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転生したらカルタゴ人だったので、ハンニバルを勝たせてローマに勝利します  作者: レモンティー


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第百二十七話 カルタゴの財政を調べたら、税金が国庫に届く前に消えていた

紀元前200年。

カルタゴ。

戦争が終わって一年。

俺は、ようやく軍隊への食料輸送から解放された。

その代わり、目の前には山のような帳簿が積まれていた。

「……戦争中より忙しくなってないか?」

俺が呟くと、隣で計算していたメルカルが顔を上げた。

「なっていますね」

「やっぱり?」

「はい。

しかも、今回は敵が見えません」

俺は苦笑した。

「それが一番厄介なんだよな」

俺たちは、ハンニバルから依頼された国家財政の調査を進めていた。

最初に調べたのは港湾税だった。

カルタゴの港には、毎日多くの商船が入ってくる。

穀物。

木材。

金属。

陶器。

香辛料。

布。

それらの商品には、定められた税金がかかる。

本来なら、港で徴収された税金は国庫へ納められる。

ところが。

「……数字が合わない」

俺は二冊の帳簿を並べた。

一冊は港の徴税記録。

もう一冊は国庫の収入記録。

同じ月なのに、金額が違う。

しかも、わずかな差ではなかった。

「メルカル。

この月の港湾税はいくら?」

「銀貨換算で八万二千枚です」

「国庫に入った金額は?」

「五万九千枚です」

俺は指で机を叩いた。

「差額は?」

「二万三千枚」

「……大きいな」

さらに翌月を調べる。

その翌月も。

同じような差額があった。

俺は顔を上げた。

「これ、記録の間違いじゃないぞ」

メルカルも頷いた。

「毎月、一定の割合で減っています」

「つまり、仕組みとして金が消えている」

翌日。

俺は港の徴税所を訪ねた。

責任者は、立派な衣服を着た中年の男だった。

「これはこれは、アドン殿」

男は笑顔で迎えた。

「ザマの勝利に貢献された商人が、何の御用でしょう?」

俺は帳簿を差し出した。

「税収について確認したいことがあります」

男の笑顔が、わずかに固まった。

「税収?」

「はい。

港で徴収した金額と、国庫へ納めた金額が一致しません」

「……手数料でしょう」

「手数料?」

「徴税には人手が必要です。

倉庫の維持費もあります」

俺は頷いた。

「では、その支出記録を見せてください」

男は黙った。

「記録はありますよね?」

「……もちろんです」

「では、お願いします」

男はしばらく俺を見つめていた。

そして、渋々書類を取り出した。

俺はそれを確認した。

警備費。

事務費。

倉庫費。

輸送費。

確かに支出は記録されていた。

だが、妙な項目がある。

『特別調整費』

俺は尋ねた。

「これは何ですか?」

「必要な調整費です」

「何を調整したんです?」

「……いろいろです」

俺は笑った。

「いろいろ、では帳簿に書けませんね」

男の顔から笑みが消えた。

その日の夕方。

俺はハンニバルへ報告した。

「港湾税の一部が、国庫へ納められていません」

ハンニバルは書類を読んだ。

「……どのくらいですか?」

「調査した期間だけでも、かなりの額です」

「横領ですか?」

「その可能性があります。

ただ、まだ断定できません」

俺は続けた。

「正式な手数料と、不正な支出が混ざっています」

ハンニバルは頷いた。

「では、どうします?」

「まず、徴税の仕組みを変えたいです」

「具体的には?」

俺は三枚の木板を並べた。

「徴税所で受け取った金額を記録する」

「はい」

「国庫へ納めた金額を、別の担当者が記録する」

「はい」

「そして、毎月、双方の数字を照合します」

ハンニバルは考え込んだ。

「今までは?」

「徴税を担当する人間が、支出も記録していました」

「……なるほど」

「つまり、自分で集めた金を、自分で使い、自分で報告できたんです」

ハンニバルは静かに言った。

「それでは、不正があっても発見しにくい」

「そうです」

だが、問題はそれだけではなかった。

数日後。

元老院の有力者たちから、改革に反対する声が上がった。

「古くから続く徴税制度を変える必要はない!」

「商人ごときが国家財政に口を出すな!」

「港の徴税権は、正当な契約によって認められている!」

俺は、その報告を聞いてため息をついた。

メルカルが尋ねた。

「どうします?」

俺は答えた。

「契約書を調べよう」

「契約書?」

「そう」

俺は笑った。

「商人が一番よく知っているのは、契約だからね」

調査を進めると、驚くべきことが分かった。

港の徴税権の一部は、特定の有力家門が長期間保有していた。

徴税額の一定割合を報酬として受け取る契約だった。

それ自体が、すべて不正というわけではない。

問題は、契約の内容が曖昧だったことだ。

何を経費として差し引けるのか。

どこまでが正当な報酬なのか。

誰が確認するのか。

明確に定められていなかった。

俺は帳簿を閉じた。

「……なるほど」

メルカルが尋ねた。

「原因が分かりましたか?」

「分かったよ」

「何です?」

俺は答えた。

「悪い人間がいるだけじゃない」

「……?」

「悪いことができる仕組みになっているんだ」

俺はハンニバルへ新しい提案を出した。

徴税契約の期限を明確にする。

徴税額と経費を分けて記録する。

契約更新時には複数の候補者から条件を提出させる。

そして、国庫の収入を定期的に公開する。

ハンニバルは、最後の項目を見て顔を上げた。

「収入を公開するのですか?」

「はい」

「元老院が反対するでしょうね」

「でしょうね」

俺は頷いた。

「でも、国の金がどこへ消えているか分からないままでは、財政は立て直せません」

ハンニバルはしばらく考えた。

そして、笑った。

「……では、反対する人々と話しましょう」

俺は嫌な予感がした。

「……俺もですか?」

「もちろん」

メルカルが隣で小さく笑った。

「また元老院ですね」

俺は頭を抱えた。

戦争が終わっても、戦う相手はなくならないらしい。

ただし、今度は剣ではなく帳簿だった。

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