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転生したらカルタゴ人だったので、ハンニバルを勝たせてローマに勝利します  作者: レモンティー


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第百七話 スキピオが補給拠点を狙ってきたので、倉庫を捨てて兵士と食料を逃がした

紀元前204年。

カルタゴ近郊。

俺たちが整備した補給拠点は、丘の麓にあった。

石造りの倉庫が三棟。

穀物を保管する地下室。

馬の飼料置場。

そして、荷車の修理場。

俺は、その場所を気に入っていた。

港からも遠すぎず、内陸の街道にも接続している。

軍へ食料を送るには便利だった。

だが。

便利な場所は、敵にとっても攻撃しやすい。

ある日の昼過ぎ。

偵察兵が駆け込んできた。

「ローマ軍の騎兵が、東の丘に現れました!」

俺は顔を上げた。

「何騎?」

「確認できただけで百騎以上!」

メルカルが立ち上がった。

「まずいですよ!」

俺は地図を広げた。

「偵察だけとは限らない」

「どうします?」

俺は倉庫を見回した。

麦。

干し肉。

油。

武器。

そして、荷車。

全部を運び出すには時間がかかる。

俺は責任者に尋ねた。

「荷車は何台動かせる?」

「二十七台です!」

「馬は?」

「すべて使えます!」

俺は頷いた。

「では、運ぶ順番を決めます」

最初に負傷者と医療用品。

次に、すぐ食べられる食料。

そのあとに、保存の利く穀物。

修理できない荷車は置いていく。

俺は指示を出した。

メルカルが尋ねた。

「倉庫の食料を全部運ぶんですか?」

「無理だ」

「では、残りは?」

俺は少し考えた。

「敵に使われないように処分するしかない」

メルカルは黙った。

「……もったいないですね」

「俺もそう思う」

俺は倉庫を見つめた。

何か月もかけて集めた食料だった。

それを自分たちの手で失う。

商人として、こんなにつらいことはない。

夕方。

ローマ軍の先遣隊が接近した。

補給拠点の護衛兵が、丘の上に布陣した。

俺は荷車の列を見守っていた。

「急いでください!」

馬がいななく。

車輪が石を踏んで跳ねる。

兵士たちが袋を積み込む。

そのとき。

一台の荷車が動かなくなった。

「車軸が折れました!」

俺は駆け寄った。

車輪が傾いている。

修理には時間がかかる。

「荷物を別の車へ移して!」

「でも、もう積めません!」

俺は周囲を見た。

荷車は満載だった。

「……分かった」

俺は言った。

「この荷物は置いていく」

兵士が驚いた。

「本当に?」

「はい」

「ですが、貴重な油です!」

俺は頷いた。

「分かっています」

そして、続けた。

「でも、油のために人を死なせるわけにはいかない」

日が沈むころ。

最後の荷車が出発した。

俺は、空になりかけた倉庫を見つめた。

護衛隊長が近づいてきた。

「アドン殿、もう撤退してください」

「残った物資は?」

「敵に渡さないよう処理します」

俺は頷いた。

「お願いします」

夜。

遠くで炎が上がった。

俺たちの倉庫だった。

俺は馬の上から、その光景を見つめていた。

メルカルが呟いた。

「……全部、燃えてしまいましたね」

「全部じゃない」

俺は答えた。

「運べた分は残ってる」

「でも……」

「それに、人も残ってる」

メルカルは黙った。

翌朝。

ローマ軍が補給拠点へ到着した。

だが、そこには焼けた倉庫しかなかった。

将校がスキピオへ報告した。

「敵は撤退しました」

スキピオは頷いた。

「物資は?」

「ほとんどありません」

「……」

「運び出したか、焼却したようです」

スキピオは、黒く焦げた倉庫を見つめた。

「敵は、倉庫より軍の維持を優先したのか」

将校が尋ねた。

「追撃しますか?」

スキピオは首を振った。

「深追いはするな」

そして、静かに言った。

「この敵は、追い詰めれば簡単に崩れる相手ではない」

俺は新しい補給拠点へ到着した。

疲れ切った兵士たちが、水を飲んでいた。

メルカルが帳簿を持ってきた。

「損失をまとめました」

俺は受け取った。

かなりの額だった。

思わずため息が出た。

「……高い授業料だったな」

メルカルが頷いた。

「はい」

そして、少し笑った。

「でも、次は同じ場所に大きな倉庫を作らない方がいいですね」

俺は顔を上げた。

「……そうだね」

「小さな倉庫を分散して、必要なときに集める」

俺は驚いた。

「それ、いい考えだよ」

メルカルは胸を張った。

「何年、あなたの補給担当をしていると思っているんですか?」

俺は笑った。

「頼もしくなったな」

「最初から頼もしかったですよ」

こうして、カルタゴ軍の補給体制は変わった。

一つの大きな倉庫ではなく、複数の小さな拠点。

物資の所在は限られた担当者だけが知る。

必要なときに集め、使ったらまた分散する。

だが。

その間にも、スキピオ軍はアフリカで勢力を拡大していた。

そして、カルタゴ元老院では、ある決断が議論され始めていた。

ハンニバルを、イタリアから呼び戻すべきではないか。

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