方。

ハミルカル将軍から、さらに短い書簡が届いた。

『アズルバルの説明について、一定の裏付けが確認された。

彼が独自に集めた記録は、港の原本と一致している。

また、商会の担当者との接触は、不足物資の行方を確認するためだった可能性が高い。

ただし、情報漏洩事件との関係については、引き続き調査する。』

俺は深く息を吐いた。

「……よかった」

少なくとも、アズルバルが不正を調べていたという説明には裏付けがある。

だが、情報漏洩の問題は残っている。

俺は静かに呟いた。

「……まだ終わっていないな」

数日後。

俺はカルタゴ本国で、軍需物資の管理方法について提案書をまとめた。

題名は。

『軍需物資の受領・保管・輸送に関する改善案』

内容は単純だ。

物資を受け取ったら、数量を確認する。

受領者の名前を記録する。

倉庫を移す場合は、移送元と移送先の双方で記録する。

民間倉庫を利用する場合は、軍の正式な承認を必要とする。

そして、請求書と実際の受領数量を照合する。

俺は最後に書いた。

『帳簿上の物資と、実際に存在する物資を一致させることが重要である。』

提案書をハンノへ渡すと、彼は少し笑った。

「……君は、本当に記録が好きだな」

俺も笑った。

「記録がなければ、確認できませんから」

ハンノは頷いた。

「確かに」

そして、真剣な表情になった。

「この案は、軍の補給制度を改善するために役立つだろう」

俺は頭を下げた。

「ありがとうございます」

だが、その日の夜。

思いがけない知らせが届いた。

ハミルカル将軍からの急使だった。

俺は書簡を開いた。

そこには、こう書かれていた。

『アドン殿。

不足していた軍需物資の一部を発見した。

場所は、バアルハンノ商会が利用していた民間倉庫である。

ただし、さらに重大な問題が判明した。

その倉庫には、軍から預かった物資だけではなく、別の荷物も保管されていた。』

俺は眉をひそめた。

「……別の荷物?」

続きを読んだ。

『荷物の一部には、ローマ方面の商会を示す印があった。

現在、所有者と用途を確認している。

さらに、倉庫の記録には、軍の補給予定に関する情報が含まれていた。』

俺は息を呑んだ。

「……何だって?」

メルカルが尋ねた。

「どうしました?」

俺は静かに答えた。

「軍の補給予定が、商会の倉庫に記録されていたらしい」

メルカルの顔色が変わった。

「……それは」

俺は頷いた。

「かなり危険だ」

だが、書簡はそこで終わっていなかった。

最後の部分には、こう書かれていた。

『なお、当該倉庫の管理記録を調べたところ、軍の補給予定を受け取っていた人物が判明した。

その人物は、バアルハンノ商会の軍連絡担当者ではなかった。

別の人物である。

しかも、その人物は――』

俺は、そこで手を止めた。

そして、続きを読んだ。

『カルタゴ政府の監査官の一人だった。』

俺は黙った。

政府の監査官。

父の商会を調べに来た、あの五人のうちの一人。

俺は深く息を吐いた。

「……やっぱり、監査が関係していたのか」

だが、まだ分からない。

その監査官が、誰の指示で動いていたのか。

そして、なぜ軍の補給予定を商会の倉庫へ持ち込んだのか。

俺は書簡を握りしめた。

「……今度こそ、情報の流れを突き止める」

そして、静かに呟いた。

「軍を守るための政府の監査が、軍を危険にさらしていたのなら、これは国家そのものの問題だ」

だが、このときの俺には、まだ知る由もなかった。

この事件の背後にいる人物が、すでに次の手を打っていたことを。

そして、その次の手は――ハミルカル将軍を、軍の指揮から外すためのものだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。