第百四話 スキピオがアフリカへ上陸したので、カルタゴ本国が大騒ぎになった
紀元前204年。
北アフリカ。
ローマ軍が、ついにアフリカへ上陸した。
スキピオ率いる遠征軍だった。
俺は、港の監視所でその報告を受け取った。
「……来たか」
メルカルが頷いた。
「はい」
俺は地図を広げた。
ローマ軍の上陸地点。
カルタゴ。
周辺の農村。
そして、補給路。
「……狙いは分かってる」
メルカルが尋ねた。
「カルタゴを攻めるんですか?」
「最終的にはね」
俺は答えた。
「でも、最初から城壁へ突っ込んでくるとは思えない」
「では?」
「まず、周辺地域を押さえる」
ローマ軍の陣営。
スキピオは、アフリカの地図を見つめていた。
将校が報告した。
「上陸は成功しました」
スキピオは頷いた。
「よし」
「カルタゴ軍は、まだ大規模な反撃を行っていません」
「当然だ」
スキピオは静かに言った。
「我々がどこへ向かうか、見極めているのだろう」
将校が尋ねた。
「次は?」
スキピオは答えた。
「まず、拠点を確保する」
そして、続けた。
「カルタゴ軍を、こちらの望む場所で戦わせる」
そのころ。
カルタゴ元老院は混乱していた。
「ローマ軍がアフリカへ来た!」
「本国が危険だ!」
「ハンニバルを呼び戻せ!」
俺は議場で、その議論を聞いていた。
そして、静かに立ち上がった。
「一つ、確認したいことがあります」
ハンノが顔を上げた。
「何だ?」
俺は答えた。
「ローマ軍が上陸したからといって、すぐにカルタゴが陥落するわけではありません」
「……」
「まず、敵の補給を調べる必要があります」
俺は地図を広げた。
ローマ軍の上陸地点。
海上補給路。
そして、周辺の港。
「ローマ軍は、海を越えてきました」
ハンノが頷いた。
「それがどうした?」
俺は答えた。
「つまり、食料や武器の多くを船で運ぶ必要があります」
「……」
「その補給路を妨害できれば、敵の行動は制限されます」
議員たちは、顔を見合わせた。
一人が尋ねた。
「海軍で攻撃するのか?」
俺は答えた。
「可能ならば」
そして、続けた。
「ただし、ローマ艦隊との正面決戦は避けたい」
俺は提案した。
「まず、沿岸部の監視を強化します」
「……」
「敵の補給船がどこへ向かうか調べます」
「……」
「そして、攻撃できる船だけを狙います」
元老院は、海軍の一部を動かすことを承認した。
俺は頷いた。
「……よし」
数日後。
カルタゴの港では、軍船の準備が進められていた。
俺は、アドヘルバルと会っていた。
「久しぶりです」
アドヘルバルは笑った。
「また商船の話か?」
俺は頷いた。
「今回は、ローマの商船です」
「……ほう?」
俺は地図を広げた。
「ローマ軍の補給船が、どの港から来るか調べたい」
アドヘルバルが頷いた。
「分かった」
「ただし、無理な攻撃は避けてください」
「……」
「敵の護衛艦が多ければ、引き返して構いません」
アドヘルバルは笑った。
「商人は慎重だな」
俺も笑った。
「船を失うと高いですから」
数週間後。
カルタゴ海軍は、ローマの補給船を一部妨害することに成功した。
だが、ローマ軍の補給を完全に止めることはできなかった。
俺は報告を見つめた。
「……やっぱり、強いな」
メルカルが頷いた。
「ローマ海軍も経験を積んでいますからね」
そのころ。
スキピオは、カルタゴ軍の動きを確認していた。
将校が報告した。
「カルタゴ海軍が、我々の補給船を狙っています」
スキピオは頷いた。
「予想どおりだ」
「どうします?」
スキピオは答えた。
「護衛を強化する」
そして、続けた。
「さらに、陸上で食料を確保する」
俺は、その情報を聞いて眉をひそめた。
「……そう来るか」
メルカルが尋ねた。
「どうします?」
俺は答えた。
「ローマ軍が、周辺の農村から食料を集め始める」
「……」
「つまり、農村が戦場になる」
俺は、カルタゴ元老院へ新しい提案を出した。
「沿岸部の住民を避難させたいと考えています」
ハンノが尋ねた。
「避難?」
俺は頷いた。
「はい」
「なぜだ?」
「ローマ軍が、食料を求めて農村へ進出する可能性があります」
俺は続けた。
「住民を守るため、避難場所を用意したい」
「……」
「そして、収穫物を安全な倉庫へ移動させます」
元老院は、避難計画を承認した。
俺は頷いた。
「……よし」
だが。
ローマ軍は、すでに動いていた。
沿岸部の村々へ、偵察部隊が現れ始めた。
俺は、その報告を受け取った。
「……時間がないな」
メルカルが頷いた。
「はい」
俺は、避難部隊を急がせた。
荷車。
食料。
家畜。
そして、住民。
俺は叫んだ。
「急いでください!」
「子供と老人を優先して!」
「荷物は必要なものだけです!」
数日後。
一部の村では、住民の避難が完了した。
だが、すべての村を救えたわけではない。
俺は報告を見つめた。
「……また、間に合わなかったか」
メルカルが静かに言った。
「それでも、助かった人はいます」
俺は頷いた。
「……そうだね」
その夜。
カルタゴの城壁の上から、遠くの空を見つめていた。
ローマ軍が来た。
アフリカが戦場になった。
そして、カルタゴ本国が危険にさらされている。
俺は呟いた。
「……とうとう、ここまで来たか」
そのとき。
メルカルが、新しい報告書を持ってきた。
「アドン殿!」
俺は顔を上げた。
「何?」
メルカルは答えた。
「スキピオが、ヌミディアの勢力と接触しているようです!」
俺は眉をひそめた。
「……マシニッサか?」
メルカルは首を振った。
「いいえ」
俺は息を呑んだ。
「……まさか」
メルカルは答えた。
「シュファクスです!」
俺は地図を広げた。
ヌミディア。
カルタゴ。
そして、ローマ軍。
俺は呟いた。
「……スキピオも、簡単には諦めないな」
マシニッサを敵にしないことには成功した。
だが、ローマは別の協力者を探していた。
そして、アフリカの戦争は、さらに複雑になろうとしていた。




