こっくりさん⑤
「結局、私たちはどうすれば……」
創一の冷酷なまでの現実解釈と、詩織のノリノリなオカルト説の挟み撃ちに遭い、美咲と綾は完全に呆然としていた。
「とりあえず……沙織と直接ちゃんと話してみたらどうだ?」
見かねた蓮司が助き船を出すように言った。
「『神崎のことが好きなのは分かったけど、急に人が変わったみたいになって心配だ』ってよ。こっくりさんだろうが本性だろうが、ぶつかるしかねぇだろ」
「……そうですね。一回、沙織とちゃんと話してみます」
綾は小さく息を吐き、どこか吹っ切れたような、けれど切ない表情で頷いた。
二人は蓮司にお礼を言うと、逃げるように部室を後にしていった。
バタン、と古びたドアが閉まり、部室に再びお香の煙と静寂が戻ってくる。
「……もう、いい加減にしてよ! 創一!」
詩織がタロットカードを机に叩きつけ、むくれた顔で創一を睨みつけた。
「ほんっとうにロマンがないんだから! あれは絶対に『狐憑き』よ! 神社でお祓いして除霊しない限り、沙織ちゃんは元には戻らないわ!」
「どうだろうね」
創一は文庫本を開いたまま、ページの端に視線を落としたまま静かに返した。
「もし仮にお祓い(除霊)とやらをしたとして……彼女が何ひとつ元に戻らなかった時の方が、よほど恐ろしいと思わないかい?」
「え……?」
「人間というのは、時に怪異よりも遥かに複雑で、難解な生き物だ。誰もが社会生活を営むために、何重もの『仮面』を被って生きている。彼女はただ、こっくりさんという免罪符を得て、被っていた仮面を脱ぎ捨てただけ、かもしれない」
創一は本をめくる手を止め、メガネの奥の不透明な瞳を詩織へと向けた。
「あら、あなたは別でしょう? 仮面なんて被りそうにないじゃない」
詩織が皮肉っぽく微笑むと、創一はほんのわずかに口角を上げ、また視線を本へと戻した。
「……どうだろうね。僕の仮面の下がどうなっているかなど、僕自身にも分からないさ」
*
——そして、数日後。
結局、綾が沙織と「本当の気持ち」を話し合う機会は、永久に訪れなかった。
沙織は突然、学校に来なくなったのだ。
病欠かと思われたが、一週間が過ぎた頃、担任から「家庭の事情による急な転校」とだけあっさりと発表された。
彼女のスマホの番号は「現在使われておりません」の無機質なアナウンスに変わり、グループチャットからは静かに退会。SNSのアカウントも、痕跡ごと綺麗に削除されていた。
彼女が急接近していたはずの神崎に尋ねてみても、「え? いや、なんか急にいなくなった。連絡先も消えてるし……」と、狐につままれたような顔をするだけだった。
彼女は今、どこで、どんな顔をして暮らしているのか。
髪を染め、大人びた笑みを浮かべていたあの姿は、彼女の『本性』だったのか。
それとも、あの放課後に『何か』と入れ替わり、そのままどこか遠くへ連れ去られてしまったのか——。
真実を知る者は、誰もいない。




