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転生したらカルタゴ人だったので、ハンニバルを勝たせてローマに勝利します  作者: レモンティー


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第二十話 敵の商会を調べたら、ローマとの戦争で儲ける計画が見つかった

翌朝。

俺はサグントゥムの港へ向かった。

目的は、バアルハンノ商会の動きを調べることだ。

バアルハンノ商会。

カルタゴでも有数の大商会。

軍への物資納入。

船舶輸送。

金属取引。

穀物売買。

そして、政治家たちとのつながり。

その影響力は、単なる商人の範囲を超えている。

以前、ヌミディアの馬の代金未払い問題を調べたときも、商会の背後には政治家たちがいた。

今回も同じとは限らない。

だが、気になることがある。

なぜ、今になってサグントゥムへ進出するのか。

しかも、カルタゴとローマの関係が緊張している、この時期に。

俺は港を見渡した。

「……まずは、何を運んできたのか調べよう」

港には多くの船が停泊していた。

カルタゴの商船。

マッシリアの商船。

ヒスパニア沿岸の小型船。

そして、遠方から来た交易船。

俺は港の荷役記録を確認した。

メルカルが隣で帳簿を開く。

「アドン様」

「何?」

「バアルハンノ商会の船は、三日前に到着しています」

「積み荷は?」

「穀物、布、陶器、それから金属製品です」

俺は頷いた。

「普通の商品だね」

「はい」

「量は?」

メルカルが数字を確認した。

「穀物はそれほど多くありません」

「金属製品は?」

「かなり多いです」

俺は顔を上げた。

「……どれくらい?」

メルカルが記録を見せた。

俺は眉をひそめた。

通常の交易船としては、金属製品の割合が高い。

ただし、それだけで怪しいとは言えない。

ヒスパニアでは、農具や工具の需要もある。

俺は続けて尋ねた。

「荷物の送り先は?」

メルカルは帳簿を確認した。

「複数の商人になっています」

「名前は?」

メルカルが読み上げた。

その中に、一つ気になる名前があった。

「……ルキオ商会?」

「はい」

俺は深く息を吐いた。

サグントゥムでローマとの関係を重視している商人。

そして、カルタゴ商人への通行料を引き上げていた人物。

そのルキオの商会が、バアルハンノ商会から大量の商品を仕入れている。

俺は静かに呟いた。

「……つながっていたのか」

だが、取引があること自体は問題ではない。

商人同士が商品を売買するのは当然だ。

俺はメルカルに言った。

「取引量の変化を調べよう」

「以前と比較するんですね?」

「そう」

俺は頷いた。

「急に増えている商品があれば、その理由を知りたい」

メルカルは笑った。

「分かりました」

数時間後。

俺たちは過去の荷役記録を整理した。

すると、興味深いことが分かった。

バアルハンノ商会とルキオ商会の取引は、以前から存在していた。

だが、最近になって急増している。

特に増えていたのは、鉄材だった。

俺は記録を見つめた。

「……また鉄か」

メルカルが頷いた。

「はい」

「以前、サグントゥムの鍛冶工房でも、鉄材の注文が増えていたよね」

「そうです」

俺は少し考えた。

「つまり、バアルハンノ商会が運んだ鉄材の一部が、ルキオ商会を通じて鍛冶工房へ流れている可能性がある」

メルカルは頷いた。

「そうですね」

俺は続けた。

「ただし、まだそれだけじゃない」

「何がです?」

「誰が代金を払っているのか」

メルカルは顔を上げた。

「代金?」

俺は頷いた。

「そこが重要なんだ」

商売には、必ず金の流れがある。

商品を仕入れる。

運ぶ。

売る。

そして、代金を受け取る。

そのどこかに、不自然な動きがあれば、理由がある。

俺は港の記録と商人たちの証言を整理した。

すると、ルキオ商会が仕入れた鉄材の一部について、支払い条件が通常と違うことが分かった。

代金の支払いが、かなり先延ばしになっている。

俺は首を傾げた。

「……信用取引か」

メルカルが尋ねた。

「問題がありますか?」

「信用取引自体は普通だよ」

俺は答えた。

「ただし、金額が大きい」

「そうですね」

「しかも、支払い期限が長い」

俺は記録を指差した。

「つまり、バアルハンノ商会がルキオ商会に資金を貸しているのと似た状態なんだ」

メルカルが目を見開いた。

「……ほう!」

俺は頷いた。

「商品を先に渡して、代金は後で受け取る」

「はい」

「その間、ルキオ商会は資金を別のことに使える」

メルカルは考え込んだ。

「……武器の製造でしょうか?」

俺は首を振った。

「まだ分からない」

ただ、気になる。

バアルハンノ商会は、なぜそこまで有利な条件を与えているのだろう。

その日の午後。

俺はネロンを訪ねた。

「バアルハンノ商会をご存じですか?」

ネロンは頷いた。

「もちろんです」

「最近、サグントゥムで取引を増やしているようですね」

「そうですね」

俺は尋ねた。

「評判はどうですか?」

ネロンは少し考えた。

「大きな商会ですから、商品を安定して供給できるという評価はあります」

「ほう」

「ただし、気になる話もあります」

俺は顔を上げた。

「どんな話ですか?」

ネロンは声を落とした。

「一部の商人にだけ、非常に有利な条件を提示しているそうです」

俺は頷いた。

「例えば?」

「代金の支払いを長期間待つ」

「……」

「大量の商品を優先的に供給する」

「……」

「さらに、軍事関係の商品についても、特別な契約を提案しているようです」

俺は眉をひそめた。

「軍事関係?」

ネロンは頷いた。

「はい」

俺は静かに尋ねた。

「どんな契約ですか?」

ネロンは答えた。

「サグントゥムの防衛力を強化するための物資供給契約です」

俺は黙った。

ほう。

バアルハンノ商会は、サグントゥムの軍備拡張に関わろうとしている。

それ自体は商売として理解できる。

だが、俺は深く息を吐いた。

「……誰が費用を負担するんでしょうね」

ネロンは首を振った。

「分かりません」

翌日。

俺はルキオ商会を訪ねた。

ルキオは少し驚いた様子だった。

「アドン殿」

「こんにちは」

「何かご用ですか?」

俺は笑った。

「最近、バアルハンノ商会と取引を増やしていると聞きまして」

ルキオの表情が変わった。

「……それが何か?」

俺は首を振った。

「いえ。

商人同士の取引ですから、問題はありません」

ルキオは少し安心したようだった。

俺は続けた。

「ただ、サグントゥムの市場が変わってきたので、状況を知りたいと思ったんです」

ルキオは頷いた。

「ほう」

俺は尋ねた。

「鉄材の需要が増えているようですね」

「そうですね」

「都市の防衛力を強化するためですか?」

ルキオは頷いた。

「そのとおりです」

俺は少し考えた。

そして尋ねた。

「防衛力の強化には、かなり費用がかかるのではありませんか?」

ルキオは苦笑した。

「もちろんです」

「資金は足りているんですか?」

ルキオは少し笑った。

「そこは商人の腕の見せどころです」

俺も笑った。

「確かに」

だが、次の言葉が気になった。

「幸い、協力してくれる商会もありますからね」

俺は顔を上げた。

「協力してくれる商会?」

ルキオは頷いた。

「ええ」

俺は静かに尋ねた。

「バアルハンノ商会ですか?」

ルキオは一瞬、黙った。

そして笑った。

「……よくご存じですね」

俺も笑った。

「同じカルタゴの商人ですから」

俺は続けた。

「バアルハンノ商会は、どのような条件で協力しているんですか?」

ルキオは首を振った。

「それは商売上の秘密です」

俺は頷いた。

「当然ですね」

「申し訳ありません」

「いえ」

俺は笑った。

「無理に聞くつもりはありません」

そして、別の質問をした。

「ただ、一つだけ確認したいことがあります」

「何でしょう?」

「サグントゥムとカルタゴの交易協定が成立しても、バアルハンノ商会との契約に問題はありませんか?」

ルキオは黙った。

俺は続けた。

「交易協定が成立すれば、カルタゴ商人の取引は増えるでしょう」

「……」

「競争も激しくなると思います」

ルキオは少し考えた。

「……そうですね」

俺は頷いた。

「その場合、バアルハンノ商会との特別な契約はどうなるんでしょう?」

ルキオは答えなかった。

俺は静かに言った。

「もしかして、交易協定が成立しない方が都合がよい契約なんでしょうか?」

ルキオの表情が変わった。

「……何を言いたいのです?」

俺は首を振った。

「まだ何も分かりません」

そして、頭を下げた。

「失礼しました」

商会を出た後。

メルカルが尋ねた。

「アドン様」

「何?」

「ルキオ殿は、何か隠しているんでしょうか?」

俺は頷いた。

「隠していることはあると思う」

「やはり!」

「でも、商人なら契約条件を秘密にするのは普通だよ」

メルカルは黙った。

俺は続けた。

「問題は、その契約が何を目的としているかだね」

その夜。

俺は資料を整理した。

バアルハンノ商会。

ルキオ商会。

鉄材の大量供給。

長期の信用取引。

サグントゥムの軍備拡張。

そして、カルタゴ商人への襲撃事件。

俺は紙に書いた。

『交易協定が成立すると困る者は誰か』

まず、従来の通行料で利益を得ていた商人。

次に、独占的な交易契約を持つ商会。

さらに、軍備拡張によって利益を得る商人。

俺は考えた。

もしカルタゴとローマの緊張が高まれば。

サグントゥムは防衛力を強化する。

武器が必要になる。

鉄材が必要になる。

食料備蓄も必要になる。

そして、それらを供給する商人が儲かる。

俺は静かに呟いた。

「……戦争そのものではなく、戦争の準備で儲けるのか」

それなら、説明がつく部分もある。

ただし、まだ推測にすぎない。

俺は筆を置いた。

「……証拠が必要だな」

翌朝。

思いがけない人物が俺を訪ねてきた。

年配の男だった。

質素な衣服。

日に焼けた顔。

そして、どこか見覚えのある雰囲気。

男は名乗った。

「マルコンと申します」

俺は驚いた。

「……マルコン殿?」

以前、軍の調達業務に関わっていた人物だ。

「お久しぶりです」

マルコンは頷いた。

「アドン殿。

少し話がありましてな」

俺は椅子を勧めた。

「どうぞ」

マルコンは座ると、静かに言った。

「バアルハンノ商会を調べているそうですな」

俺は顔を上げた。

「……ご存じでしたか」

「ええ」

マルコンは頷いた。

「軍の調達に関わっていた頃、あの商会とは何度も取引しました」

俺は静かに尋ねた。

「何かご存じなんですか?」

マルコンは少し考えた。

そして答えた。

「昔から、あの商会は軍事需要を読むのがうまかった」

「軍事需要?」

「戦争が始まる前に、必要な物資を買い集めるんです」

俺は頷いた。

「ほう」

「鉄材」

「……」

「穀物」

「……」

「木材」

「……」

「そして、馬」

俺は顔を上げた。

馬。

ヌミディアの未払い問題を思い出した。

マルコンは続けた。

「戦争が始まれば、それらの値段は上がる」

「そうですね」

「だから、戦争が始まる前に仕入れておく」

俺は頷いた。

「商売としては理解できます」

マルコンは静かに言った。

「問題は、戦争が起きなかった場合です」

俺は顔を上げた。

「……どういう意味です?」

マルコンは続けた。

「大量の物資を買い集めた後で、戦争が起きなければ、価格が下がることもある」

俺は頷いた。

「そうですね」

「だから、戦争が起きると都合がよい商人も出てくる」

俺は黙った。

マルコンは静かに言った。

「……昔から、そういう商人はいました」

俺は尋ねた。

「バアルハンノ商会が、今回も同じことをしていると思いますか?」

マルコンは首を振った。

「断定はできません」

俺は頷いた。

「そうですね」

マルコンは続けた。

「ただし、気になる情報があります」

「何でしょう?」

「最近、バアルハンノ商会が軍需物資の仕入れを増やしています」

俺は顔を上げた。

「どれくらい?」

「かなりの量です」

「どこで?」

「カルタゴ本国だけではありません」

マルコンは続けた。

「ヒスパニアでも、北アフリカでも」

俺は深く息を吐いた。

「……広範囲ですね」

マルコンは頷いた。

「ええ」

俺は尋ねた。

「その情報は、どこから?」

マルコンは答えた。

「以前の知り合いの商人たちからです」

俺は頷いた。

「ほう」

まだ証拠としては弱い。

だが、調べる価値はある。

その日の午後。

俺は父の商会へ連絡を送った。

内容は、バアルハンノ商会の最近の取引状況を確認してほしいというものだった。

ただし、合法的に確認できる範囲で。

港の荷役記録。

市場価格。

公開されている取引情報。

そして、商人たちの証言。

俺は書簡の最後に、こう書いた。

『バアルハンノ商会が軍需物資を大量に買い集めている可能性があります。

ただし、現時点では不正の証拠はありません。

価格変動と取引量を確認してください。』

数日後。

父から返事が届いた。

俺は封を開いた。

そこには、驚くべき数字が書かれていた。

鉄材の仕入れ量。

穀物の仕入れ量。

木材の仕入れ量。

そして、馬の購入契約。

いずれも、以前より大幅に増えていた。

俺は眉をひそめた。

「……これは」

メルカルが尋ねた。

「どうしました?」

俺は答えた。

「バアルハンノ商会は、本当に軍需物資を買い集めている」

メルカルが驚いた。

「そんなに?」

俺は頷いた。

「ただし、これだけでは違法とは言えない」

「そうですね」

俺は続けた。

「でも、問題はその先だ」

「その先?」

俺は紙を指差した。

「もし戦争が起きれば、これらの商品は高く売れる」

「はい」

「逆に、平和が続けば、期待したほど儲からないかもしれない」

メルカルは考え込んだ。

「……つまり」

俺は静かに答えた。

「戦争が起きた方が、利益になる可能性がある」

だが、まだ分からないことがあった。

バアルハンノ商会は、単に戦争を予想しているだけなのか。

それとも、戦争が起きるように動いているのか。

この二つは、まったく違う。

前者なら、商人としての判断だ。

後者なら、国家を危険にさらす行為になる。

俺は静かに呟いた。

「……そこを間違えてはいけないな」

その夜。

俺はネロンと会っていた。

「アドン殿」

「はい」

「実は、気になる話があります」

俺は顔を上げた。

「何でしょう?」

ネロンは声を落とした。

「ルキオ商会が、サグントゥムの有力者たちに新しい提案をしているそうです」

「どんな提案ですか?」

「都市の防衛力を大幅に強化する計画です」

俺は頷いた。

「ほう」

「ですが、その費用がかなり大きい」

「どれくらい?」

ネロンは金額を告げた。

俺は驚いた。

「……そんなに?」

「はい」

「都市の財政で払えるんですか?」

ネロンは首を振った。

「難しいと思います」

俺は考え込んだ。

「……では、どうするつもりなんでしょう?」

ネロンは答えた。

「バアルハンノ商会が、長期の支払いを認めるそうです」

俺は黙った。

ほう。

軍備拡張のための商品を先に納入する。

代金は後で受け取る。

つまり、都市が商会に借金をする形になる。

俺は静かに尋ねた。

「利息は?」

ネロンは首を振った。

「分かりません」

「担保は?」

ネロンも首を振った。

「それも分かりません」

俺は深く息を吐いた。

「……そこが一番重要なのに」

翌日。

俺はサグントゥムの有力者会議に出席した。

議題は、都市の防衛力強化だった。

ルキオが立ち上がった。

「現在、我々の都市は不安定な状況にあります」

有力者たちが頷いた。

「カルタゴ軍はヒスパニアで勢力を拡大している」

「……」

「ローマとの関係も、まだ正式には決まっていない」

「……」

「だからこそ、我々自身の防衛力を強化する必要があります」

俺は黙って聞いていた。

防衛力を強化すること自体には反対しない。

問題は費用だ。

ルキオは続けた。

「幸い、バアルハンノ商会が協力を申し出ています」

会議室がざわついた。

「武器」

「……」

「鉄材」

「……」

「食料備蓄」

「……」

「さらに、防衛施設の整備に必要な資材も供給できます」

議長が尋ねた。

「費用は?」

ルキオは答えた。

「長期の分割払いが可能です」

有力者たちが顔を見合わせた。

「それなら、すぐに整備できるな」

「悪くない話だ」

俺は静かに手を挙げた。

「一つ、確認してもよろしいでしょうか?」

議長が頷いた。

「アドン殿、どうぞ」

俺はルキオを見た。

「分割払いの条件を教えていただけますか?」

ルキオは少し顔をしかめた。

「……条件?」

「はい」

俺は頷いた。

「支払い期間、利息、担保です」

会議室が静かになった。

ルキオは答えた。

「詳細は、これから協議します」

俺は頷いた。

「ほう」

そして続けた。

「では、まだ契約条件は決まっていないんですね?」

「そうです」

俺は静かに言った。

「それなら、条件が決まるまで契約を承認しない方がよいと思います」

ルキオの表情が変わった。

「……なぜです?」

俺は答えた。

「都市が長期の債務を負う可能性があるからです」

会議室がざわついた。

俺は続けた。

「武器や食料を先に受け取ることはできます」

「……」

「ですが、代金を払えなくなった場合、何を失うのか」

俺は議長を見た。

「そこを確認する必要があります」

議長は頷いた。

「……確かに」

ルキオは反論した。

「しかし、今は防衛力の強化が必要です!」

俺は頷いた。

「その点には同意します」

ルキオは少し驚いた。

俺は続けた。

「ですが、急いでいるからこそ、契約条件を明確にするべきです」

「……」

「例えば、支払いが遅れた場合に港の使用権を渡すような条件があれば、都市の自治にも関わります」

会議室が静かになった。

議長が顔を上げた。

「……港の使用権?」

俺は頷いた。

「例え話です」

そして続けた。

「ですが、担保の内容によっては、軍事的な問題より大きな影響が出るかもしれません」

議長は考え込んだ。

「……ほう」

俺は静かに言った。

「防衛のために借金をした結果、都市の重要な権利を失ってしまっては、本末転倒です」

会議の結果。

バアルハンノ商会との契約は、条件を確認するまで保留となった。

俺は少し安心した。

だが、ルキオは不満そうだった。

会議が終わった後。

彼が俺に声をかけてきた。

「アドン殿」

「はい」

「あなたは、我々の防衛力強化を妨害するつもりですか?」

俺は首を振った。

「いいえ」

「では、なぜ反対するのです?」

俺は答えた。

「契約条件を確認したいだけです」

ルキオは眉をひそめた。

「……」

俺は続けた。

「もし条件が適切なら、反対する理由はありません」

ルキオは黙った。

俺は静かに言った。

「ですが、条件が不明なまま大きな借金をするのは危険です」

ルキオは深く息を吐いた。

「……商人らしい考え方ですね」

俺は笑った。

「商人ですから」

その日の夕方。

俺のもとに、思いがけない知らせが届いた。

ネロンが駆け込んできた。

「アドン殿!」

「どうしました?」

「バアルハンノ商会の契約書の写しが手に入りました!」

俺は驚いた。

「本当ですか?」

ネロンは頷いた。

「はい!」

「どうやって?」

「都市の財政を担当する者が、内容を確認してほしいと渡してくれたんです」

俺は頷いた。

「ほう」

正式な確認のために共有された資料なら、問題ない。

俺は契約書を受け取った。

そして、内容を読み始めた。

武器の供給。

鉄材の納入。

食料備蓄。

防衛施設の整備。

支払い期間。

利息。

そして、担保。

俺は最後の項目を読んだ。

その瞬間、手が止まった。

「……何だ、これ」

ネロンが尋ねた。

「どうしました?」

俺は契約書を指差した。

そこには、こう書かれていた。

『支払いが一定期間滞った場合、債権者はサグントゥム港の一部施設について、優先使用権を取得する』

俺は深く息を吐いた。

「……やっぱり、港か」

だが、それだけではなかった。

次の条項を読んだ瞬間、俺はさらに驚いた。

『都市が外部勢力との武力衝突に入った場合、供給価格は特別戦時価格へ変更される』

俺は眉をひそめた。

戦争が始まれば、価格が上がる。

つまり、サグントゥムが戦争に巻き込まれるほど、バアルハンノ商会の売上は増える仕組みだ。

ただし、売上が増えても代金を回収できるとは限らない。

戦争になれば、商会自身も大きな損失を受ける可能性がある。

だから、この契約だけで戦争を望んでいるとは断定できない。

俺はさらに読み進めた。

そして、最後の条項を見つけた。

『本契約に基づく債権および担保権は、債権者が指定する第三者へ譲渡できる』

俺は黙った。

「……第三者?」

ネロンが尋ねた。

「何か問題があるんですか?」

俺は頷いた。

「大ありです」

「どういうことです?」

俺は答えた。

「バアルハンノ商会が、この借金を別の商人や国家に譲渡できるということです」

ネロンの表情が変わった。

「……国家にも?」

「契約文面では、譲渡先を限定していません」

俺は頷いた。

「つまり、サグントゥムが借金を返せなくなった場合、港の使用権が第三者へ移る可能性があります」

ネロンは息を呑んだ。

「……それは」

俺は静かに続けた。

「もし、その第三者がローマと深い関係を持つ商会だったら?」

ネロンは黙った。

俺はさらに続けた。

「逆に、カルタゴの有力者だったら?」

ネロンの顔色が変わった。

「……どちらにしても、危険ですね」

俺は頷いた。

「そうです」

俺は契約書を机に置いた。

そして、静かに言った。

「これは、単なる武器の売買契約じゃない」

ネロンが俺を見た。

俺は続けた。

「都市の借金を使って、港の支配権に近づける契約です」

その夜。

俺は契約書を何度も読み直した。

そして、一つの疑問が浮かんだ。

なぜバアルハンノ商会は、これほど危険な条件を提示したのか。

単に利益を得るためか。

それとも、誰かに港の権利を渡す計画があるのか。

俺は契約書の末尾を確認した。

そこには、契約の仲介人の名前が書かれていた。

俺は目を見開いた。

「……まさか」

その名前には見覚えがあった。

以前、ヌミディアの馬の未払い問題を調べたとき。

バアルハンノ商会から支払われた、不透明な「特別調整費」。

その受取人として、調査資料に記載されていた人物だった。

俺は静かに呟いた。

「……また、あの政治家につながるのか」

そして、俺は決意した。

今度こそ、商会と政治家の関係を明らかにする。

だが、翌朝。

事態は予想もしなかった方向へ動き始めた。

サグントゥムの港に、一隻のローマ商船が入港した。

その船には、武器でも兵士でもなく――

大量の銀貨が積まれていた。

しかも、その銀貨の受取人は、バアルハンノ商会だった。

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