第7話 護送任務
【Side ギルバート】
1
ドラゴニア王国近衛兵。
50人からなる精鋭部隊である我々を束ねるのは、竜騎士と呼ばれる兵士だ。いつもフルフェイスの鎧を身に着けており、その素性は一切不明。要職にそんな人間を据えて大丈夫なのかと気になるが、実力だけは確かだ。模擬訓練で近衛兵50人が束になってかかっても、それを難なく退けていた。
アレは化物だ。
その竜騎士から、ある日指令が下った。
「聖女セレナ・アリアーナの護送任務、ですか?」
「そうだ。近衛兵の中から13人を選抜し、聖女をナイトフロスト魔法学院へと護送する。ギルバート、その指揮を君に取ってもらう」
「いや、でも、それって近衛兵がやることでしょうか? 聖女というのは、基本的には教会所属だったはずです。護送任務については教会所属の騎士団が執り行うのが原則なのでは?」
「あの方は、聖女でもあるが、同時にカイン・ド・ドラゴニア陛下の婚約者でもある。護送任務を王国側が行うことに問題はない」
どこか釈然としないが、理屈の上では間違っていない。だが、まだ疑問は残る。
「分かりました。ですが、護送任務の決定が急すぎませんか? 通常なら任務までに10日間は余裕を持たせているはずです。経路の確認、安全性の確保を行うためには、最低限その程度の期間は必要です」
「そうせざるを得ない理由があるのだ。ここから先は、極秘事項となる。くれぐれも、外部に情報を漏らさないようにしろ」
俺は固唾をのんで次の言葉を待った。
「聖女セレナ・アリアーナは、三日後に追放されることになる。偽物の聖女だったことが発覚した」
「どういうことですか?」
「言葉のとおりだ」
「あの方が偽物の訳がないでしょう。瘴気によって壊滅しかけていた俺の故郷も、あの方によって救われたのです。あの方がいなくなったら、この国は滅びますよ」
「それを判断するのは我々ではない」
忸怩たる思いだった。
セレナ様には大きな恩がある。
「お前たちが行うのは、護送任務だ。聖女の身分剥奪については、我々が感知するべきものではない」
「しかし、あの方はこの国のために尽力されてきました。それを――」
「ここでお前がそれを主張してどうする? お前に上層部の決定を変えることが出来るのか?」
「出来ませんが……」
「ならば、出来ることだけを考えろ。それが近衛の任務だ」
2
聖女の追放――それに関しては、全く納得できなかった。どうしてあの方がそんな目に合わなければならないのか、全く理解できない。だが、竜騎士の言うとおり、俺にはどうすることも出来ない。
俺は近衛兵の中から、竜騎士の指示通り12人を選抜した。いずれも、セレナ様に対して好意的な者ばかりだ。だから、この任務に就いて彼らに説明をした時、俺が言ったような異論が噴出した。
「聖女を追放するなんておかしいですよ」「そんなことに加担する任務など、引き受けるべきではありません!」
その気持ちはとてもよく分かった。
誰よりも、俺が強くそう思っている。
だが――。
「俺たちに出来るのは、道中の安全を確保することだ。『聖女』というのは、アリス聖教において、人々の心のよりどころになっている。それが偽物だったということにされるのだ。セレナ様はどうなると思う?」
俺の言葉に、近衛兵たちの表情に緊張が走る。これから彼女の身に降りかかる悲劇を想像できたらしい。
「魔法学院までの道のりは、決して安全なものではない。我々にできることは、誠心誠意彼女を民衆から守ることだ。また、護送の時点でセレナ様は聖女としての立場を失われている。そのため、敬礼を行うことも許されない」
「しかし、それではあまりにも――」
「理不尽だな。だが、俺たちにできることは、誠心誠意護送を行い、セレナ様を見送ることだけだ。例え、セレナ様がそれに気づいていなかったとしても」
俺はそう言い聞かせた。
だが、本当は自分自身に言い聞かせていたのかもしれない。




