7.大森林の町
もう夕闇も迫っており、二人は衛兵へギルドカードを見せて町へ入った。
宿屋へ入る。
今度はウサミミのおばさんが受付にいる。
「いらっしゃい。ここは大森林の町の宿屋です。
本日はお泊りですね。お食事は必要ですか?」
「いや、もう外で食べて来たから明日の朝飯はお願いしたいのぅ」
「わかりました。では今から案内します。
そうそう当宿屋の売りはウサナです」
「ウサナ?それはなんですか?」
「ウサナは、貸切の部屋で熱い蒸気で十分に温まって頂き、
その後冷たい小川から引いた水で身体を一気に冷やすことにより、
お客様は出来上がった状態になると有名でございます」
アツシは、『それってサウナと同じじゃん』と思った。
爺ちゃんは入った事があるかどうかを聞くと、
「心臓に悪そうじゃったから一度も経験はない」と言っている。
部屋へ入ると、爺ちゃんの指輪の空間から
残り物のおかずとおにぎりを出してご飯を終わらせた。
この空間は入れた瞬間から時間が進まないため、
空間内に保管された食物は細菌の繁殖による劣化もなく、
常に作り立てで非常に環境に優しかった。
僕は爺ちゃんをウサナへ誘った。
爺ちゃんは、『あまり気が進まないのぅ』と言いながらついて来る。
貸切の部屋へ入るとムッと熱い湿った空気が鼻から入って来る。
「ウワッ、これは暑いのぅ。まるで火山地帯のようじゃ。
でもまぁそこに比べたら臭くないからその分、マシかのう」
「そうですね。良い湿気です。汗を掻くのにちょうどいいですね」
「?!グリンちゃんか?」
「そうよ、今イヤリングから出てアツシ君の頭に乗ってるわ」
「頭の上?・・・」
「グリンちゃんだけではないわよ」
なんと女神様が水着を着て、ウサナの貸切部屋へ現れた。
「女神様、なんとも色っぽい水着じゃな。へへへ・・・」
「まさか何も着ないで現れるわけにはいかないじゃない?
かと言っていつもの服を着てたら、熱いし汗だくになるし、
結局水着ならいいかと思ったの。これでも大人しいのを選んだのよ」
『大人しいのとおっしゃるけど、すごく小さいビキニなんですけど』
『水着を着ても汗だくになるのだから服でも一緒なのに・・・』
と突っ込もうとも思ったが、
女神様の豊饒なラインに魅了されて何も言えなかった。
「ちょっと二人を見たらウサナに入ると言うじゃない?
この前、食べ過ぎたから、ちょっと汗でも掻こうかと思ったわけ。
あなた達と一緒に食べた私が、ご一緒しないといけないと思ったのよ」
ご一緒する理由が不明だが、きっと
『女神様もグリンさんもウサナに入って美しくなりたいのだ』と考えなおした。
「そう、ノリリンと違って、やはりアツシ君は女性に優しいわ。
ノリリンなんて鼻の下伸ばしちゃって、今度奥さんに言っちゃうぞ」
「えっ?・・・それは勘弁してください。もう目を瞑っておきます」
「それならよろしい。
しかしグリン、ウサナって気持ちの良い汗でるわね」
「女神様、そうですね。これでここがキュッと締まりそうです」
「こらこら、ノリリン、薄目を開けてグリンを見てるわ」
「えーっ、ノリリンたら最低ね。もう話してあげない」
「いや、汗が目に入って痛かったのでつい目をのう・・・
そろそろ小川の水で出来上がるかのう。ふう熱い、熱い・・・」
爺ちゃんが扉を開けて外へ出ると全身が真っ赤だった。
僕も熱かったから外へ出た。女神様もグリンさんも出てくる。
爺ちゃんが、小川から引いた水の浴槽へ足の先をそっと入れた。
「?!?!?!・・・ちめたーい。これは無理かも・・・」
「ノリリン、先に出たんだから一番に出来上がってよね」
「いや、こんな冷たい水は心臓が止まるかも・・・」
「大丈夫よ、その時は私がノリリンを生き返らせてあげる。ふふふ」
「・・・だから気が進まなかったんじゃ。嫌な予感がしたんじゃ・・・」
「『私達が一緒なのを、嫌な予感とか言うの?ノリリン!』」
二人がハモった。
爺ちゃんの真っ赤だった顔つきが青くなっていく。
「わかった。わかったから、今から出来上がってみるぞい。
押すなよ。押すなよー。絶対押すなよー・・・・・押せよ!」
「「はーい」」
二人がハモって、爺ちゃんのお尻を蹴った。
「ヒヤー、アツシここでお別れかも・・・」
と叫んで爺ちゃんは冷たい水槽へ飛び込まされた。
『バッシャーン』
「?! ひえーつめ・・・たーい・・・」
爺ちゃんが白目を剥いて水槽にプカプカと浮いている。
しばらくすると、
ニヤーと笑って「出来上がったぞいー」と叫んだ。
「『アツシ君、じゃあ私達も一緒に行くわよー』」
女神様の大きな胸が僕の背中に当たった瞬間、
『ドボーン』
その瞬間、全身へ刺すような冷気が痛みとなって突き刺さる。
しばらくすると、熱さでぼやけた頭の中がすっきりとしてくる。
これが『出来上がるってことなのか・・・』と納得した。
隣で女神様とグリンさんが、水着姿で浮かんでいる。
そのすばらしい胸は、水上へ浮かんで全然沈まなかった。
アツシは『二人とも明るいし優しいし綺麗な人達、
いや神様だし妖精さんだな。僕の大切な人達だな』と思った。
爺ちゃんと僕が部屋に戻ると女神様とグリンさんは先にいる。
僕が爺ちゃんの指輪の格納空間からアイスクリームを出して、
先ずはお二人へと選んでもらった。
女神様もグリンさんも大喜びで好きなアイスクリームを選んだ。
女神様は100%牛乳アイス、グリンさんはチョコアイス。
爺ちゃんはあずき棒、僕はガリゴリ君だった。
4人の出来上がった身体へ急に冷たいアイスを入れたため
頭の中がキューと痛くなって、
4人は同時に顔をしかめて頭を両手で抑えた。
そしてお互いに顔を見合わせて大笑いした。
「ノリリン、こんな美味しい思いが出来るのに呼ばないなんていじわる!」
女神様は爺ちゃんを睨んでいる。
「このアイスクリームを揃えたのはアツシじゃからわしは知らないんじゃ
「そうアツシ君が・・・やはり君は女性の心を掴むのが上手いね。
ねぇこんな美味しい時間へまた来て良いでしょ?」
「それは単に二人が甘い物がすきなだけで・・・」
爺ちゃんが言いかけると女神様とグリンさんがまたもやハモった。
「「ノリリンは黙ってて・・・」」
僕は急いで答える。
「はい、いつでもお待ちしています。歓迎します」
「しかしこの世界の女神様なのに
こんなに何度も我々の所へ来ていいんじゃろうかのぅ。
わしらは、女神様が好きじゃからいいけどのう」
「色々仕事をして疲れたら、二人がどうしているか見ているのよ」
「爺ちゃん、女神様は神様だけど忙しくてきっと大変なんだよ。
僕達が女神様の疲れを取れるんだったらいいんじゃない?
女神様が来るのを僕は楽しみにしてるんだから」
「ありがとうね。やっぱりアツシ君ね。いつも優しいから好き」
「そうですね。このグリンもそう思います」
「アツシは、優しすぎるんじゃろうなぁ。
だから・・・いや、何でもない・・・」
「そうそう、ずっと考えてたんだけど、
いつもノリリンの指輪空間をその都度使ってるじゃない?」
「はい、一つしかないですから爺ちゃんにお願いしてるんです」
「じゃあ、もう一つ、あなた専用の指輪があれば便利じゃない?」
「はい、ですが、とても高いと聞いたので・・・」
「ノリリンのは、私が作った指輪なのよ。
あの時は、私が真剣に世界のためにノリリンに
龍を倒してって頼んでも最初嫌がったから吹っ掛けてやったのよ」
「・・・そんな、女神様、酷い・・・せっかく命からがら龍を倒したのに」
「嘘おっしゃい、私、心配だから見てたんだからね。
ノリリンったら、鼻をほじりながら大火球で倒してたよね?」
「うっ、大火球を出すのは鼻をほじらないと出ないだけなのに・・・」
「もう嘘はいいわよ。私は全て知ってるのよ。
あの後の別の戦いでは普通に『ほれ』って大火球を出してたでしょ?
でもまぁ・・・おかげでこの世界は救われたからいいわ。
ということで、アツシ君へ私の作った指輪をあげる。どう?」
何が『ということなのか』は、わからなかったがそれには突っ込まなかった。
「女神様、感激です。ありがとうございます」
「良かった。この指輪があればいつでも私を呼べるわよ」
「はい、呼ばなくていつでもおいで下さい。お待ちしています」
「本当に君のその言葉は、私の心をうつなぁ。ではまたね」
僕の左手の薬指には、女神様の指輪が光っている。
指輪の空間を使える以上に、
綺麗で可愛い女神様との距離の近い事がとても嬉しかった。
『そうそう、みんなの前では言えなかったけど、
あの時、少し酔ってたみたいで・・・テヘッ・・・
実はあなたの料理人や鑑定眼のスキルを最大(Ω)にしちゃったみたい。
女神の加護って、
一度あげちゃったら変更は出来ないからそのまま受け取ってね。
みんなには内緒よ。二人だけの秘密ね。
アツシ君、私のあげた指輪はあなたの左手の薬指だから、
これからアッツンと呼ぶね。いいよね?
これからもがんばって強くなってね。じゃあまたね』
『女神様、ありがとうございます。頑張りますから応援してください』
寝る前にステータス画面を確認すると女神様の言う通りだった。
Ωマークは、最大という意味のようだ。
職業:魔物使いクラス:S級レベル:5↑
料理人 クラス:B級 レベル:Ω
体力:20 筋力:20 素早さ:20 魔力:1500
仲間:2 仲間名:スライム(スラ)、魔鷹ホーク、
特技1:2 スキル:腐食液飛ばし3↑。遠視3↑。
特技2:3 スキル:獲物解体術Ω 魔素抜きΩ 料理Ω
特技3:1 スキル:鑑定眼Ω
特技4:1 スキル:空間格納Ω
翌日、宿屋の朝食を食べて、町の野菜や果物の売っている店へ行った。
露店で売られている。
鑑定眼で色々な物をみると情報が浮かんでくる。
こちらの世界にも元の世界の様な野菜はあるようだ。
とりあえず、
ウリキ(キュウリ代用)、オオニン(玉ねぎ代用)、カベツ(キャベツ代用)
ジンサン(ニンジン代用)、モロトー(コーン代用)、マトト(トマト代用)
モイジャ(じゃがいも代用)をたんまり買った。
もちろん大袋に入れて、路地裏に入って隠れて格納して
何度も往復して、ごまかしながら指輪の空間へ格納した。
野菜売りのおばさんは、ほとんど売れたため大喜びで帰って行った。
きっとおばさんは、僕を別に怪しまなかった筈だと思う。
今後は草原や森で育っている野菜や茸を見つけられると思うと嬉しかった。
こちらの世界での野菜なども入手でき始めて
いよいよ異世界冒険いや料理の始まりです。




