↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したらカルタゴ人だったので、ハンニバルを勝たせてローマに勝利します  作者: レモンティー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
19/137

第十九話 商人の荷車を襲った犯人を調べたら、戦争を始めたい人間が見えてきた

翌朝。

俺は襲撃された荷車の現場へ向かった。

同行するのは、ハンニバル、メルカル、そして護衛の兵士たち。

場所は、サグントゥムから内陸部へ続く交易路だった。

つい最近、俺たちが整備したばかりの道路だ。

「……ひどいな」

現場を見たメルカルが呟いた。

荷車が一台、横倒しになっている。

車輪は壊れ、積み荷が道に散乱していた。

布。

陶器。

農具。

そして、破れた木箱。

周囲には争った跡が残っていた。

俺はしゃがみ込んだ。

「……まずは、何が起きたのか確認しよう」

ハンニバルが頷いた。

「そうだな」

襲撃された商人たちは、近くの村で保護されていた。

幸い、死者はいなかった。

だが、護衛の二人が負傷している。

俺は商隊の責任者に尋ねた。

「襲撃されたときの状況を教えてください」

男は疲れた顔で答えた。

「突然、道の脇から武装した男たちが出てきたんです」

「人数は?」

「十人ほどです」

「武器は?」

「槍と短剣、それに弓を持っていました」

俺は頷いた。

「馬に乗っていましたか?」

「いいえ。

ほとんど徒歩でした」

ハンニバルが尋ねた。

「襲撃した者たちは、何か叫んでいたか?」

男は少し考えた。

「……カルタゴ人は帰れ、と」

俺は眉をひそめた。

「それだけですか?」

「はい」

「商品はすべて奪われましたか?」

男は首を振った。

「いいえ」

俺は顔を上げた。

「……違うんですか?」

「高価な商品も残されていました」

俺は黙った。

普通の盗賊なら、価値のある商品を優先するはずだ。

だが、今回の襲撃ではそうではなかった。

俺は続けて尋ねた。

「何が奪われたんですか?」

男は答えた。

「食料と、いくつかの木箱です」

「木箱?」

「はい」

俺はメルカルを見た。

「積み荷の一覧はある?」

メルカルが頷いた。

「あります」

俺は帳簿を受け取った。

そして、奪われた荷物を確認した。

穀物。

保存食。

工具。

そして――

『交易関係書類』

俺は手を止めた。

「……これか」

「交易関係書類?」

ハンニバルが尋ねた。

俺は頷いた。

「はい」

「何の書類だ?」

「サグントゥムとの交易協定に関する資料です」

ハンニバルは眉をひそめた。

「そんなものを、なぜ荷車に積んでいた?」

俺は説明した。

「交易路の利用条件や、周辺部族との契約書の写しを、内陸部の商人たちへ届ける予定だったんです」

メルカルも頷いた。

「新しい道路を利用する商人たちに、料金や条件を説明するためです」

ハンニバルは考え込んだ。

「……ほう」

俺は続けた。

「ただし、まだ正式に決まっていない協定案の写しも含まれていました」

「サグントゥムとの協定か?」

「はい」

俺は頷いた。

「交易の自由や、軍隊の利用条件についての案です」

ハンニバルの表情が変わった。

「……それは、かなり重要な書類だな」

「そうですね」

俺は深く息を吐いた。

「ただの盗賊なら、そんな書類を奪っても使い道がありません」

ハンニバルは頷いた。

「つまり、書類が目的だった可能性がある」

「はい」

俺は答えた。

「ですが、まだ断定はできません」

俺たちは現場を詳しく調べた。

荷車の位置。

足跡。

馬の蹄の跡。

壊された木箱。

そして、襲撃者たちが逃げた方向。

ハンニバルは地面を見つめた。

「……妙だな」

俺は顔を上げた。

「何がですか?」

「襲撃者たちは、こちらの道へ逃げている」

ハンニバルは脇道を指差した。

「はい」

「だが、この先は山へ続いている」

「そうですね」

「普通の盗賊なら、奪った荷物を運びやすい道を選ぶはずだ」

俺は頷いた。

「確かに」

ハンニバルは続けた。

「だが、この道は荷車が通れない」

俺は考え込んだ。

「……つまり、重い商品を運ぶつもりがなかった?」

「その可能性がある」

俺は地図を広げた。

襲撃地点。

山道。

周辺の村。

そして、サグントゥム。

「……逃走先を調べる必要がありますね」

ハンニバルは頷いた。

「俺もそう思う」

俺たちは山道を進んだ。

途中には、荷物を運んだ跡が残っていた。

だが、長くは続いていない。

しばらくすると、道の脇に木箱が捨てられていた。

メルカルが声を上げた。

「アドン様!」

「何?」

「これを見てください!」

俺は駆け寄った。

木箱には、父の商会の印があった。

俺は蓋を開けた。

中は空だった。

「……書類の箱だ」

ハンニバルが尋ねた。

「間違いないのか?」

「はい」

俺は頷いた。

「この印は、うちの商会のものです」

ハンニバルは周囲を見た。

「……中身だけ持っていったわけか」

俺は深く息を吐いた。

「そうですね」

普通の盗賊なら、紙の束など捨てていくだろう。

だが、今回は逆だ。

箱を捨てて、書類だけを持っていった。

俺は静かに呟いた。

「……やっぱり、書類が目的だった可能性が高いな」

その日の夕方。

俺たちはサグントゥムへ戻った。

ネロンに事情を説明すると、彼は驚いた。

「交易協定の書類が奪われた?」

「はい」

「なぜそんなものを?」

俺は首を振った。

「まだ分かりません」

ネロンは考え込んだ。

「……協定を妨害したい人間でしょうか?」

俺は頷いた。

「可能性はあります」

「ルキオ殿ですか?」

俺は首を振った。

「証拠はありません」

ネロンは黙った。

俺は続けた。

「疑わしいからといって、犯人と決めつけるわけにはいきません」

ネロンは頷いた。

「そうですね」

俺は尋ねた。

「最近、この町で交易協定に反対している人々の動きはありますか?」

ネロンは少し考えた。

「……あります」

俺は顔を上げた。

「どんな動きですか?」

「カルタゴとの交易を増やすことに反対する集会が開かれています」

俺は頷いた。

「ほう」

「さらに、カルタゴ軍がサグントゥムを占領するつもりだという噂も広がっています」

俺は深く息を吐いた。

「……誰が広めているんでしょうね」

ネロンは首を振った。

「分かりません」

翌日。

俺は市場へ向かった。

噂の内容を確認するためだ。

すると、確かに妙な話が広がっていた。

「カルタゴ軍が近いうちに来るらしいぞ」

「サグントゥムを支配するつもりだって?」

「道路を作ったのも、そのためだろう」

俺は黙って聞いていた。

ほう。

道路整備が、軍事侵攻の準備だと解釈されているらしい。

もちろん、道路は軍隊も使える。

だから完全に否定できる話ではない。

だが、今回の道路整備は商人たちの共同事業だ。

それを一方的に軍事侵攻の証拠だとするのは無理がある。

俺は市場の商人に尋ねた。

「その話は、どこで聞いたんですか?」

男は答えた。

「港の酒場だよ」

「誰が話していたんです?」

「知らない男だ」

俺は頷いた。

「ほう」

別の商人にも聞いた。

「カルタゴ軍が来るって話ですか?」

「そうだ」

「誰から?」

「旅の商人から聞いた」

さらに別の人にも尋ねた。

すると、似たような答えが返ってきた。

港の酒場。

旅の商人。

知らない男。

俺は考え込んだ。

「……同じ場所から広がっているのか?」

その夜。

俺は港の酒場を訪れた。

メルカルも同行している。

酒場には多くの商人や船乗りが集まっていた。

俺たちは隅の席に座った。

しばらくすると、一人の男が大きな声で話し始めた。

「聞いたか!」

周囲の人々が顔を上げた。

「カルタゴ軍が、サグントゥムへ向かっているらしいぞ!」

俺は静かに耳を傾けた。

男は続けた。

「道路を作ったのも、軍隊を通すためだ!」

周囲がざわついた。

「本当か?」

「誰から聞いた?」

男は答えた。

「確かな筋からだ!」

俺は思わず苦笑した。

確かな筋。

便利な言葉だ。

誰なのか説明しなくても、それらしく聞こえる。

俺は立ち上がった。

そして、男に声をかけた。

「すみません」

男が振り返った。

「何だ?」

「その話、どこで聞いたんですか?」

男は眉をひそめた。

「……何?」

「カルタゴ軍が来るという話です」

男は少し考えた。

「知り合いから聞いた」

俺は頷いた。

「その方は、軍の関係者ですか?」

「……いや」

「では、実際に軍隊を見たんですか?」

男は黙った。

俺は続けた。

「何人くらいの軍隊が、どの道を通っているんでしょうか?」

男は顔をしかめた。

「そんな細かいことは知らん!」

俺は頷いた。

「ほう」

そして、静かに言った。

「では、まだ確認されていない話なんですね」

周囲の商人たちが顔を見合わせた。

男は不機嫌そうに言った。

「……そうかもしれん」

俺は頭を下げた。

「ありがとうございます」

酒場を出た後。

メルカルが尋ねた。

「アドン様」

「何?」

「今の男が犯人なんでしょうか?」

俺は首を振った。

「分からない」

「ですが、怪しいですよね?」

「そうだね」

俺は頷いた。

「ただし、噂を広めていることと、襲撃に関わっていることは別だよ」

メルカルは考え込んだ。

「……ほう」

俺は続けた。

「まずは、噂の出どころを調べよう」

数日後。

俺たちは複数の証言を集めた。

すると、一つの名前が浮かび上がった。

ドーガ。

サグントゥム近郊で活動する仲介商人だった。

彼は最近、港の酒場や市場でカルタゴ軍に関する噂を広めていたらしい。

さらに、襲撃が起きた日の前後に、複数の武装した男たちと接触していたという証言もあった。

俺は記録を確認した。

「……ドーガか」

メルカルが尋ねた。

「捕まえますか?」

俺は首を振った。

「俺たちに逮捕する権限はない」

「では?」

「サグントゥムの当局へ報告しよう」

ハンニバルも頷いた。

「それがいい」

俺は続けた。

「ここでカルタゴ側が勝手に人を捕まえれば、かえって問題になる」

翌日。

サグントゥムの当局が調査を始めた。

ドーガは事情を聞かれることになった。

最初、彼は関与を否定した。

「俺は何も知らない!」

だが、調査が進むにつれて、彼の説明に矛盾が出てきた。

襲撃が起きた日。

彼は武装した男たちと会っていた。

さらに、その男たちの一部が、襲撃現場の近くで目撃されていた。

そして、決定的な証言が出た。

襲撃に参加したとみられる男の一人が、負傷して近くの村で治療を受けていたのだ。

その男は、取り調べでこう話した。

「……俺たちは、荷車を止めるように頼まれただけだ」

当局の担当者が尋ねた。

「誰に?」

男は答えた。

「ドーガだ」

会議室が静かになった。

「なぜ荷車を止めた?」

男は少し考えた。

そして答えた。

「……書類を奪うためだ」

俺は息を呑んだ。

やはり、書類が目的だった。

当局の担当者が続けて尋ねた。

「書類はどこへ渡した?」

男は答えた。

「ドーガに渡した」

「その後は?」

「知らない」

俺は黙った。

ドーガが書類を受け取った。

だが、その先は分からない。

俺は担当者に尋ねた。

「ドーガは、誰かから依頼を受けていたのでしょうか?」

担当者は頷いた。

「その可能性があります」

「証拠は?」

「まだありません」

俺は深く息を吐いた。

「……ほう」

さらに調査が進んだ。

そして、ドーガの家から、奪われた書類の一部が見つかった。

俺は確認した。

間違いない。

交易協定案の写しだった。

だが、すべてではない。

軍隊の利用条件に関する部分だけが抜き取られていた。

俺は眉をひそめた。

「……なぜ、この部分だけ?」

メルカルが尋ねた。

「何か意味があるんですか?」

俺は答えた。

「軍事的な問題に関わる内容だからね」

「ほう」

俺は続けた。

「誰かが、協定の軍事条項を知りたかったのかもしれない」

ハンニバルが頷いた。

「あるいは、都合のよい部分だけを使おうとしたのかもしれないな」

俺は顔を上げた。

「……確かに」

例えば、協定案の一部だけを見せれば。

カルタゴがサグントゥムへの軍事介入を計画しているように見せることもできる。

俺は静かに呟いた。

「……情報を利用するつもりか」

数日後。

ドーガが、ついに依頼人の存在を認めた。

「……俺は頼まれただけだ」

当局の担当者が尋ねた。

「誰に?」

ドーガは黙った。

「答えろ」

「……名前は知らない」

「嘘をつくな」

ドーガは首を振った。

「本当だ!」

そして、続けた。

「港で会った男だ」

「どんな男だ?」

「身なりのよい男だった」

「どこの商人だ?」

ドーガは少し考えた。

「……ローマの言葉を話していた」

会議室が静かになった。

俺は顔を上げた。

ローマの言葉。

つまり、ラテン語だ。

だが、それだけでローマ政府の関与を示すことはできない。

地中海には、さまざまな地域の商人がいる。

ラテン語を話せる者も珍しくない。

俺は静かに言った。

「……まだ断定はできませんね」

ハンニバルが頷いた。

「そうだな」

その日の夕方。

俺はルキウスと会うことになった。

ローマの使節だ。

彼は俺を見ると、少し笑った。

「アドン殿」

「こんにちは」

「最近、忙しそうですね」

俺は苦笑した。

「いろいろありまして」

ルキウスは頷いた。

「商隊の襲撃事件ですか?」

俺は顔を上げた。

「ご存じでしたか?」

「もちろんです」

ルキウスは答えた。

「この都市で起きた事件ですから」

俺は頷いた。

「そうですね」

そして、静かに尋ねた。

「ローマ側で、何か情報をお持ちではありませんか?」

ルキウスの表情が変わった。

「……どういう意味です?」

俺は答えた。

「襲撃事件の依頼人について、ラテン語を話す人物だったという証言が出ています」

ルキウスは黙った。

俺は続けた。

「もちろん、それだけでローマ側が関与しているとは考えていません」

ルキウスは少し安心したようだった。

「……ほう」

俺は続けた。

「ただ、何か情報があれば教えていただきたいんです」

ルキウスは少し考えた。

そして答えた。

「我々も、そのような事件には関与していません」

俺は頷いた。

「分かりました」

ルキウスは続けた。

「むしろ、我々にとっても迷惑な話です」

「迷惑?」

「はい」

ルキウスは答えた。

「ローマとの関係を疑われるような事件が起きれば、外交交渉に悪影響が出ます」

俺は頷いた。

「確かに」

ルキウスは静かに言った。

「ですから、我々も犯人を知りたいと思っています」

俺は少し考えた。

そして尋ねた。

「では、調査に協力していただけますか?」

ルキウスは頷いた。

「可能な範囲で」

俺は頭を下げた。

「ありがとうございます」

その夜。

俺は宿で資料を整理していた。

襲撃事件。

奪われた書類。

ドーガ。

ラテン語を話す依頼人。

そして、ローマとの軍事協定。

俺は紙に書き出した。

だが、まだつながらない。

誰が得をするのか。

誰が損をするのか。

俺は考えた。

もし交易協定が破談になれば。

カルタゴ商人は損をする。

サグントゥムの商人も損をする。

だが、カルタゴとの関係を弱めたい勢力には利益がある。

一方、襲撃事件を理由にカルタゴ軍が進出すれば。

ローマとの緊張が高まる。

そして、ローマの保護を求める勢力が強くなる。

俺は筆を止めた。

「……ほう」

つまり、襲撃事件には二つの効果がある。

交易協定を妨害すること。

そして、軍事的な緊張を高めること。

俺は深く息を吐いた。

「……誰かが、戦争に近づけようとしているのかもしれない」

だが、まだ証拠はない。

俺は資料を閉じた。

「……焦らず調べよう」

翌朝。

俺のもとに、ハミルカル将軍から新しい書簡が届いた。

俺は封を開いた。

そこには、こう書かれていた。

『商隊襲撃事件について、軍内部でも議論が続いている。

一部の将校は、サグントゥム周辺への兵力派遣を強く求めている。

ただし、現時点では大規模な軍事行動を認めていない。

調査結果を至急報告せよ。』

俺は深く息を吐いた。

「……時間がないな」

ハンニバルが尋ねた。

「どうした?」

俺は書簡を見せた。

ハンニバルは黙って読んだ。

そして、静かに言った。

「父上は、まだ軍を動かしていない」

「はい」

「だが、いつまでも待てるわけではないな」

俺は頷いた。

「そうですね」

俺はすぐに報告書を書き始めた。

襲撃事件は、サグントゥム当局が調査していること。

一部の実行犯が判明したこと。

奪われた書類が見つかったこと。

そして、依頼人についてはまだ調査中であること。

最後に、こう書いた。

『現時点では、サグントゥム政府やローマ政府が襲撃を指示した証拠はありません。

軍事行動を行えば、外交交渉を悪化させる危険があります。

調査が進むまで、軍の派遣は控えることを提案します。』

俺は筆を置いた。

「……これでいい」

だが、その日の午後。

事件は新しい展開を迎えた。

サグントゥム当局から、俺に連絡が来たのだ。

「アドン殿」

「はい」

「ドーガの依頼人について、新しい証言が出ました」

俺は顔を上げた。

「本当ですか?」

担当者は頷いた。

「はい」

「どんな証言ですか?」

担当者は静かに言った。

「依頼人は、ローマの商人ではない可能性があります」

俺は眉をひそめた。

「……どういうことです?」

担当者は続けた。

「ドーガに金を渡した人物は、カルタゴの言葉も話していたそうです」

俺は黙った。

「……カルタゴの言葉?」

「はい」

担当者は頷いた。

「しかも、カルタゴの商人たちが使う言い回しを知っていたそうです」

俺は深く息を吐いた。

「……ほう」

つまり、依頼人は、ローマ側とは限らない。

カルタゴ側の人間である可能性もある。

俺は静かに呟いた。

「……まさか」

そのとき、メルカルが駆け込んできた。

「アドン様!」

「どうした?」

「カルタゴ本国から急ぎの知らせです!」

俺は顔を上げた。

「本国から?」

メルカルは頷いた。

「はい!」

そして、息を切らしながら言った。

「バアルハンノ商会が、サグントゥムで新しい交易事業を始めるそうです!」

俺は黙った。

バアルハンノ商会。

ヌミディアの馬の未払い問題で、俺と対立した大商会。

その商会が、サグントゥムへ進出する。

しかも、このタイミングで。

俺は深く息を吐いた。

「……偶然なのか?」

まだ分からない。

だが、もしバアルハンノ商会が今回の事件に関係しているなら。

問題は、ローマとカルタゴの対立だけではない。

カルタゴ内部の商人同士の争いが、外交問題を引き起こしている可能性もある。

俺は静かに呟いた。

「……まさか、身内が戦争の原因を作ろうとしているのか?」

そして、俺は決意した。

バアルハンノ商会の動きを調べる。

ただし、今度は相手も簡単には尻尾を出さないだろう。

なぜなら。

バアルハンノ商会は、すでに俺が帳簿から不正を見つける人間だと知っているのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。