表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
12/53

第4話 お披露目会あるいは晒上げ(2/2)

     4


 壇上に上がってきたのは――。

 金髪でどこか軽薄な雰囲気を漂わせた男子学生でした。


 彼が姿を見せた途端、一部の女子生徒から黄色い声が上がります。

 どうやら随分な人気者のようです。


「俺の名はナルシス・デポン。デポン侯爵家の者だ」

「そうですか、どうも」

「世界を騙していた偽聖女。実力はこの程度か。水晶からはほんの微弱な光しか漏れていない。これで全力なのか?」

「ええ、そうですよ」

「話にならないな。今度はどんな汚い手を使ってこの学院に入り込んだ?」


 ナルシスは、あからさまに嘲るような口調で言いました。

 わたしを貶めることで、自分の評価を上げようとしているのでしょう。


 とても分かりやすい方です。

 分かりやすすぎて、微笑ましいくらいです。


「この俺が、格の違いというものを教えてやる」


 そう言って、ナルシスは水晶に手をかざし、魔力を注ぎ始めました。

 すると、水晶から発せられる光が、みるみるうちに強くなっていきました。


 ――これは、まずいです。


 そう思った時には、すでに遅すぎました。


 水晶は、講堂全体を覆い尽くすほどの強烈な光を放ち――。


 次の瞬間。


「ぶぺらっ!?」


 爆発しました。


 同時に、内部に蓄積されていた魔力が一気に解き放たれます。

 荒れ狂う魔力の奔流は嵐のように講堂内を駆け巡り――。

 空間を無茶苦茶にかき乱しました。

 轟音と悲鳴が入り混じり、講堂は一瞬にして阿鼻叫喚の様相を呈します。


 ――ああ、やってしまいました。


 目立たないよう工夫していたというのに――。

 完全に裏目に出てしまいました。

 途中までは順調だったのですが。


 やがて魔力の嵐が収まると、学生たちは恐る恐る体を起こし始めました。


 ナルシスは壇上に倒れたまま動きません。

 どうやら気絶しているようです。

 爆発の直撃を受けたのでしょう。


 でしたら――。

 ここは、彼に責任を負っていただくことにしましょう。


「うわー。あまりの魔力量に水晶が爆発してしまいました。ナルシスさん、すごいですねー」


 持てる限りの演技力を総動員し、しれっと嘘をつきます。


 あとは、学生たちがそれを信じてくれれば問題ありません。

 何しろわたしは“無能な偽聖女”という設定なのですから。


 ――そう思っていたのですが。


 それを許してくれるほど、この場は甘くありませんでした。


 腹黒の権化――学院長です。


 彼の目的は、わたしを『敵役』として機能させること。

 この状況は、彼にとってこれ以上ない好機なのでしょう。


 学院長は、未だ混乱の残る講堂で、実に楽しそうに口を開きました。


「それでは、今何が起きたのかを説明しましょう」


 余計なことはしないでいただきたいところです。

 ですが、学院長はお構いなしに続けます。


「通常、魔水晶は魔力の供給が止まれば発光も止まります。これは何故でしょう?」


 一人の女子学生が、おずおずと手を挙げました。

 眼鏡をかけた、いかにも真面目そうな方です。


「はい、ミス・ハンナ」

「水晶が光るのは、内部で魔力が暴走状態になっているためです。その暴走を水晶が抑制する過程で、光が発生します」

「その通りです」


 学院長は満足そうに頷きました。


「つまり、供給が止まれば暴走も収束し、発光も止まるはずです。――では、セレナさんが手を離した後、水晶はどうなっていましたか?」

「ぼんやりと光り続けていました」


 ハンナさんが即答します。


「では、それは何故でしょう?」

「内部に魔力を蓄積する仕組み――いわば『魔力池』があったのではないかと」

「なるほど。現実的な仮説ですね。しかし、今回の水晶にそのような仕込みはありません」


 学院長はそう言ってから、こちらを見ました。


「では、セレナさん。何をしたのか説明していただけますか?」


 ――やはり、逃がしてはもらえませんか。


 わたしは小さくため息をつき、観念しました。


「ご命令は“全力で魔力を注ぐこと”でした。しかし、普通に行えば水晶は破損します」


 その瞬間、学生たちの視線が変わりました。

 まるで、何か理解不能なものを見るかのような目。


 ――なるほど。そういうことですか。


 この学院の学生では、この水晶を破壊するほどの魔力には到達しないのでしょう。


「ですから、水晶内の魔力に指向性を与え、暴走しないよう制御しました。内部で魔力を循環させ続けたのです」


 わたしは手で円を描くような仕草をしました。


「コップの中の水を回転させるようなものです。ただし、完全な永久運動ではありませんので、少しずつ漏れ出します。その結果、弱い発光が持続していた――というわけです」

「素晴らしい」


 学院長は楽しげに拍手を送りました。


「セレナ・アリアーナに拍手を」


 まばらな拍手が起こります。


 ――あまり歓迎はされていないようです。


 少しだけ、憂鬱な気分になりました。

 ですが、それよりも気になることがあります。


「ところで、一つよろしいでしょうか?」

「何でしょう?」

「倒れている学生は、救護しなくてよろしいのですか?」


 爆発に巻き込まれて気絶しているナルシス。

 彼は、ずっとわたしの足元に転がったままなのです。


 ――本当に、このままでよろしいのでしょうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ