表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/24

第3話 お披露目会あるいは晒上げ(1/2)

     3


 学長に連れてこられたのは、多くの学生が集まる講堂でした。学生たちは、入口に現れたわたしに一斉に視線を向けました。ここでは目立たず慎ましやかに過ごしたかったのに――どうやら手遅れのようです。


「あの、学長さん」

「何でしょう?」

「この方たちは、どうしてここに集まっているのでしょうか? 私、さっきここに到着したばかりなのですが」


 学長は返事の代わりに、さわやかな笑みを浮かべました。この人、これまで私が出会った中で最も腹黒い人かもしれません。出来るだけ関わらないようにすることを固く心に誓いました。ですが、ここまで来てしまった以上、逃げるというわけには行きません。


 既に会場の準備は終わっているようです。壇上には『水晶』が用意されていました。あそこで何かをさせられることになるのでしょう。完全に晒上げです。


「ついて来てください」


 学長は講堂の中心を通って私を壇上まで誘導しました。視線が痛くてたまりません。壇上に登った学長は、学生たちに呼びかけます。


「さて、皆さん。ご存じのとおり、アリス聖教で騒動が起きています。そして、当学院はその騒動に関連し、聖女であったセレナ・アリアーナさんを学生として学院に迎えることが出来ました。その実力はいかなるものか、皆さんも知りたいことでしょう。セレナさんには、これから皆さんの目の前で『魔力測定』を行ってもらいます」


 偽物扱いされて王都から追放された元聖女。その役割は、学生たちのやる気の『火付け役』です。


「さぁ、セレナさん。水晶の前に立ってください」


 学長は面白そうに言いました。わたしとしては、全く面白くない展開です。ですが、言われた通りにするしかありません。


 突き刺すような無数の視線の中、わたしは水晶の前に立ちました。

 その水晶について、学長が説明を続けます。


「これは『魔水晶』というものです。魔力を込めるとその魔力の質・量に応じて様々な反応を示すことになります。ここに通う学生の皆さんは、入学時に経験しているものです」

「そうですか。晒上げられているのはわたしだけではないのですね」

「他の方々は個室で測定をしましたが」


 晒上げはわたしだけだったようです。そもそも、わたしは敵役としてこの学院に迎え入れられたのです。人前でやらなければ、意味がないのでしょう。


「それでは、セレナさん。この水晶に魔力を込めてください」

「あの、どれくらい魔力を込めればいいのでしょう?」

「全力で構いませんよ」

「全力……」


 わたしは水晶を見ました。この水晶がどれほどの耐久力を持つものなのかは分かりません。ですが、それほど頑丈なもののようには見えません。下手をすれば壊してしまうかもしれません。そんなことになったら、更に変な注目を集めることになってしまうでしょう。


 ――手を抜きますか。


 一瞬だけそう考えました。ですが、そんなことをすれば、学長に気づかれてしまうことでしょう。確実に。そして、それを声高に指摘して学生たちを煽るに違いありません。『皆さんには本気を見せる必要性を感じないようですね』とか言って。そうしたら、更に厄介なことになってしまいます。


 それは避けたいところです。

 ですから――。


『全力で魔力を注ぐこと』

『水晶を壊さないようにすること』


 この二つを同時に達成する必要があります。何なのでしょうね、この二律背反のような状況。


 もっとも、こういった状況に陥るのは初めてではありません。聖女をしていた時は、もっとひどい無茶ぶりをされていました。頻繁に。この程度ならば、乗り切って見せようじゃありませんか。


「それでは、始めます」


 宣言をした後、水晶の横に両手を添えました。そして、魔力の注入を始めました。その様子を学生たちは、興味深げに見ています。


 偽聖女の実力とはいかばかりのものなのだろうか。

 偽物らしく大したことないのか。

 あるいは、偽物を務められる程度には高いのか。


 それを見極めようとしているのでしょう。


 ですが、わたしが彼らの期待に応えることはありません。むしろ、その期待を全力で裏切って見せます。


 水晶は、今のところ大きな反応を見せていません。ぼんやりとした白い光が表面に浮かぶ程度です。それを見ていた学生たちから、失望の声が聞こえてきました。


「アレが聖女と呼ばれた女なの?」

「情けない」

「完全な詐欺だったわけか」


 学生たちから、失望の声が上がり始めました。

 計画通りです。

 水晶に大量の魔力を注ぎ込むこと。

 水晶を壊さないこと。

 この状況は、この二つを両立させた結果なのです。


「学長さん。これくらいでよろしいでしょうか?」

「ええ、構いませんよ。ありがとうございます」


 学院長の許可を得て、わたしは水晶からゆっくりと手を離しました。


「さて、セレナさん。これが貴女の実力ということでよろしいですね?」

「はい」


 わたしは大量の魔力を水晶の中に注ぎ込みました。

 そこに嘘はありません。ただ、少し工夫をして、水晶の反応を弱くしただけです。

 聖女たるもの、隠ぺい工作はお手の物なのです。


「それでは、セレナさんの魔力測定はこれで終了とします」


 学長の言葉を受け、わたしは学生たちに向かって一礼しました。

 これでお開きだと主張するためだったのですが――。


「待ってください」


 一人の男子学生が壇上へ上がって来ました。

 なよなよとした雰囲気の金髪の男です。

 彼の名は、ナルシス・デポン。

 この男が、わたしの『工作』をぶち壊すことになるのです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ