おまけ
あれから二週間が経った、日曜日の深夜。
自室のデスクの前で、新見はふうと静かに息を吐き出した。
液晶画面に映る動画配信の管理画面。
一時は狂ったように跳ね上がっていた再生回数のグラフは、緩やかな水平線を描き、ようやく落ち着きを取り戻していた。
ネットの流行の移り変わりは恐ろしく早い。あれだけ騒がれたノーデスクリアの切り抜き動画も、次から次へと流れてくる新しいバズの濁流に押し流され、今やタイムラインで見かけることもほとんどなくなった。
(本当に……みんな、僕のことなんて気にしてなかったんだな)
創一の言っていた「スポットライト効果」は本当だった。
学校に行っても、誰も新見をジロジロ見たり陰口を叩いたりなどしていなかった。みんな自分の試験勉強や部活、友達との連絡に忙しいだけなのだ。
もちろん、今でも教室を歩くときは人の目が少し気にはなる。
時折、動画のコメント欄に心無い中傷や嫌がらせが書き込まれることもある。けれど、そんな時は、深呼吸をひとつして、感情を挟まずに淡々と『ブロック&非表示』のボタンを押せるようになった。
画面をスクロールすれば、「淡々とした解説、落ち着きます」「次の動画も待ってます」という温かいコメントが、悪意の何倍も並んでいる。
(やっぱり……僕はゲームが好きだし、動画を作るのが好きなんだ)
将来は、ゲームのクリエイターや映像に関わる仕事ができたらいいな。
そんな前向きな輪郭が、胸の奥に灯り始めていた。
あれ以来、酷かった金縛りはピタリと止まり、夜もぐっすり眠れるようになっていた。
——ただ、ひとつだけ。
「……あれは、なんだったんだろうな」
新見はふと、部屋の隅の暗がりを見つめた。
金縛りが解けた最初の夜。
スマホの電源を切り、暗闇の中で深呼吸をしていた時、確かにベッドの足元に「黒いモヤのような影」がぼんやりと立っていたのだ。
だが、その影はもう新見の上にのしかかってくることもなく、耳元で呪いを囁くこともなかった。
ただじっと新見を見つめ、新見が心の中で「サインをくれて、ありがとう」と小さく呟いた瞬間——すうっと輪郭をほどき、まるで役目を終えたかのように、開けた窓の夜風の中に消えていった。
あれは創一の言った、脳が見せた入眠時幻覚のバグだったのか。
それとも詩織の言った、自分の魂のズレを警告しにきてくれた、宇宙のメッセンジャーだったのか。
カタ、と窓の外で小さな夜風の音がした。
新見はふっと微笑むと、机の上のマイクの位置を直し、新しいゲームの録画ボタンを押した。




