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転生したらカルタゴ人だったので、ハンニバルを勝たせてローマに勝利します  作者: レモンティー


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第二十一話 ローマの銀貨を調べたら、カルタゴの政治家が出てきた

翌朝。

サグントゥムの港は、いつも以上に騒がしかった。

理由は、一隻のローマ商船だった。

船から降ろされているのは、穀物でも布でもない。

小さな木箱。

それも、何十箱もある。

箱を運ぶ男たちは、周囲を警戒していた。

俺は少し離れた場所から、その様子を見ていた。

「……あれが全部、銀貨なのか?」

隣にいたメルカルが頷いた。

「はい。

港の荷役記録では、銀貨として申告されています」

「金額は?」

「銀貨三万枚です」

俺は思わず聞き返した。

「三万枚?」

「はい」

俺は深く息を吐いた。

大金だ。

普通の商取引でも大きな金額だが、問題はその受取人だった。

バアルハンノ商会。

カルタゴでも有数の大商会。

そして、俺が何度も不正を調べてきた相手だ。

「……ローマ方面からバアルハンノ商会へ、銀貨三万枚」

俺は呟いた。

もちろん、ローマの商船で運ばれたからといって、ローマ政府の金とは限らない。

商人の資金かもしれない。

借金の返済かもしれない。

商品の代金かもしれない。

だが、この時期に、この金額。

気にならない方がおかしい。

俺はメルカルに言った。

「まずは、誰が送った金なのか調べよう」

港の記録には、送金元の商会名が書かれていた。

『アウレリウス商会』

俺は首を傾げた。

「聞いたことがないな」

メルカルが頷いた。

「ローマ方面で活動する商会のようです」

「何を扱っている?」

「金属、穀物、それから船舶輸送です」

俺は考え込んだ。

「バアルハンノ商会と似ているな」

「そうですね」

俺は記録を確認した。

送金理由。

そこには、こう書かれていた。

『共同交易事業に伴う前払金』

俺は眉をひそめた。

「……共同交易事業?」

メルカルが尋ねた。

「普通の取引ではないんですか?」

「普通の取引かもしれない」

俺は答えた。

「でも、何を共同で行うのかが分からない」

メルカルは頷いた。

「ほう」

俺は続けた。

「商品を買うための前払金なら、商品の種類や数量が分かるはずなんだけど」

「記録にはありませんね」

「そうなんだ」

俺は深く息を吐いた。

「……契約内容を確認したいな」

その日の午後。

俺はネロンを訪ねた。

「アウレリウス商会をご存じですか?」

ネロンは少し考えた。

「名前は聞いたことがあります」

俺は顔を上げた。

「どんな商会ですか?」

「ローマ方面の商人たちと取引している商会です」

「ほう」

「ただし、サグントゥムではそれほど大きな取引実績はありません」

俺は眉をひそめた。

「それなのに、銀貨三万枚ですか」

ネロンは頷いた。

「私も驚きました」

俺は尋ねた。

「最近、何か大きな事業を始めるという話はありますか?」

ネロンは少し考えた。

「……港の施設を拡張するという噂があります」

俺は顔を上げた。

「港の施設?」

「はい」

「誰が?」

「バアルハンノ商会と、複数の商人が共同で行うそうです」

俺は黙った。

港。

また港だ。

バアルハンノ商会がサグントゥムへ提案した軍需物資供給契約。

そこには、支払いが滞った場合、港の一部施設の優先使用権を取得できるという条項があった。

さらに、その権利を第三者へ譲渡できる。

そして今度は、ローマ方面の商会から銀貨三万枚。

俺は静かに呟いた。

「……全部、港につながっているのか?」

翌日。

俺はサグントゥムの港湾管理者に会った。

名前はエルダン。

年配の男で、港の運営に長く関わっている人物だった。

「港の拡張計画ですか?」

俺が尋ねると、エルダンは頷いた。

「確かに話は出ています」

「どんな計画ですか?」

「新しい倉庫を建てる」

「はい」

「荷役設備を増やす」

「ほう」

「それから、船の修理施設を整備する」

俺は頷いた。

「悪くない計画ですね」

エルダンは笑った。

「そうだろう」

俺も笑った。

「港が便利になれば、交易も増えますから」

「そのとおりだ」

だが、俺は続けた。

「ただし、誰が費用を負担するんでしょう?」

エルダンは少し考えた。

「複数の商会が出資する予定だ」

「バアルハンノ商会も?」

「そうだ」

俺は頷いた。

「アウレリウス商会は?」

エルダンの表情が変わった。

「……よく知っているな」

俺は静かに答えた。

「港の記録で名前を見ました」

エルダンは頷いた。

「確かに、出資を検討している」

俺は少し考えた。

そして尋ねた。

「出資した商会には、どんな権利が与えられるんですか?」

エルダンは答えた。

「倉庫の優先利用や、荷役設備の使用権だ」

俺は頷いた。

「期間は?」

「まだ決まっていない」

「料金は?」

「それも協議中だ」

俺は深く息を吐いた。

また条件が決まっていない。

俺は静かに言った。

「……先に権利の範囲を決めた方がよさそうですね」

エルダンは首を傾げた。

「なぜだ?」

俺は答えた。

「港の設備は、都市の重要な財産だからです」

俺はエルダンに説明した。

例えば、新しい倉庫を商会が建てる。

その代わり、一定期間優先的に利用する。

それ自体は問題ない。

だが、優先使用権が広すぎれば、ほかの商人が利用できなくなる。

さらに、使用料金を自由に決められるようになれば、港の利用者が不利になる。

俺は続けた。

「港は、できるだけ多くの商人が使える方が発展します」

エルダンは頷いた。

「確かに」

「特定の商会だけが独占すれば、短期的には利益が出るかもしれません」

「……」

「ですが、長期的には交易が減る可能性があります」

エルダンは考え込んだ。

「……ほう」

俺は静かに言った。

「だから、出資者の利益と、都市全体の利益を両立させる必要があります」

エルダンは頷いた。

「分かった。

会議で検討しよう」

その日の夕方。

俺は宿で資料を整理していた。

すると、ハンニバルがやってきた。

「アドン」

「はい」

「また帳簿か?」

俺は笑った。

「はい」

ハンニバルは苦笑した。

「お前は本当に、帳簿ばかり見ているな」

俺も笑った。

「数字を見ると、いろいろ分かりますから」

ハンニバルは椅子に座った。

「何が分かった?」

俺は説明した。

ローマ方面から銀貨三万枚が運ばれてきたこと。

バアルハンノ商会が受け取ったこと。

港の拡張計画が進んでいること。

そして、軍需物資供給契約にも港の使用権に関する条項があること。

ハンニバルは腕を組んだ。

「……つまり、港を押さえたい者がいるのか?」

俺は頷いた。

「その可能性があります」

「ローマか?」

「まだ分かりません」

俺は答えた。

「ローマの商会が関わっていることと、ローマ政府が関わっていることは別です」

ハンニバルは少し考えた。

「……ほう」

俺は続けた。

「ただし、港を支配できれば、軍事的にも有利になります」

ハンニバルが顔を上げた。

「そうだな」

「船を入れられる」

「うむ」

「物資を保管できる」

「うむ」

「兵士や武器を運ぶこともできる」

ハンニバルは頷いた。

「……港は重要だ」

俺は静かに言った。

「だから、誰が権利を持つのか確認する必要があります」

翌日。

父から新しい書簡が届いた。

俺は封を開いた。

そこには、バアルハンノ商会についての追加情報が書かれていた。

『アウレリウス商会との取引について、カルタゴ本国でも情報を確認した。

両商会は以前から金属や穀物を取引している。

ただし、最近になって共同事業の規模が大きくなっているようだ。

また、バアルハンノ商会の一部の契約には、特定の政治家が仲介人として関わっている。』

俺は眉をひそめた。

「……政治家か」

さらに読み進めた。

そして、最後の部分で手が止まった。

『仲介人の名前は、アズバル・ハンノン。

以前、ヌミディアの馬の契約で特別調整費を受け取っていた人物と同一と思われる。』

俺は深く息を吐いた。

「……やっぱり、あの人か」

アズバル・ハンノン。

カルタゴの有力な政治家の一人。

以前、ヌミディアの馬の契約を調べたとき。

バアルハンノ商会から支払われた、不透明な特別調整費。

その受取人として名前が出ていた人物だ。

当時は、政治家としての影響力を利用していた可能性が疑われた。

だが、決定的な証拠はなかった。

そして今。

サグントゥムの港湾事業にも、同じ人物が関わっている。

俺は静かに呟いた。

「……これは偶然とは思えないな」

ただし、同じ人物が複数の契約に関わっているだけでは、不正の証拠にはならない。

正式な仲介業務かもしれない。

俺は筆を取った。

『アズバル・ハンノンの役割を確認する』

まずは、そこからだ。

数日後。

俺はマルコンと会っていた。

「アズバル・ハンノンをご存じですか?」

マルコンは頷いた。

「もちろんです」

「どんな人物ですか?」

マルコンは少し考えた。

「商人と政治家をつなぐのがうまい男です」

俺は頷いた。

「ほう」

「軍の調達契約にも、何度か関わっていました」

「そうなんですか」

「ええ」

マルコンは続けた。

「ただし、表に出ることは少ない」

俺は顔を上げた。

「なぜです?」

「契約の調整役だからです」

「調整役?」

「商会と役所の間に入り、話をまとめる」

俺は頷いた。

「ほう」

マルコンは静かに言った。

「だが、調整役という立場は便利です」

俺は顔を上げた。

「便利?」

「どちらの側からも金を受け取れるからです」

俺は黙った。

マルコンは続けた。

「もちろん、正当な報酬なら問題ありません」

「そうですね」

「だが、契約の内容を有利にする見返りとして金を受け取っているなら、話は別です」

俺は頷いた。

「そのとおりです」

俺は尋ねた。

「アズバル・ハンノンが、サグントゥムの港湾事業に関わっている理由は何でしょう?」

マルコンは少し考えた。

「……恐らく、政治的な調整でしょう」

「政治的な調整?」

「カルタゴ側の商会が、外国の都市で大きな権利を得るには、さまざまな問題がある」

俺は頷いた。

「そうですね」

「その問題を解決するために、政治家の力を使う」

俺は考え込んだ。

「……ほう」

マルコンは続けた。

「ただし、今回はローマ方面の商会まで関わっている」

俺は顔を上げた。

「はい」

「それが気になる」

俺も頷いた。

「私もです」

その日の午後。

俺はルキウス・ファビウスを訪ねた。

ローマの使節だ。

彼は俺を見ると、少し笑った。

「アドン殿」

「こんにちは」

「また何か調べているのですか?」

俺は苦笑した。

「どうして分かるんです?」

ルキウスは笑った。

「あなたが来るときは、たいてい何か質問がある」

俺も笑った。

「確かに」

そして、尋ねた。

「アウレリウス商会をご存じですか?」

ルキウスは頷いた。

「名前は知っています」

「どんな商会ですか?」

「ローマ方面で交易を行う商会です」

俺は頷いた。

「最近、バアルハンノ商会へ大きな資金を送っています」

ルキウスは少し考えた。

「……そうですか」

「ご存じありませんでしたか?」

「商人同士の取引すべてを把握しているわけではありません」

俺は頷いた。

「当然ですね」

そして続けた。

「ただし、その資金がサグントゥムの港湾事業に使われる可能性があります」

ルキウスの表情が変わった。

「……港湾事業?」

「はい」

俺は説明した。

港の倉庫。

荷役設備。

修理施設。

そして、出資者に与えられる使用権。

ルキウスは黙って聞いていた。

やがて、静かに言った。

「……ほう」

俺は尋ねた。

「ローマ政府は、この計画に関わっていますか?」

ルキウスは首を振った。

「少なくとも、私が任された外交交渉の範囲にはありません」

俺は頷いた。

「分かりました」

ルキウスは続けた。

「ただし、ローマの商人が外国の港へ出資すること自体は珍しくありません」

「そうですね」

俺は頷いた。

「問題は、その権利が軍事利用につながるかどうかです」

ルキウスは俺を見た。

そして、静かに言った。

「……あなたは、そこまで考えているのですね」

俺は笑った。

「港は重要ですから」

その夜。

俺は資料を整理した。

バアルハンノ商会。

アウレリウス商会。

銀貨三万枚。

港湾拡張計画。

軍需物資供給契約。

そして、アズバル・ハンノン。

俺は紙に関係を書き出した。

だが、まだ一つ足りない。

資金の最終的な使い道だ。

銀貨三万枚が、港湾事業のための資金なら理解できる。

だが、軍需物資供給契約にも関係しているなら、話が変わる。

俺は静かに呟いた。

「……金の流れを追う必要があるな」

翌朝。

ネロンが慌ててやってきた。

「アドン殿!」

「どうしました?」

「港湾拡張計画について、正式な契約案が提出されました!」

俺は顔を上げた。

「本当ですか?」

ネロンは頷いた。

「はい」

「内容は?」

ネロンは書類を差し出した。

俺は受け取った。

そして、読み始めた。

倉庫の建設。

荷役設備の整備。

船舶修理施設。

出資者の優先使用権。

ここまでは予想どおりだった。

だが、次の条項を読んだ瞬間、俺の手が止まった。

『港湾施設の優先使用権は、出資者が指定する第三者へ譲渡できる』

俺は眉をひそめた。

「……また譲渡条項か」

ネロンが頷いた。

「はい」

俺は続けて読んだ。

そして、さらに驚いた。

『有事においては、出資者の指定する船舶に対し、優先的な入港および荷役を認める』

俺は黙った。

有事。

つまり、戦争や軍事的な緊張が高まった場合。

そのとき、出資者が指定した船を優先的に港へ入れる。

俺は深く息を吐いた。

「……これは危険だ」

ネロンが尋ねた。

「なぜです?」

俺は答えた。

「指定する船舶に制限がありません」

「……」

「商船だけでなく、軍の輸送船も含まれるように読めます」

ネロンの表情が変わった。

「……軍の輸送船?」

俺は頷いた。

「はい」

そして続けた。

「もしローマ側の商会が使用権を取得し、ローマ軍の輸送船を指定したら?」

ネロンは黙った。

俺はさらに続けた。

「逆に、カルタゴ側の商会が同じことをしたら?」

ネロンは深く息を吐いた。

「……どちらにしても、サグントゥムの港が軍事利用される可能性がありますね」

俺は頷いた。

「そうです」

俺はすぐに提案書を書いた。

『サグントゥム港湾事業に関する修正案』

第一に、港湾施設の使用権を第三者へ譲渡する場合、都市の正式な承認を必要とする。

第二に、軍用船舶の利用は、通常の商業契約とは別に扱う。

第三に、港湾施設の利用料金を公開する。

第四に、特定の商会が港全体を独占できないようにする。

第五に、契約終了時には施設の管理権を都市へ戻す。

俺はネロンに渡した。

「これを会議で検討してもらえませんか?」

ネロンは頷いた。

「分かりました」

数日後。

サグントゥムの有力者会議が開かれた。

俺の修正案は、予想以上に支持された。

商人たちは、港の独占を嫌っていた。

さらに、軍事利用の問題も大きかった。

議長が言った。

「港は、サグントゥムの財産だ」

有力者たちが頷いた。

「特定の商会に、自由に軍用船を入れる権利を与えるわけにはいかない」

ネロンも頷いた。

「そのとおりです」

こうして、港湾事業の契約案は修正されることになった。

俺は少し安心した。

だが、問題はまだ残っている。

バアルハンノ商会は、なぜあの条件を求めたのか。

そして、銀貨三万枚は何に使われるのか。

その日の夕方。

俺のもとに、思いがけない人物が訪ねてきた。

男はカルタゴ人だった。

年齢は四十代ほど。

身なりはよいが、表情は険しい。

男は名乗った。

「私は、バアルハンノ商会の会計担当をしている者です」

俺は驚いた。

「……バアルハンノ商会の?」

男は頷いた。

「はい」

「何かご用ですか?」

男は周囲を確認した。

そして、小さな声で言った。

「アドン殿。

あなたに見ていただきたい帳簿があります」

俺は顔を上げた。

「帳簿?」

男は頷いた。

「はい」

「どんな帳簿ですか?」

男は静かに答えた。

「サグントゥムの港湾事業に関する、内部の資金記録です」

俺は黙った。

ついに、内部の情報が出てきた。

だが、男は続けた。

「ただし、条件があります」

俺は尋ねた。

「何でしょう?」

男は答えた。

「私の名前を、絶対に出さないでください」

俺は少し考えた。

そして頷いた。

「安全には十分配慮します。

ただ、正式な調査で証言が必要になる可能性まで、私には保証できません」

男は深く息を吐いた。

「……分かっています」

そして、懐から小さな帳簿を取り出した。

俺は受け取った。

最初のページを開く。

そこには、銀貨三万枚の受領記録があった。

俺は頷いた。

「……これですね」

男は答えた。

「はい」

俺は次のページをめくった。

港湾施設の建設費。

倉庫の整備費。

船舶修理設備。

そして、仲介手数料。

俺は数字を確認した。

だが、最後の項目を見た瞬間、手が止まった。

『特別政治調整費 銀貨五千枚』

俺は眉をひそめた。

「……また特別調整費か」

男は頷いた。

「はい」

俺は尋ねた。

「受取人は?」

男は静かに答えた。

「アズバル・ハンノンです」

俺は深く息を吐いた。

やはり、同じ政治家だった。

だが、さらに問題があった。

俺は次のページをめくった。

そこには、銀貨三万枚の資金配分が書かれていた。

港湾事業。

軍需物資の仕入れ。

政治調整費。

そして――

『特別対外活動費 銀貨二千枚』

俺は顔を上げた。

「……これは何ですか?」

男は黙った。

俺は静かに尋ねた。

「対外活動費とは?」

男はしばらく迷っていた。

そして、低い声で答えた。

「……サグントゥムの世論を動かすための費用です」

俺は息を呑んだ。

「世論を?」

男は頷いた。

「はい」

「具体的には?」

男は答えた。

「集会を開く者への支払い」

「……」

「噂を広める者への報酬」

「……」

「そして、カルタゴとの交易協定に反対する者たちへの資金提供です」

俺は黙った。

ほう。

ここで、ようやくつながった。

カルタゴ軍が侵攻するという噂。

交易協定への反対運動。

そして、軍備拡張の要求。

それらを利用して、バアルハンノ商会は軍需物資の販売を増やそうとしていた可能性がある。

だが、俺はさらに尋ねた。

「商隊襲撃事件にも関係していますか?」

男の表情が変わった。

「……それは」

俺は黙って待った。

男は深く息を吐いた。

そして答えた。

「……その件についても、支払い記録があります」

俺は顔を上げた。

「本当ですか?」

男は頷いた。

「はい」

そして、帳簿の最後のページを開いた。

そこには、一つの名前が書かれていた。

『ドーガ』

俺は息を呑んだ。

商隊襲撃事件で逮捕された仲介商人。

その名前が、バアルハンノ商会の内部帳簿に記載されていた。

俺は静かに呟いた。

「……ついに、つながったか」

だが、男は続けた。

「アドン殿」

「はい」

「まだ、重要なことがあります」

俺は顔を上げた。

「何でしょう?」

男は青ざめた顔で言った。

「この計画は、バアルハンノ商会だけで決めたものではありません」

俺は黙った。

男は続けた。

「カルタゴ本国の政治家たちも関わっています」

俺は深く息を吐いた。

「……やはり」

そして、男は最後にこう言った。

「しかも、彼らはサグントゥムだけを狙っているわけではありません」

俺は顔を上げた。

「……どういうことです?」

男は静かに答えた。

「ヒスパニア各地で、同じような計画を進めています」

俺は帳簿を握りしめた。

「……何だって?」

男は頷いた。

「都市の不安を煽り、軍備を拡張させ、借金を負わせる」

「……」

「そして、返済できなくなった都市から、港や交易路の権利を取得する」

俺は黙った。

それは単なる商売ではない。

都市の不安と借金を利用して、重要な施設を押さえる仕組みだった。

そして、その過程で軍事的な衝突が起きれば。

カルタゴとローマの関係は、さらに悪化する。

俺は静かに呟いた。

「……このままでは、本当に戦争になる」

そして、俺は決意した。

サグントゥムだけではない。

ヒスパニア全体で、この計画を止めなければならない。

だが、そのためには。

カルタゴ本国の政治家たちを、再び敵に回す必要があった。

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