↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
10/25

こっくりさん⑤

「結局、私たちはどうすれば……」


 創一の冷酷なまでの現実解釈と、詩織のノリノリなオカルト説の挟み撃ちに遭い、美咲と綾は完全に呆然としていた。


「とりあえず……沙織と直接ちゃんと話してみたらどうだ?」


 見かねた蓮司が助き船を出すように言った。


「『神崎のことが好きなのは分かったけど、急に人が変わったみたいになって心配だ』ってよ。こっくりさんだろうが本性だろうが、ぶつかるしかねぇだろ」


「……そうですね。一回、沙織とちゃんと話してみます」


 綾は小さく息を吐き、どこか吹っ切れたような、けれど切ない表情で頷いた。

 二人は蓮司にお礼を言うと、逃げるように部室を後にしていった。


 バタン、と古びたドアが閉まり、部室に再びお香の煙と静寂が戻ってくる。


「……もう、いい加減にしてよ! 創一!」


 詩織がタロットカードを机に叩きつけ、むくれた顔で創一を睨みつけた。


「ほんっとうにロマンがないんだから! あれは絶対に『狐憑き』よ! 神社でお祓いして除霊しない限り、沙織ちゃんは元には戻らないわ!」


「どうだろうね」


 創一は文庫本を開いたまま、ページの端に視線を落としたまま静かに返した。


「もし仮にお祓い(除霊)とやらをしたとして……彼女が何ひとつ元に戻らなかった時の方が、よほど恐ろしいと思わないかい?」


「え……?」


「人間というのは、時に怪異よりも遥かに複雑で、難解な生き物だ。誰もが社会生活を営むために、何重もの『仮面(ペルソナ)』を被って生きている。彼女はただ、こっくりさんという免罪符を得て、被っていた仮面を脱ぎ捨てただけ、かもしれない」


 創一は本をめくる手を止め、メガネの奥の不透明な瞳を詩織へと向けた。


「あら、あなたは別でしょう? 仮面なんて被りそうにないじゃない」


 詩織が皮肉っぽく微笑むと、創一はほんのわずかに口角を上げ、また視線を本へと戻した。


「……どうだろうね。僕の仮面の下がどうなっているかなど、僕自身にも分からないさ」


  *


 ——そして、数日後。


 結局、綾が沙織と「本当の気持ち」を話し合う機会は、永久に訪れなかった。


 沙織は突然、学校に来なくなったのだ。

 病欠かと思われたが、一週間が過ぎた頃、担任から「家庭の事情による急な転校」とだけあっさりと発表された。


 彼女のスマホの番号は「現在使われておりません」の無機質なアナウンスに変わり、グループチャットからは静かに退会。SNSのアカウントも、痕跡ごと綺麗に削除されていた。

 彼女が急接近していたはずの神崎に尋ねてみても、「え? いや、なんか急にいなくなった。連絡先も消えてるし……」と、狐につままれたような顔をするだけだった。


 彼女は今、どこで、どんな顔をして暮らしているのか。

 髪を染め、大人びた笑みを浮かべていたあの姿は、彼女の『本性』だったのか。

 それとも、あの放課後に『何か』と入れ替わり、そのままどこか遠くへ連れ去られてしまったのか——。


 真実を知る者は、誰もいない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。