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転生したらカルタゴ人だったので、ハンニバルを勝たせてローマに勝利します  作者: レモンティー


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第百九話 ザマでローマ騎兵に負けないため、ハンニバルと一緒に新しい戦術を考えた

紀元前203年。

カルタゴ近郊。

ハンニバルの陣営では、軍の再編が進められていた。

イタリアから帰還した兵士。

アフリカで新たに徴兵された兵士。

そして、各地から集まった騎兵。

俺は、訓練場を見つめていた。

歩兵たちが隊列を組む。

騎兵が周囲を走る。

そして、遠くでは戦象の訓練も行われていた。

メルカルが尋ねた。

「……象まで使うんですか?」

俺は頷いた。

「使う可能性はあるね」

「ローマ軍も驚くでしょうね」

俺は首を振った。

「スキピオは、象への対策を考えてくると思う」

メルカルが驚いた。

「どうして分かるんです?」

俺は少し考えた。

「優秀な将軍だからだよ」

だが、俺が本当に警戒しているのは戦象ではなかった。

騎兵だ。

本来の歴史におけるザマの戦い。

カルタゴ軍の騎兵は戦場から追い払われ、最後にはローマ側の騎兵が背後から襲いかかってきた。

正面にはローマ歩兵。

背後には敵の騎兵。

ハンニバルは挟撃され、敗北した。

もちろん、今の歴史はすでに変わっている。

マシニッサが必ずローマ側につくとは限らない。

だが、だからといって安心するわけにはいかなかった。

スキピオは優秀な将軍だ。

こちらの弱点を見つければ、必ず利用してくる。

俺は訓練場を走る騎兵を見つめた。

「……何か、別の方法が必要だな」

その日の午後。

俺はハンニバルと軍議を開いた。

「ザマで戦う可能性を考えるなら、騎兵の問題を先に解決したいです」

ハンニバルは頷いた。

「私も同じ考えです」

ハスドルバルが尋ねた。

「マシニッサは、ローマ側につかないのでは?」

俺は答えた。

「今のところは」

「ならば、問題は小さいのでは?」

俺は首を振った。

「ローマは、別の騎兵を集めるかもしれません」

俺は地図を広げた。

「スキピオは、戦場で騎兵を使うのが上手い」

ハンニバルが頷いた。

「そうでしょうね」

「だから、騎兵の数だけで勝負するのは危険です」

ハスドルバルが尋ねた。

「では、どうする?」

俺は答えた。

「歩兵と騎兵を連携させたいんです」

俺は地面に線を引いた。

中央に歩兵。

左右に騎兵。

そして、後方に予備兵。

「敵の騎兵が側面を攻撃してきた場合、歩兵が支援できる位置に予備兵を置きます」

ハンニバルは考え込んだ。

「騎兵だけに側面防御を任せないわけですね」

「はい」

ハンニバルは頷いた。

「良い考えです」

だが、すぐに続けた。

「ただし、歩兵を側面へ動かせば、中央が薄くなる」

俺は頷いた。

「そうですね」

「だから、予備兵の使い方が重要になります」

俺は、ハンニバルの言葉を聞きながら考えた。

やはり、軍事の専門家は違う。

俺が思いつくことは、せいぜい基本的な配置までだ。

実際の戦場では、敵も動く。

地形も変わる。

兵士は疲れる。

そして、予定どおりに進まない。

そのときだった。

俺は、ふと前世で知っていた道具を思い出した。

「……そうだ」

ハンニバルが俺を見た。

「何か思いつきましたか?」

「騎兵を止める道具があります」

「道具?」

「はい。馬の足を傷つけて、進軍を妨害するものです」

ハスドルバルが眉をひそめた。

「落とし穴か?」

「いいえ。もっと小さなものです」

俺は紙を取り出した。

そこに、四本の尖った鉄の突起を持つ道具を描いた。

「トリブルス(まきびし)です」

ハンニバルが紙を覗き込んだ。

「トリブルス(まきびし)?」

「地面に撒く鉄製の障害物です。」

俺は図を指差した。

「四本の突起を四面体状に配置すれば、地面に落としたとき、どの向きになっても一本の尖った部分が上を向きます」

ハスドルバルが驚いた。

「なるほど。馬が踏めば危険だな」

「はい。馬は足を傷つければ、思うように走れなくなります」

ハンニバルは紙を手に取った。

「しかし、馬がこれを見つければ避けるでしょう」

「そのとおりです」

俺は頷いた。

「ですから、これだけで敵騎兵を全滅させようとは考えていません」

「では、何のために?」

「敵の進路を制限するためです」

俺は地図の左右に印を付けた。

「騎兵が突撃しやすい場所を、あらかじめ危険な地面にしておきます」

ハンニバルが身を乗り出した。

「敵は、そこを通りにくくなる」

「はい。迂回するか、速度を落とすか、別の場所から攻撃するしかありません」

「そして、その動きを予測して兵を配置する」

「そうです」

ハンニバルはしばらく考え込んだ。

やがて、小さく笑った。

「面白い」

ハスドルバルが尋ねた。

「しかし、敵だけでなく味方の馬も踏むのでは?」

「それが問題です」

俺は頷いた。

「味方の騎兵が通る場所には撒けません。戦象にも危険です」

ハンニバルが言った。

「つまり、事前に戦場を調べ、味方の移動経路を決めておく必要がある」

「はい。それに、敵が別の方向から攻撃してくれば、役に立たない場所も出てきます」

「雨や泥で埋まることもあるでしょう」

「その可能性もあります」

ハンニバルは図を見つめた。

「万能ではありませんね」

「はい」

俺は答えた。

「ですが、騎兵を止められなくても、突撃を遅らせることができれば意味があります」

ハンニバルが頷いた。

「予備兵が動く時間を作れる」

「そうです」

俺は続けた。

「本来なら、敵の騎兵がこちらの背後へ回り込むまでに、対応できる時間が必要なんです」

ハンニバルは少し考えた。

「つまり、騎兵の数で勝てなくても、敵に自由な機動を許さない戦い方をするわけですね」

「はい」

ハスドルバルが腕を組んだ。

「だが、そんな鉄製品を大量に作れるのか?」

俺は笑った。

「それなら、商人の仕事です」

メルカルが、嫌な予感がしたような顔をした。

「……また何か大量に注文するつもりですね?」

「鉄を扱う鍛冶職人を集めてほしい」

「何人くらいです?」

「まずは試作品を作れる人数でいいよ」

「まずは、という言い方が気になりますね」

ハンニバルが笑った。

「アドン。あなたは戦術を考えているときも、商売の話になるのですね」

「軍隊は、武器を用意できなければ戦えませんから」

「違いない」

こうして、カルタゴ軍では新しい障害物の試作が始まった。

数日後。

軍の鍛冶場に、最初のトリブルス(まきびし)が完成した。

四本の鋭い鉄の突起。

手のひらに収まるほどの小さな道具だった。

俺は、それを地面に落としてみた。

金属が乾いた音を立てる。

そして、一本の突起が上を向いた。

向きを変えて、もう一度落とす。

やはり、一本が上を向く。

メルカルが顔をしかめた。

「……こんなものを踏んだら、痛そうですね」

「だから、素手でも触らない方がいいよ」

ハスドルバルが言った。

「問題は、本当に騎兵を止められるかだな」

ハンニバルは頷いた。

「試してみましょう。ただし、馬を傷つける必要はありません」

まず、木製の模型を使って配置と回避の訓練を行うことになった。

訓練場に、模擬的な危険区域を作る。

その場所を避けながら、騎兵が進む。

すると、予想したとおりの問題が起きた。

騎兵の進路が限定される。

速度が落ちる。

隊列が乱れる。

だが、同時に別の問題も見つかった。

「……味方の騎兵まで動きにくくなっていますね」

ハスドルバルが言った。

ハンニバルは頷いた。

「この配置では駄目です」

俺は地図を見直した。

「味方の通路を確保する必要がありますね」

「それだけではありません」

ハンニバルが続けた。

「敵が障害物のない場所へ集中すれば、そこが突破されます」

俺は頷いた。

「では、その場所に予備兵を置きましょう」

ハンニバルは首を振った。

「それでは敵に配置を読まれます」

「……確かに」

「重要なのは、障害物そのものではなく、敵の動きに応じて部隊を動かせることです」

俺は思わず笑った。

「やっぱり、戦術は難しいですね」

「だからこそ、訓練するのです」

ハンニバルは穏やかに答えた。

その後、俺たちは本来予定していた歩兵と騎兵の連携訓練に、トリブルス(まきびし)を想定した障害区域を組み込むことにした。

一方の部隊がローマ軍役。

もう一方がカルタゴ軍役。

騎兵が側面へ回り込む。

歩兵が隊列を変える。

予備兵が支援に向かう。

だが、最初の訓練では失敗した。

予備兵の移動が遅れたのだ。

ハスドルバルが叫んだ。

「中央が空いている!」

ハンニバルが頷いた。

「やり直しです」

俺は、訓練を見ながら呟いた。

「……簡単じゃないな」

メルカルが頷いた。

「当たり前ですよ」

「そうだね」

何度も訓練を繰り返した。

騎兵の動き。

歩兵の隊列。

予備兵の投入。

そして、戦象の扱い。

トリブルス(まきびし)を使う場所と、使わない場所。

少しずつ、連携が改善されていった。

ある日の訓練では、ローマ軍役の騎兵が側面から突撃してきた。

だが、模擬的な障害区域を避けたため、進路が大きく変わった。

そこへ予備兵が移動する。

歩兵が隊列を整える。

騎兵が反撃する。

ハスドルバルが叫んだ。

「今だ! 側面を守れ!」

模擬戦は、カルタゴ軍役の防御成功で終わった。

メルカルが喜んだ。

「やりましたね!」

俺も思わず笑った。

「うん。少しは形になったかな」

だが、ハンニバルは冷静だった。

「まだ成功とは言えません」

「どうしてです?」

「敵が、この道具を知らなかった場合の訓練だからです」

ハンニバルは地面に置かれた木製の模型を拾い上げた。

「スキピオがこれを知れば、対策を考えるでしょう」

俺は頷いた。

「そうですね」

「ならば、敵がトリブルス(まきびし)の存在を知っている場合も試さなければなりません」

「分かりました」

ハンニバルは続けた。

「それに、敵が障害物を避けるとは限りません。歩兵を先に進めて通路を確保しようとするかもしれない」

俺は感心した。

「そこまで考えるんですね」

「敵も勝つために考えていますから」

その言葉に、俺は黙って頷いた。

前世の知識で、未来の戦いを知っている。

だが、それだけでは勝てない。

新しい兵器を用意したからといって、必ず勝てるわけでもない。

必要なのは、敵がどう動いても対応できる準備だった。

その日の夕方。

ハンニバルが俺に言った。

「アドン」

「はい」

「あなたは、戦争の未来を変えたいのですね」

俺は頷いた。

「はい」

「では、一つ覚えておいてください」

俺は顔を上げた。

ハンニバルは静かに言った。

「戦術が優れていても、兵士がそれを実行できなければ意味がありません」

俺は頷いた。

「……そのとおりですね」

ハンニバルは手にしたトリブルス(まきびし)の模型を見つめた。

「この小さな道具も同じです」

「はい」

「使い方を間違えれば、味方を傷つける。ですが、正しく使えば、敵の行動を制限できるかもしれない」

ハンニバルは俺を見た。

「私は、道具そのものよりも、それを使って何ができるかを考えたい」

俺は笑った。

「やっぱり、将軍には敵いませんね」

「そんなことはありません」

ハンニバルも笑った。

「あなたが考え、私が戦場で使える形にする。それでよいのではありませんか?」

俺は頷いた。

「そうですね」

商人と将軍。

役割は違う。

だが、目指しているものは同じだった。

カルタゴを勝たせること。

そして、滅亡するはずの未来を変えることだ。

その夜。

俺は補給帳簿を確認していた。

兵士の食料。

馬の飼料。

武器。

そして、医療用品。

そこに、新しい項目が加わっていた。

トリブルス(まきびし)。

試作品の数量。

鍛冶職人の作業時間。

必要な鉄の量。

輸送に使う木箱。

さらに、戦場で回収するための人員。

メルカルが帳簿を覗き込んだ。

「……また帳簿ですか?」

俺は笑った。

「また帳簿だよ」

「今度は鉄の棘まで管理するんですね」

「もちろん」

「ザマの戦いでも、帳簿が役に立つんですか?」

俺は頷いた。

「もちろん」

「どうして?」

俺は答えた。

「兵士が戦うには、食べなきゃいけないからね」

「それは分かりますけど」

「それに、必要な武器が必要な場所に届かなければ、使えないだろう?」

メルカルはため息をついた。

「……結局、全部商売と同じなんですね」

「そういうこと」

俺は帳簿を閉じた。

だが、そのときだった。

伝令が駆け込んできた。

「報告!」

俺は顔を上げた。

「何?」

「スキピオ軍が、内陸へ進軍を開始しました!」

俺は地図を広げた。

そして、敵の進路を確認した。

「……この方向か」

ハンニバルが近づいてきた。

「どうしました?」

俺は地図を指差した。

「スキピオが、ザマ方面へ向かう可能性があります」

ハンニバルは頷いた。

「では、我々も動きましょう」

俺は、しばらく地図を見つめていた。

紀元前203年。

本来の歴史では、ザマの戦いは翌年。

だが、今は歴史が変わっている。

戦いが早まる可能性もある。

場所が変わる可能性もある。

そして、結果も変わるかもしれない。

俺は呟いた。

「……今度こそ、勝ちたい」

ハンニバルは静かに答えた。

「私もです」

俺は机の上に置かれた、小さな鉄の棘を見つめた。

たった一つのトリブルス(まきびし)。

それだけで、ローマ軍を倒せるわけではない。

だが、こうした小さな工夫を積み重ねることで、戦場の状況は変えられるかもしれない。

騎兵。

歩兵。

戦象。

補給。

そして、新しい戦術。

俺たちは、史実のザマで起きた敗北を繰り返さないために、できる限りの準備を進めてきた。

ハンニバルが言った。

「アドン。準備はできていますか?」

俺は頷いた。

「はい。少なくとも、何も知らずに戦うつもりはありません」

ハンニバルは笑った。

「それで十分です」

カルタゴ軍は、スキピオ軍との決戦に向けて動き始めた。

だが、ザマの戦いがどのような形になるのかは、まだ誰にも分からなかった。

ただ一つ、確かなことがある。

今度のハンニバルは、史実とは違う準備をしている。

そして、その準備の中には、商人の俺が持ち込んだ小さな鉄の棘も含まれていた。

歴史を変えるのは、必ずしも大きな剣や強大な軍隊だけではない。

ときには、地面に落ちた小さな鉄の棘が、戦場の運命を変えることだってあるのかもしれない。

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