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転生したらカルタゴ人だったので、ハンニバルを勝たせてローマに勝利します  作者: レモンティー


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第十五話 ローマの使節が来たので、戦争の値段を計算してみた

翌朝。

俺はカルタゴの評議会へ向かった。

今日はローマから来た使節との会談が行われる。

ローマ。

前世の歴史で、カルタゴを滅ぼした国。

第一次ポエニ戦争では、カルタゴからシチリアを奪った。

その後、カルタゴが傭兵たちの反乱に苦しんでいる間に、サルディニア島とコルシカ島まで手に入れた。

しかも、カルタゴには追加の賠償金まで要求している。

俺から見れば、かなり強引なやり方だった。

だが、ローマ側にも考えがある。

カルタゴが再び強くなれば、将来の脅威になる。

だから、力を回復する前に抑え込もうとする。

国家としては、理解できない判断ではない。

問題は、その先だ。

ローマの要求をすべて受け入れれば、カルタゴは弱くなる。

だが、すべて拒否すれば戦争になる。

そして、今のカルタゴにはローマと全面戦争をする準備が整っていない。

「……難しい交渉になりそうだな」

俺は深く息を吐いた。

評議会の会議室には、すでに多くの有力者が集まっていた。

ハンノもいる。

俺が入ると、彼が声をかけてきた。

「アドン、来たか」

「おはようございます」

「今日は発言に気をつけろ」

「分かっています」

ハンノは続けた。

「相手はローマの正式な使節だ」

「はい」

「お前は評議会の議員ではない。

勝手に国の方針を約束するな」

俺は頷いた。

「もちろんです」

「ただし、交易や補給について質問されたら答えてほしい」

「承知しました」

ハンノは少し笑った。

「お前の得意分野だからな」

俺も笑った。

「数字の話なら、いくらでも」

しばらくして、ローマの使節が入ってきた。

三人の男たちだった。

先頭に立つ男は五十代ほど。

落ち着いた表情。

鋭い目。

そして、堂々とした態度。

男はラテン語で挨拶した。

通訳がカルタゴ側へ伝える。

「ローマ共和国を代表し、友好と平和のために参りました」

俺は心の中で呟いた。

平和、か。

外交官が最初に口にする言葉としては、実に便利だ。

もちろん、平和を望んでいること自体は嘘ではないだろう。

ただし、その平和が誰にとって都合のよいものなのか。

そこが問題だ。

使節の代表は、ルキウス・ファビウスと名乗った。

「本日は、ヒスパニアにおけるカルタゴ軍の活動について確認したい」

会議室が静かになった。

ハンノが答えた。

「どのような点でしょうか?」

ルキウスは地図を広げた。

「カルタゴ軍は近年、ヒスパニアで勢力を拡大している」

「そのとおりです」

「軍隊を増やし、道路を整備し、現地部族との関係を強めている」

「交易のためでもあります」

ハンノが答えた。

ルキウスは頷いた。

「それは承知している」

そして、静かに続けた。

「だが、ローマとしては懸念がある」

「懸念?」

「カルタゴが、再び大規模な軍事力を持とうとしていることだ」

会議室がざわついた。

「我々は、カルタゴが交易を行うことに反対していない」

ルキウスは続けた。

「だが、軍事力の拡大については慎重であるべきだと考えている」

ハンノが尋ねた。

「具体的には、何を求めているのですか?」

ルキウスは地図を指差した。

「ヒスパニア北東部への軍事的な進出を控えていただきたい」

俺は顔を上げた。

北東部。

つまり、ローマの同盟都市マッシリアや、その周辺の交易圏に近い地域だ。

ほう。

ローマはカルタゴの軍隊が北へ進むことを警戒しているらしい。

ルキウスは続けた。

「さらに、軍事拠点の新設についても、事前に協議する仕組みを設けたい」

会議室が静かになった。

一人の議員が立ち上がった。

「それは、カルタゴの軍事行動をローマが監視するということか?」

ルキウスは落ち着いて答えた。

「誤解しないでいただきたい」

「……」

「我々は、両国の衝突を避けたいだけだ」

俺は黙って聞いていた。

言っていることは分かる。

だが、問題がある。

軍事拠点を作るたびにローマと協議する。

それは、実質的にローマへ拒否権を与えることにもなりかねない。

カルタゴ側が受け入れるのは難しいだろう。

予想どおり、反発が起きた。

「我々の軍事行動に、なぜローマの許可が必要なのだ!」

「ヒスパニアはローマの領土ではない!」

「第一次ポエニ戦争の賠償金だけでは足りないのか!」

議員たちが次々に声を上げる。

ルキウスは黙って聞いていた。

そして、静かに言った。

「我々は許可を求めろと言っているのではありません」

「では、何だ?」

「協議です」

その言葉を聞いた俺は、少し考えた。

協議。

便利な言葉だ。

だが、具体的な内容が決まっていなければ、いくらでも解釈できる。

俺は手を挙げた。

ハンノがこちらを見た。

「アドン?」

「一つ、確認してもよろしいでしょうか?」

ハンノは少し考えた。

そして頷いた。

「許可する」

俺は立ち上がった。

「アドンと申します。

カルタゴの商人です」

ルキウスが俺を見た。

「商人?」

「はい」

「なぜ商人が、この会議に?」

俺は答えた。

「ヒスパニアで軍の補給と交易整備に関わっているためです」

ルキウスは少し興味を示した。

「ほう」

俺は地図を指差した。

「一つ質問があります」

「どうぞ」

「ローマが懸念しているのは、カルタゴ軍がローマの領土へ侵攻することですか?」

ルキウスは頷いた。

「それも懸念の一つだ」

「では、ローマの同盟都市への攻撃でしょうか?」

「当然、それも含まれる」

俺は頷いた。

「ほう」

そして続けた。

「では、カルタゴがヒスパニアで道路を整備し、商人が交易を行うこと自体には反対していないのですね?」

ルキウスは答えた。

「交易そのものには反対していない」

「ありがとうございます」

俺は頷いた。

「では、軍事行動と交易活動を分けて考えることはできないでしょうか?」

ルキウスが眉を上げた。

「どういう意味だ?」

「道路や港の整備は、軍事目的だけではありません」

俺は説明した。

「商人が商品を運ぶためにも必要です」

「それは理解している」

「ならば、交易用の道路や港については、原則として制限しないという考え方もできると思います」

ルキウスは黙った。

俺は続けた。

「その代わり、両国の同盟都市や交易拠点の安全について、協議する仕組みを作るんです」

ハンノが顔を上げた。

「……ほう」

ルキウスは俺を見つめた。

「商人らしい提案だな」

「ありがとうございます」

「だが、道路は軍隊も使える」

俺は頷いた。

「そのとおりです」

「ならば、交易用の道路だと言いながら、軍隊を進めることもできるのではないか?」

「可能です」

俺は答えた。

会議室が静かになった。

ルキウスは少し驚いた。

「……認めるのか?」

「事実ですから」

俺は頷いた。

「道路は商人も軍隊も使えます」

「ならば、どう区別する?」

俺は少し考えた。

「道路そのものを制限するのではなく、軍事行動の目的や対象を明確にする方がよいと思います」

「目的?」

「はい」

俺は続けた。

「例えば、ローマの同盟都市に対する攻撃を行わない」

「……」

「逆に、ローマもカルタゴの交易拠点を攻撃しない」

「……」

「そして、双方が問題を感じた場合は、使節を派遣して協議する」

ルキウスは考え込んだ。

俺は続けた。

「重要なのは、相手の行動をすべて制限することではなく、戦争につながる行動を減らすことだと思います」

ハンノが頷いた。

「悪くない」

だが、ルキウスは静かに言った。

「問題がある」

俺は顔を上げた。

「何でしょう?」

「どの都市がローマの同盟都市で、どの都市がカルタゴの交易拠点なのか」

「……」

「それを誰が決める?」

俺は黙った。

ほう。

そこが一番難しい。

ヒスパニアには、多くの部族と都市がある。

ある都市はカルタゴと交易している。

別の都市はマッシリアと関係が深い。

さらに、複数の勢力と同時に取引している都市もある。

そんな地域で、勢力圏を明確に分けるのは簡単ではない。

俺は地図を見つめた。

「……では、都市ごとの関係を確認する必要がありますね」

ルキウスは頷いた。

「そのとおりだ」

「ただし、現地の都市や部族の意向も確認するべきだと思います」

ルキウスが顔を上げた。

「意向?」

「はい」

俺は答えた。

「カルタゴと交易したい都市もあれば、ローマやマッシリアと交易したい都市もあります」

「……」

「その選択を、両国だけで決めてしまえば、現地の反発を招く可能性があります」

ルキウスはしばらく考えた。

「……ほう」

俺は続けた。

「だから、まずは双方が懸念している都市や地域を一覧にするところから始めてはどうでしょうか?」

ハンノが頷いた。

「それなら、すぐに国境を決める必要はない」

「はい」

俺は答えた。

「まず、問題になりそうな地域を把握するんです」

ルキウスは静かに言った。

「……検討する価値はあるな」

だが、会議はそれで終わらなかった。

ローマ側は、さらに要求を出してきた。

「もう一つ、確認したいことがあります」

ルキウスが言った。

「何でしょう?」

ハンノが尋ねる。

「カルタゴは、ヒスパニアでどれほどの軍隊を維持するつもりですか?」

会議室が静かになった。

軍隊の規模。

それは重要な軍事情報だ。

簡単に答えるわけにはいかない。

ハンノが慎重に答えた。

「必要な範囲で維持するつもりです」

ルキウスは頷いた。

「その必要な範囲とは?」

「現地の安全を守り、交易を維持するために必要な範囲です」

ルキウスは少し笑った。

「随分と曖昧ですな」

俺は心の中で頷いた。

確かに曖昧だ。

だが、ローマ側の要求も曖昧だった。

双方が相手の軍事力を警戒している。

ならば、数字だけを決めても解決しない。

俺は手を挙げた。

「一つ、よろしいでしょうか?」

ハンノが頷いた。

「話せ」

俺はルキウスを見た。

「ローマは、カルタゴ軍の規模を制限したいのでしょうか?」

ルキウスは答えた。

「必要なら、その可能性もある」

「では、ローマ側も同じ条件を受け入れますか?」

会議室が静かになった。

ルキウスの表情が変わった。

「……何?」

俺は続けた。

「例えば、カルタゴがヒスパニアで維持する軍隊を制限するなら、ローマも同じように軍事力の拡大を制限するということです」

ルキウスは眉をひそめた。

「ローマの軍事力は、ローマ自身が決める」

俺は頷いた。

「そのとおりです」

そして、静かに続けた。

「カルタゴも同じです」

会議室がざわついた。

ハンノが小さく笑った。

ルキウスは俺を見つめた。

「……なかなか言うな、商人」

俺は頭を下げた。

「失礼しました」

「いや」

ルキウスは少し笑った。

「筋は通っている」

その後も議論は続いた。

だが、すべての問題を一度に解決することはできなかった。

最終的に、双方は次の点について協議を続けることで一致した。

まず、ヒスパニアで問題になりそうな都市や地域を確認する。

次に、双方の交易拠点と同盟関係について情報を整理する。

そして、紛争が起きた場合には、直ちに軍事行動へ進むのではなく、使節を通じて協議する。

ただし、軍事力の制限については合意しなかった。

俺は少し安心した。

少なくとも、今すぐ戦争になるような結果は避けられた。

会議が終わった後。

ルキウスが俺に声をかけてきた。

「アドン殿」

「はい」

「少し話せるか?」

俺は頷いた。

「もちろんです」

ルキウスは窓の外を見た。

「カルタゴは豊かな都市だな」

「ありがとうございます」

「港には多くの船がある」

「はい」

「商人たちも活発に取引している」

俺は頷いた。

「それがカルタゴの強みです」

ルキウスは静かに言った。

「だが、ローマにも強みがある」

俺は黙った。

「それは何だと思う?」

俺は少し考えた。

そして答えた。

「兵士を集める力でしょうか?」

ルキウスは笑った。

「それもある」

「では?」

「負けても、戦い続ける力だ」

俺は息を呑んだ。

その言葉は、あまりにも正しかった。

前世の歴史を知っている俺には、よく分かる。

ローマは何度も敗北した。

トレビア。

トラシメヌス湖。

そしてカンナエ。

特にカンナエでは、ローマ軍は壊滅的な損害を受けた。

それでもローマは降伏しなかった。

兵士を集め直した。

同盟都市との関係を維持した。

戦争を続けた。

そして、最後には勝った。

俺は静かに答えた。

「……恐ろしい強みですね」

ルキウスは頷いた。

「そうだ」

そして、俺を見た。

「だから、ローマと戦争をすることは勧めない」

俺は頷いた。

「私も、戦争は避けたいと思っています」

ルキウスは少し笑った。

「ならば、我々は同じ考えだな」

俺も笑った。

「そうかもしれません」

だが、内心では別のことを考えていた。

ローマが負けても戦い続ける国なら。

カルタゴも、一度の敗北で終わらない国にする必要がある。

いや。

そもそも、一度の大勝利だけでローマを屈服させようとする考え方を変えなければならない。

俺は静かに呟いた。

「……戦争は、一度の戦いでは決まらない」

ルキウスが顔を上げた。

「何か言ったか?」

俺は首を振った。

「いえ、何でもありません」

その夜。

俺は父の商会で、今日の会議を整理していた。

ローマの要求。

ヒスパニアの勢力圏。

軍事力の制限。

そして、外交協議。

俺は紙に書いた。

『ローマは、カルタゴの軍事力拡大を警戒している』

その下に続けた。

『だが、現時点では全面戦争を望んでいるとは限らない』

俺は筆を置いた。

「……時間を稼ぐ必要があるな」

カルタゴには、まだ準備が必要だ。

ヒスパニアの経済基盤。

軍の補給。

ヌミディアとの関係。

本国の政治改革。

そして、ハンニバルの成長。

これらを整えるには、時間がかかる。

俺は地図を見つめた。

「……少なくとも、今は戦争を避けたい」

だが、時間を稼ぐだけでは意味がない。

その時間を使って、何を準備するか。

そこが重要だ。

俺は新しい紙を取り出した。

そして、大きく書いた。

『対ローマ長期戦略』

まず、戦争を避けるための外交。

次に、戦争になった場合の補給計画。

さらに、ローマの同盟都市との関係。

そして、ヌミディア騎兵の確保。

最後に――

『ローマが降伏しなくても、勝てる方法を考える』

俺はその文字を見つめた。

前世のハンニバルは、ローマ軍を何度も破った。

だが、ローマそのものを屈服させることはできなかった。

ならば、必要なのは戦場での勝利だけではない。

政治。

経済。

外交。

補給。

そして、長期戦に耐える国家の仕組み。

俺は小さく笑った。

「……やることが多いな」

そのときだった。

扉が叩かれた。

「アドン!」

父の声だった。

「どうしたの?」

「ヒスパニアから急ぎの書簡が届いた!」

俺は顔を上げた。

「ハミルカル将軍から?」

「ああ」

俺は書簡を受け取った。

封を開く。

そして、書かれていた内容を読んだ。

『ヒスパニア北東部で、カルタゴと交易していた都市の一つが、交易条件の見直しを求めてきた。

その都市には、マッシリアの商人たちも出入りしている。

さらに、ローマの使節が接触したという情報がある。

現地の状況を調べてほしい。』

俺は深く息を吐いた。

「……もう動いているのか」

ローマの使節は、カルタゴ本国で平和を語っていた。

だが、その一方で、ヒスパニアの都市との関係も築こうとしている。

もちろん、それ自体は外交活動だ。

カルタゴが現地部族と関係を築くのと同じことだ。

問題は、その結果だった。

俺は地図を広げた。

ヒスパニア北東部。

マッシリア。

そしてローマ。

そこには、複数の勢力の利益が重なる地域がある。

俺は静かに呟いた。

「……次は、都市の取り合いか」

だが、軍隊を送って占領すれば解決するわけではない。

むしろ、ローマに介入する理由を与えてしまう。

必要なのは、現地の都市がカルタゴとの関係を続けたいと思う条件を作ることだ。

俺は新しい紙を取り出した。

そして、こう書いた。

『ヒスパニア都市交易競争計画』

そのとき、父が言った。

「アドン」

「何?」

「一つ、気になることがある」

俺は顔を上げた。

「何?」

父は書簡を指差した。

「その都市の名前だ」

俺はもう一度、書簡を確認した。

そして、息を呑んだ。

そこには、こう書かれていた。

サグントゥム。

俺はしばらく動けなかった。

サグントゥム。

前世の歴史で、第二次ポエニ戦争の直接のきっかけとなる都市。

ハンニバルが包囲し、ローマとの対立が決定的になった場所だ。

俺は書簡を握りしめた。

「……まずい」

父が尋ねた。

「どうした?」

俺は答えられなかった。

まだ戦争が始まるまでには年月がある。

だが、歴史の歯車は、すでに動き始めていた。

俺は静かに呟いた。

「……サグントゥムだけは、絶対に間違えられない」

そして、俺は決意した。

次に向かうのは、ヒスパニア。

目的は、サグントゥムとの関係を調べること。

だが、その都市で俺を待っていたのは――カルタゴにもローマにも従いたくないと考える、一人の若い商人だった。

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