表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
11/53

第3話 お披露目会あるいは晒上げ(1/2)

     3


 学長に連れてこられたのは、多くの学生が集まる講堂でした。

 その場に足を踏み入れた瞬間、わたしに無数の視線が突き刺さりました。


 ――これは、思っていた以上に厄介な状況のようです。


 本来であれば、目立たず慎ましやかに過ごしたかったのですが――。

 どうやら、完全に手遅れのようでした。


「あの、学長さん」

「何でしょう?」

「この方たちは、どうしてここに集まっているのでしょうか? わたし、つい先ほど到着したばかりなのですが」


 問いかけに対し、学長は言葉ではなく、さわやかな笑みで応じました。


 ――この人、これまで出会った中で最も腹黒い人物かもしれません。


 出来る限り関わらないことを、わたしは固く心に誓いました。

 もっとも、今回ばかりは『逃げる』という選択肢は残されていないのですが。


 会場の準備は既に整っているようでした。

 壇上には、一つの『水晶』が据えられています。


 ――あそこで何かをさせられる、ということですね。


 完全に晒し上げです。


「ついて来てください」


 学長は講堂の中央を進み、わたしを壇上へと誘導しました。

 その間も、学生たちからの視線は一切途切れません。

 痛いほどでした。


 壇上に上がると、学長は学生たちに向き直り、朗々と告げました。


「さて、皆さん。ご存じのとおり、アリス聖教で騒動が起きています。そして当学院は、その騒動に関連し『元』聖女セレナ・アリアーナさんを学生として迎え入れました」


 わざわざ「元」を強調なさいましたね、この人。


「その実力はいかなるものか、皆さんも興味があることでしょう。これからセレナさんには、皆さんの前で『魔力測定』を行っていただきます」


 ――やはりそう来ましたか。


 偽物扱いされて追放された元聖女。

 その役割は、学生たちのやる気を煽るための“火種”。


 実に分かりやすい構図です。


「さぁ、セレナさん。水晶の前へ」


 楽しげな声音でした。

 こちらとしては、まったく楽しくありません。


 とはいえ、拒否することも出来ません。

 突き刺さるような視線の中、わたしは水晶の前に立ちました。


「これは『魔水晶』です。魔力を込めることで、その質と量に応じた反応を示します。皆さんは入学時に経験済みですね」

「そうですか。晒し上げられているのは、わたしだけではないのですね」

「他の方々は個室で測定しましたが」


 ――やはり、わたしだけでした。


 当然です。わたしは『見せ物』なのですから。


「では、セレナさん。この水晶に魔力を込めてください」

「あの、どの程度込めればよろしいのでしょう?」

「全力で構いませんよ」

「全力……ですか」


 わたしは水晶へと視線を落としました。


 見たところ、そこまで頑丈そうには見えません。

 全力で注げば、破損する可能性も十分にあります。


 ――それは避けたいところです。


 一瞬、手を抜くことも考えました。


 ですが、それは悪手でしょう。

 学長に見抜かれるのは確実です。


 そして――。


 『本気を見せる価値もないと?』


 などと、いかにも楽しそうに煽られる未来が見えます。


 それは非常に面倒です。


 となれば、やるべきことは一つ。


『全力で魔力を注ぐこと』

『水晶を破壊しないこと』


 この二つを同時に成立させること。


 ――実に理不尽な要求です。


 もっとも、この程度で音を上げていては聖女など務まりません。

 過去には、これ以上に無茶な要求を何度も受けてきました。


 であれば――。

 やってみせるだけです。


「それでは、始めます」


 そう告げ、わたしは水晶の横に両手を添えました。

 静かに、魔力を流し込みます。


 学生たちの視線が、さらに強くなったのを感じました。

 偽聖女の実力を見極めようとしているのでしょう。

 期待と疑念、そして嘲り――様々な感情が入り混じった視線でした。


 ですが――。

 その期待には、応えるつもりはありません。

 むしろ、徹底的に裏切らせていただきます。


 水晶は、ほとんど反応を示しませんでした。

 淡く、ぼんやりと白い光を浮かべるだけ。

 それを見た学生たちから、すぐに声が上がり始めます。


「……あれが聖女?」

「大したことないな」

「完全に詐欺じゃないか」


 失望と嘲笑。


 ――計画通りです。


 わたしは確かに、大量の魔力を注ぎ込んでいます。

 ただし、“反応を抑制している”だけです。


 水晶に負荷をかけず、かつ真価も見せない。

 その両立は、既に達成されています。


「学長さん。これくらいでよろしいでしょうか?」

「ええ、構いません。ありがとうございます」


 許可を得て、わたしはゆっくりと手を離しました。


「さて、セレナさん。これが貴女の実力ということでよろしいですね?」

「はい」


 嘘は言っておりません。

 ただ――“見せていない”だけです。

 聖女たるもの、隠蔽工作もまた重要な技能なのです。


「では、これにて魔力測定は終了とします」


 学長の宣言に合わせ、わたしは一礼しました。


 ――これで終わり。


 そう思っていたのですが。


「待ってください」


 静まりかけた講堂に、声が響きました。

 一人の男子学生が、ゆっくりと壇上へ上がってきます。

 金髪で、どこか気取った雰囲気の男。


 その名は――ナルシス・デポン。

 そしてこの男が、わたしの偽装工作を『台無し』にすることになるのです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ