↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したらカルタゴ人だったので、ハンニバルを勝たせてローマに勝利します  作者: レモンティー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
17/137

第十七話 通行料を二倍にされたので、別の道を作ることにした

「通行料が二倍?」

メルカルが驚いた声を上げた。

俺は関所の前で、もう一度金額を確認した。

「はい。

この金額です」

関所の男が木板を指差す。

そこには、荷車一台あたりの通行料が書かれていた。

以前の二倍以上。

しかも、荷物の種類によって追加料金まで設定されている。

俺は尋ねた。

「この料金は、すべての商人に適用されるんですか?」

男は少し考えた。

「いや」

「違うんですか?」

「マッシリアの商人は別の契約だ」

俺は頷いた。

「ほう」

「カルタゴの商人は、この料金を払ってもらう」

ハンニバルが眉をひそめた。

「なぜカルタゴだけ高い?」

男は肩をすくめた。

「俺に聞かれても困る」

俺はハンニバルを制した。

「分かりました。

ありがとうございます」

そして、関所から少し離れた場所へ移動した。

「アドン」

ハンニバルが言った。

「あれは明らかに不公平だ」

「そうですね」

「ならば、抗議するべきだ」

俺は頷いた。

「もちろん抗議はします」

「それだけか?」

「いえ」

俺は地図を広げた。

「別の方法も考えます」

ハンニバルが首を傾げた。

「別の方法?」

俺は答えた。

「この道を使わなければいいんです」

ハンニバルは驚いた。

「……何?」

「通行料が高いなら、別の道を探します」

メルカルが困った顔をした。

「ですが、アドン様」

「何?」

「この道が一番便利ですよ?」

「そうだね」

「ほかの道は遠回りになります」

俺は頷いた。

「だから、どれくらい遠回りになるのか調べるんだ」

ハンニバルは腕を組んだ。

「ほう」

俺は続けた。

「商売では、相手が提示した条件を必ず受け入れる必要はないからね」

俺たちはサグントゥムへ戻り、交易路の調査を始めた。

まず、現在の主要道路。

次に、周辺の農村へ続く道。

さらに、古い交易路や家畜の移動に使われる道。

地図には載っていない道も多かった。

俺は地元の商人たちから話を聞いた。

「このあたりに、昔使われていた道はありませんか?」

一人の老人が頷いた。

「あるぞ」

俺は顔を上げた。

「本当ですか?」

「ああ。

丘を越える古い道だ」

老人は地図を指差した。

「今はあまり使われていないがな」

「なぜです?」

「橋が壊れている」

俺は頷いた。

「ほう」

「それに、道が狭い」

「荷車は通れますか?」

老人は首を振った。

「今のままでは難しい」

俺は少し考えた。

「橋を直して、道を広げれば?」

老人は笑った。

「そりゃ通れるだろう」

俺は地図を見つめた。

「……面白いな」

翌日。

俺たちはその古い道を調べに行った。

道は確かに狭かった。

ところどころに石が転がっている。

草も伸びていた。

そして、途中に小さな川があった。

古い橋は半分崩れている。

メルカルが顔をしかめた。

「……これは無理ですね」

俺は橋を見た。

「今のままではね」

ハンニバルが尋ねた。

「直せるのか?」

俺は頷いた。

「直せると思います」

「どれくらいかかる?」

「調べてみないと分かりません」

俺は周囲を確認した。

川幅はそれほど広くない。

橋を支える石積みの一部も残っている。

ただし、荷車が安全に通れるようにするには、しっかり補修する必要がある。

俺はメルカルに言った。

「職人を呼んで、見積もりを取ろう」

メルカルが驚いた。

「本当に直すんですか?」

「条件が合えばね」

「ですが、道路を直すにはお金がかかります」

俺は笑った。

「だから計算するんだよ」

数日後。

職人たちから見積もりが届いた。

橋の補修。

道路の拡幅。

排水路の整備。

危険な場所の補強。

俺は費用を合計した。

そして、現在の通行料と比較した。

メルカルが帳簿を覗き込む。

「……かなりの金額ですね」

「そうだね」

「これなら、通行料を払った方が安いのでは?」

俺は首を振った。

「一回だけならね」

「一回だけ?」

「道路は何度も使うから」

俺は紙に数字を書いた。

仮に、荷車一台あたりの追加通行料が銀貨二枚。

一日に五十台の荷車が通るとする。

すると、一日で銀貨百枚。

十日で千枚。

百日で一万枚。

もちろん、実際の交通量は日によって違う。

だが、年間で考えればかなりの金額になる。

俺は続けた。

「道路の補修費が一万枚でも、長く使えば回収できる可能性がある」

メルカルが目を見開いた。

「……ほう!」

「しかも、道路は一度直せば終わりじゃない」

「維持費が必要ですね」

「そう」

俺は頷いた。

「だから、補修費だけじゃなく、毎年の維持費も計算する必要がある」

ハンニバルが笑った。

「お前は本当に、何でも金で計算するな」

俺も笑った。

「軍隊も道路も、維持するにはお金が必要ですから」

だが、問題があった。

その古い道は、サグントゥムの商人たちだけの土地を通っているわけではない。

途中には、複数の農村がある。

さらに、山間部には独自の自治を行う部族もいる。

勝手に道路を整備することはできない。

俺は地図を見つめた。

「……まずは、土地の人たちと話さないとな」

ハンニバルが頷いた。

「以前、アレト族と交渉したときと同じだな」

「そうですね」

俺は笑った。

「道路を通すなら、そこに住む人たちにも利益が必要です」

俺たちは最初の農村を訪れた。

村長は年配の男だった。

名前はベルコ。

俺が道路整備の話をすると、最初は警戒された。

「カルタゴの商人が、なぜこの道を使いたがる?」

俺は答えた。

「サグントゥムと内陸部の交易を増やしたいからです」

ベルコは眉をひそめた。

「軍隊を通すためではないのか?」

俺は首を振った。

「今回の計画は商人のための道路整備です」

「だが、軍隊も通れるようになるだろう」

「そうですね」

俺は頷いた。

「だから、軍隊の利用については別の取り決めが必要だと思います」

ベルコは少し考えた。

「……ほう」

俺は続けた。

「道路を整備すれば、村の農産物も運びやすくなります」

「農産物?」

「はい」

俺は説明した。

「今は荷車が通れない道でも、補修すれば市場まで運べるようになります」

ベルコは顔を上げた。

「……それは助かるな」

「さらに、道路の維持管理を村にお願いしたいんです」

「維持管理?」

「はい」

俺は頷いた。

「道路の清掃や、小さな補修を行っていただく代わりに、報酬を支払います」

ベルコは考え込んだ。

「……つまり、村にも仕事が増えるわけか」

「そうです」

ベルコは少し笑った。

「悪くない話だ」

だが、ベルコは続けた。

「ただし、一つ条件がある」

「何でしょう?」

「畑を潰すな」

俺は頷いた。

「当然です」

「それから、村の井戸を勝手に使うな」

「分かりました」

「荷車が増えれば、家畜が驚くこともある」

「そうですね」

「村の中を通るなら、速度を落としてもらいたい」

俺は笑った。

「それも契約に入れましょう」

ベルコは驚いた。

「契約?」

「はい」

俺は答えた。

「口約束だけでは、後から問題になるかもしれませんから」

ベルコは頷いた。

「ほう」

こうして、最初の村との交渉は前向きに進んだ。

次に訪れたのは、山間部の部族だった。

こちらは少し難しかった。

部族長の名はガルド。

大柄な男で、鋭い目をしていた。

「カルタゴの商人が道路を作る?」

ガルドは鼻を鳴らした。

「勝手に作ればいい」

俺は首を振った。

「この土地を通るので、許可をいただきたいんです」

ガルドは俺を見た。

「許可?」

「はい」

「ならば、金を払え」

俺は頷いた。

「当然、適切な対価はお支払いします」

ガルドは少し驚いた。

「……ほう」

俺は続けた。

「ただし、通行料を何度も値上げされると、商人が利用しなくなります」

ガルドは眉をひそめた。

「何?」

「ですから、一定期間の料金を決めたいんです」

「一定期間?」

「例えば、三年間です」

ガルドは考え込んだ。

「……三年間、同じ料金か?」

「はい。

ただし、物価が大きく変わった場合の見直し条件は決めておきます」

ガルドは少し笑った。

「商人らしいな」

俺も笑った。

「ありがとうございます」

交渉は続いた。

道路の維持費。

橋の補修費。

通行料。

村の農産物の運搬。

そして、軍隊が利用する場合の条件。

最終的に、ガルドは頷いた。

「よかろう」

俺は顔を上げた。

「ありがとうございます」

「ただし、約束を破ったら通行を止める」

俺は頷いた。

「その場合の協議手続きも決めましょう」

ガルドは笑った。

「……お前、本当に細かいな」

俺も笑った。

「後で揉めるより、今決めた方が楽ですから」

こうして、古い交易路の整備計画が動き始めた。

数週間後。

橋の補修が始まった。

職人たちが石を積み直す。

木材を運ぶ。

道路の石を取り除く。

排水路を掘る。

周辺の村人たちも仕事に参加した。

俺は工事の進み具合を確認した。

メルカルが帳簿を見せる。

「アドン様」

「何?」

「予定より費用が増えています」

俺は顔を上げた。

「どれくらい?」

「一割ほどです」

「理由は?」

「橋の基礎が、思ったより傷んでいたそうです」

俺は頷いた。

「ほう」

メルカルが心配そうに言った。

「どうしますか?」

俺は少し考えた。

「安全に関わる部分なら、必要な補修を優先しよう」

「ですが、費用が……」

「別の部分で節約できないか確認しよう」

俺は答えた。

「ただし、橋の強度だけは削れない」

メルカルは頷いた。

「分かりました」

ハンニバルが横から言った。

「軍の橋も同じだな」

俺は頷いた。

「そうですね」

「弱い橋を作れば、軍隊が渡る途中で壊れる」

「はい」

ハンニバルは笑った。

「つまり、安く作ればいいというものではないのか」

俺も笑った。

「そのとおりです」

工事が進むにつれて、周辺の村々にも変化が起き始めた。

道路工事に参加する人々が増えた。

職人たちが食料を買う。

宿泊する。

道具を修理する。

その結果、村の商売が少しずつ活発になった。

ベルコ村長が嬉しそうに言った。

「アドン殿」

「はい」

「最近、村の市場に人が増えた」

俺は笑った。

「それはよかったです」

「道路が完成する前から、こんなに変わるとは思わなかった」

俺は頷いた。

「工事そのものが仕事になりますから」

ベルコは笑った。

「ほう」

俺は続けた。

「ただし、道路が完成した後も、商人たちが利用し続けることが重要です」

ベルコは頷いた。

「そうだな」

やがて、橋が完成した。

最初に渡ったのは、村の農産物を積んだ荷車だった。

ゆっくりと橋へ進む。

車輪が石の上を転がる。

橋はびくともしなかった。

向こう岸へ到着すると、村人たちが歓声を上げた。

「渡れたぞ!」

「橋が完成した!」

「これで市場へ行ける!」

俺は思わず笑った。

「……よかった」

ハンニバルも嬉しそうだった。

「アドン!」

「はい」

「本当に道ができたな!」

「そうですね」

ハンニバルは橋を見つめた。

そして、静かに言った。

「道路一本で、こんなに人が喜ぶのか」

俺は頷いた。

「道路は、人と物をつなぎますから」

ハンニバルは少し考えた。

「……ほう」

道路が完成すると、俺たちは試験的な輸送を始めた。

まず、荷車十台。

同じ種類の商品を積み、従来の道路と新しい道路で輸送費を比較した。

結果は、予想以上だった。

新しい道路は少し遠回りになる。

だが、通行料が安い。

さらに、途中の村で食料や水を補給できる。

輸送時間も、大きくは変わらなかった。

俺は帳簿を確認した。

「……悪くないな」

メルカルが頷いた。

「はい」

「輸送費は?」

「従来の道路より、かなり安くなっています」

俺は笑った。

「よし」

ハンニバルが尋ねた。

「これで、カルタゴ商人は新しい道を使うのか?」

「条件がよければ、自然と増えると思います」

俺は答えた。

「商人は、利益になる道を選びますから」

その予想は当たった。

数日後。

新しい道路を利用する荷車が増え始めた。

最初はカルタゴ商人だけだった。

だが、やがてサグントゥムの商人たちも利用するようになった。

さらに、マッシリアの商人まで新しい道路を使い始めた。

メルカルが驚いた。

「アドン様!」

「何?」

「マッシリアの商人まで来ています!」

俺は笑った。

「いいことじゃないか」

「ですが、彼らは競争相手ですよ?」

「道路を使う人が増えれば、維持費を分担しやすくなる」

メルカルは目を見開いた。

「……ほう!」

俺は続けた。

「それに、道路はカルタゴ商人だけのものじゃない」

ハンニバルが笑った。

「誰でも使えるから価値があるのか」

俺は頷いた。

「そうです」

一方。

従来の道路を管理していたルキオ商会では、問題が起きていた。

通行する荷車が減り始めたのだ。

ある日。

ルキオが俺を訪ねてきた。

「アドン殿」

「こんにちは」

ルキオは険しい顔をしていた。

「新しい道路を作ったそうですね」

「はい」

「我々の道路を使う商人が減っています」

俺は頷いた。

「そうでしょうね」

ルキオは眉をひそめた。

「……随分と落ち着いていますね」

俺は答えた。

「商人が条件のよい道路を選んだ結果だと思います」

ルキオは黙った。

「我々の通行料が高すぎると言いたいのですか?」

俺は少し考えた。

「少なくとも、利用者の一部はそう判断したのだと思います」

ルキオは深く息を吐いた。

「……困りましたね」

俺は頷いた。

「そうですね」

しばらく沈黙が続いた。

そして、ルキオが言った。

「通行料を下げれば、戻ってくるでしょうか?」

俺は少し笑った。

「可能性はあります」

ルキオは顔を上げた。

「本当ですか?」

「はい」

俺は続けた。

「従来の道路には、距離が短いという利点があります」

「……」

「通行料が適切なら、そちらを選ぶ商人もいるでしょう」

ルキオは考え込んだ。

「……ほう」

俺は続けた。

「競争相手がいることは、悪いことばかりではありません」

ルキオは苦笑した。

「商人にとっては、厳しい話ですがね」

俺も笑った。

「そうですね」

数日後。

ルキオ商会は通行料を引き下げた。

カルタゴ商人への特別な追加料金も廃止された。

俺は報告を聞いて、思わず笑った。

「……やっぱり、競争って大事だな」

メルカルが頷いた。

「はい」

「道路を一本作っただけで、通行料が下がった」

「そうですね」

俺は続けた。

「しかも、どちらの道路も利用できるようになった」

ハンニバルが言った。

「軍隊で相手を脅さなくても、状況を変えられたわけだな」

俺は頷いた。

「そういうことです」

ハンニバルは少し笑った。

「……面白いな」

だが、問題はそこで終わらなかった。

新しい道路が完成したことで、サグントゥムの商人たちは大きな利益を得始めた。

輸送費が下がる。

商品が増える。

市場が活発になる。

そして、カルタゴとの交易も増える。

ネロンが嬉しそうに言った。

「アドン殿」

「はい」

「最近、内陸部からの商品が増えています」

俺は笑った。

「それはよかったです」

「しかも、価格が安定してきました」

「ほう」

ネロンは続けた。

「カルタゴとの交易を増やしたいという商人も増えています」

俺は頷いた。

「ありがたいですね」

だが、ネロンは少し表情を曇らせた。

「ただし、一つ問題があります」

俺は苦笑した。

「また問題ですか」

ネロンも苦笑した。

「はい」

「何でしょう?」

ネロンは静かに言った。

「この町の有力者たちが、カルタゴとの関係について正式に議論を始めました」

俺は顔を上げた。

「正式に?」

「はい」

「どんな内容ですか?」

ネロンは答えた。

「カルタゴと交易協定を結ぶかどうかです」

俺は少し安心した。

「それなら、よい話では?」

ネロンは首を振った。

「問題は、その条件です」

「条件?」

ネロンは頷いた。

「カルタゴとの交易を増やす代わりに、ローマとの友好関係も強めるという案が出ています」

俺は黙った。

「……ほう」

ネロンは続けた。

「さらに、一部の有力者は、ローマに安全保障を求めるべきだと主張しています」

俺は深く息を吐いた。

やはり、そう来たか。

交易ではカルタゴを利用する。

安全保障ではローマを頼る。

サグントゥムにとっては、合理的な選択かもしれない。

だが、カルタゴ側から見れば複雑だ。

俺は静かに呟いた。

「……商売では勝っても、外交では負けるかもしれないな」

その夜。

俺はハンニバルと話していた。

「アドン」

「はい」

「サグントゥムがローマの保護を受けたら、どうする?」

俺は少し考えた。

「まず、その内容を確認します」

「内容?」

「はい」

俺は答えた。

「友好関係なのか、軍事同盟なのか。

それによって意味が違います」

ハンニバルは頷いた。

「ほう」

俺は続けた。

「それに、ローマの保護を受けたからといって、すぐにカルタゴの敵になるわけではありません」

「……」

「重要なのは、カルタゴとの交易や安全を脅かすかどうかです」

ハンニバルはしばらく考えた。

そして言った。

「……だが、ローマが軍隊を送ってきたら?」

俺は黙った。

それは難しい問題だ。

俺は静かに答えた。

「その場合は、外交で解決できるかをまず考えるべきでしょう」

ハンニバルは頷いた。

「それでも駄目なら?」

俺は深く息を吐いた。

「軍事的な備えも必要になります」

ハンニバルは静かに言った。

「……結局、軍隊は必要なんだな」

俺は頷いた。

「はい」

そして続けた。

「ただし、軍隊は使わずに済むなら、それが一番です」

ハンニバルは少し笑った。

「お前らしい答えだ」

翌朝。

俺たちはサグントゥムの有力者たちとの会議に呼ばれた。

会議室には、ネロンとルキオもいた。

さらに、都市の政治を担う有力者たちが集まっている。

議長が立ち上がった。

「本日は、カルタゴとの交易協定について協議する」

俺は静かに頷いた。

議長は続けた。

「だが、その前に確認したいことがある」

俺は顔を上げた。

「何でしょう?」

議長は俺を見つめた。

そして、はっきりと言った。

「カルタゴは、我々の都市の独立を認めるのか?」

会議室が静かになった。

俺は少し考えた。

そして答えた。

「私は商人ですので、カルタゴ政府を代表して独立を保証する権限はありません」

議長は眉をひそめた。

俺は続けた。

「ですが、少なくとも今回の交易協定に、政治的な従属を条件として加えるつもりはありません」

議長は頷いた。

「ほう」

俺は続けた。

「都市の政治的な立場については、正式な外交交渉で決めるべきだと思います」

議長は少し考えた。

そして言った。

「……よろしい」

俺は安心した。

だが、次の言葉で状況が変わった。

「実は、ローマからも使節が来ている」

俺は顔を上げた。

「……ローマから?」

「そうだ」

議長は続けた。

「ローマも、我々との関係について協議したいと言っている」

会議室がざわついた。

そして、扉が開いた。

入ってきたのは、三人の男。

その先頭に立つ人物を見て、俺は息を呑んだ。

見覚えのある顔だった。

カルタゴ本国で会ったローマの外交官。

ルキウス・ファビウス。

男は俺を見ると、少し笑った。

「……また会ったな、アドン殿」

俺は深く息を吐いた。

「お久しぶりです」

ルキウスは静かに言った。

「どうやら、我々は同じ都市に関心があるようだ」

俺は頷いた。

「そうですね」

そして、ルキウスは会議室を見渡した。

「本日は、ローマから一つ提案を持ってきました」

議長が尋ねた。

「どのような提案でしょう?」

ルキウスは答えた。

「サグントゥムの安全を守るため、ローマとの正式な友好協定を結んでいただきたい」

俺は黙った。

友好協定。

その言葉自体は穏やかだ。

だが、内容によっては軍事同盟に近いものになる。

俺は静かに呟いた。

「……ここが分岐点か」

そして、俺は決意した。

この都市を、カルタゴとローマの戦争の原因にしてはならない。

だが、どうすればいいのか。

答えはまだ見つかっていなかった。

そのとき、ルキウスが俺を見た。

そして、思いがけないことを言った。

「アドン殿」

「はい」

「あなたにも、提案があります」

俺は顔を上げた。

「私に?」

ルキウスは頷いた。

「ええ」

そして、静かに続けた。

「カルタゴとローマが、共同でサグントゥムの安全を保証するという案です」

会議室が静まり返った。

俺は思わず呟いた。

「……共同で?」

ローマとカルタゴ。

将来、地中海の覇権を争う二つの国。

その二国が、一つの都市の安全を共同で保証する。

もし実現すれば、歴史は大きく変わるかもしれない。

だが、同時に。

その協定が破られたとき、両国が直接衝突する危険もある。

俺はルキウスを見つめた。

「……詳しく聞かせてください」

こうして、サグントゥムを巡る交渉は、新しい段階へ進むことになった。

そして俺は、このときまだ知らなかった。

ローマ側が提示した共同保証案には、カルタゴにとって非常に不利な条件が一つ含まれていたことを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。