第7話 護送任務
【Side ギルバート】
1
ドラゴニア王国近衛兵。
五十名からなる精鋭部隊――それが俺たちだ。
その頂点に立つのは、“竜騎士”と呼ばれる存在だった。
常にフルフェイスの鎧を纏い、素性は一切不明。
そんな人間を要職に据えていいのかと疑問は尽きないが――実力だけは本物だ。
模擬訓練では、近衛兵五十人が束になって挑んでも、軽くあしらわれた。
あれは、人間じゃない。化物だ。
その竜騎士から、ある日、指令が下された。
「聖女セレナ・アリアーナの護送任務、ですか?」
「そうだ。近衛兵から十三名を選抜し、ナイトフロスト魔法学院まで護送する。ギルバート、その指揮を任せる」
「……近衛兵が、ですか?」
思わず聞き返していた。
「聖女は教会所属のはずです。通常、護送は教会騎士団が――」
「あの方は聖女であると同時に、カイン殿下の婚約者でもある。王国側が動くことに問題はない」
理屈としては、間違っていない。
だが、どこか引っかかる。
「……分かりました。ただ、準備期間が短すぎます。通常は最低でも十日――」
「やむを得ない事情がある」
竜騎士の声が、わずかに低くなる。
「ここから先は極秘事項だ。外部への漏洩は許さない」
俺は息を呑んだ。
「三日後、聖女セレナ・アリアーナは追放される。偽物だったことが発覚した」
「……は?」
理解が追いつかない。
「そんなはずがないでしょう。あの方は――」
言葉が自然と溢れ出た。
「俺の故郷は、瘴気で滅びかけていた。それを救ったのは、あの方です。あの方がいなくなれば、この国は――」
「それを判断するのは我々ではない」
冷たく、断ち切られた。
反論は喉元で止まる。
「……ですが」
「ギルバート」
竜騎士が遮る。
「お前に上層部の決定を覆せるか?」
「……出来ません」
「ならば、出来ることを考えろ。それが近衛兵だ」
正論だった。
だからこそ、何も言い返せなかった。
2
それでも、納得などできるはずがなかった。
どうしてあの方が、そんな目に遭わなければならないのか。
理解できない。理解したくもない。
だが――現実は変わらない。
俺は命令通り、近衛兵の中から十二名を選抜した。
あえて、セレナ様に好意を持つ者たちを選んだ。
だから当然、説明した時、反発が起きた。
「聖女を追放なんて、おかしいです!」
「そんな任務、引き受けるべきじゃありません!」
その気持ちは、痛いほど分かる。
何より――俺自身が、そう思っている。
だが。
「……俺たちに出来るのは、護送だけだ」
静かに言った。
「“聖女”は、人々の心の拠り所だ。それが偽物だったとされる。……どうなると思う?」
場の空気が凍りついた。
誰もが、その先を想像したのだろう。
彼女に罵倒を浴びせる者がいるだろう。
彼女を襲おうとする者も出てくるかもしれない。
「魔法学院までの道中は、安全とは言えない。俺たちの役目は一つだ」
言葉に力を込める。
「セレナ様を、最後まで守り抜くことだ」
誰も口を挟まない。
「……ただし、護送の時点でセレナ様は“元聖女”だ。敬礼は許されない」
「それでは、あまりにも――」
「理不尽だな」
はっきりと言い切った。
「それでもやるしかない」
拳を握る。
「出来る限りの敬意を払って、送り届ける。それが俺たちに出来る、唯一のことだ」
これは部下に向けた言葉だったのか。
それとも、自分自身に言い聞かせていたのか。
――多分、両方なのだろう。




