第4話 聖女追放(4/4)
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新たな聖女が認定されたあと。
わたしは、祝福されるアンヌの姿を、ただぼんやりと眺めていました。
これまで積み上げてきたものを、理不尽に奪われたのです。
さすがに――少し、堪えました。
ですが、落ち込んでいる暇すら与えられませんでした。
「新聖女の誕生により、君は聖女としての資格を失う。今後、聖女を名乗ることは許さない」
カインは、いかにもそれらしい態度で言い放ちます。
「加えて――国家を欺いた罪人として、婚約も破棄する」
その頬は、わずかに緩んでいました。
……完全に、思い通りというわけですか。
かくして。
わたしは聖女の地位も、婚約者としての立場も失いました。
――婚約のほうは、どうでもいいとして。
この瞬間、聖女セレナ・アリアーナは、ただの平民になりました。
あまりにも、あっけない幕切れです。
ですが、これで人生が終わるわけではありません。
わたしはこれからも生きていきます。
生きていかなければならないのです。
元聖女という立場上、制約は増えるでしょうが。
「それで、わたしをどうされるおつもりですか?」
顔を上げ、問いかけます。
「ただ追い出すだけ、というわけではありませんよね?」
「無論だ」
――ああ、よかった。
わたしは少しだけ安堵しました。
自分の身の安全というよりは――。
この国の指導者が、底抜けの愚か者ではなかったことに対して。
……いえ、既に十分すぎるほど愚かではありますが。
「お前のために、二つ用意してやった」
カインは得意げに言いました。
「一つ目は、居場所だ。お前を欲しがっている組織がある。そこへ行け」
「……組織?」
「ナイトフロスト魔法学院だ」
ナイトフロスト魔法学院。
隣国ノルディア共和国にある名門校です。
各国の支援を受けており、この国も相当額を出資しているはず。
そこが――わたしを?
聖女でなくなったとはいえ、必要とされている。
その事実に、ほんの少しだけ胸が軽くなりました。
ですが、こういう話に裏がないはずがありません。
「魔法学院がわたしに何を求めているのか、ご存じですか?」
「知らん。あとは向こうの判断だ」
……本当に、どこまでも無責任ですね、この人は。
「では、二つ目は?」
「新しい婚約者だ」
「……はい?」
思考が止まりました。
婚約破棄した相手に、新しい婚約者を用意する。
――どういう神経をしているのでしょうか。
あるいは、やはりただのアホなのでしょうか。
口の中に、罵倒の言葉が山ほど浮かびました。
できることなら、全部まとめて叩きつけて差し上げたいところです。
全力で。
ですが――我慢です。
今は情報を優先すべき。
最悪の場合、評判の悪い貴族を押し付けられる可能性もあります。
このポリンスなら、やりかねません。
わたしは黙って続きを待ちました。
そして――
「喜べ。我が弟、第二王子アベル・ド・ドラゴニアを婚約者としてやる」
「……第二王子?」
……嘘ではない。
それにしても、第二王子ですか。
名前は知っています。
数年前から魔法学院に籍を置いている人物。
事実上の国外追放とも噂されています。
面識はありません。
ですが――
カイン殿下の身内、という時点で、期待値は限りなく低いです。
劣化版だとしたら、最悪です。
「ちなみに、それを断った場合は?」
「死刑」
軽い口調で言い切りました。
……ええ。
この人なら、やりかねませんね。
権力を持った愚者ほど、厄介なものはありません。
とりあえず――。
そのアベル殿下とは極力関わらない方向でいきましょう。
わたしは静かにそう決意しました。
「最後に確認します」
改めて、カイン殿下を見据えます。
「アンヌ・サヴァイヴを新聖女とし、わたしはナイトフロスト魔法学院へ。――この決定に誤りはありませんね?」
「ない」
即答でした。
……そうですか。
では、もういいでしょう。
わたしはスカートの端をつまみ、ゆっくりと膝を折りました。
これは、ドラゴニア王国への、最後の礼です。
「王子ならびに皆様。わたしはこれで失礼いたします」
静かに、言葉を紡ぎます。
「どうかこの決定を、後悔なさらぬよう。国家の繁栄に尽くされることを願っております」
そして――
「ごきげんよう」
一礼。
顔を上げ、カイン殿下の前に進み出ます。
「……カイン殿下?」
「なんだ?」
「少しだけ――」
にこりと微笑んで。
「歯を食いしばっていただけますか?」
――拳を、振り上げました。




