3.初めての異世界
今度こそ、その日の夜に爺ちゃんと異世界へ行った。
場所は、前回来た草原の真ん中だった。
遠くに町らしき灯りが見える。
爺ちゃんと二人で町へ向かっていると周りに何か不気味な気配がある。
「うん?」
と爺ちゃんが見ると、その不気味な気配は遠ざかっていく。
「爺ちゃん、今、何かいたんじゃないの?」
「おっ・・アツシ、あの気配がよくわかったな。
もしかしたらお前は・・・。
まぁ、明日の朝、教会にでも行って、職業を見て貰おう」
「職業?」
「そうこの世界では、
その人間の素質が職業として教会が教えてくれるんじゃ。
それと職業変更も教会の仕事じゃ。
とにかく、一緒にしたあのゲームのように異世界の旅の始まりじゃ」
「うん、楽しみ。
爺ちゃん、僕をこの世界へ連れて来てくれてありがとう」
「おぅおぅ、わしも楽しみじゃ。色々とわからない事があるからなぁ」
「えー?500年も旅して、わからないことあるの?」
「うーん、年のせいか・・・物覚えが悪くてなぁ・・・トホホ。
まぁ色々と教えてくれよ。アツシ頼むぞ」
「わかったよ。
でも僕もわからないことだらけだからその都度聞くからね」
「まぁわしのわかることは何でも教えるぞ」
「爺ちゃん、さぁあの町へ行こうよ」
「おぅ、そうしよう。
そうそうこの町には宿屋もあるからそこで今夜は泊まろう」
「うん、楽しみだね」
「さぁ行くぞ」
二人は、石組みの壁に囲まれた町の入り口に立つ衛兵が見える。
爺ちゃんは、胸から金属製のプレートを出して衛兵へ見せた。
「おぉ、あなた様が、あの魔法使いのノリオ様。
ようこそ、旅立ちの町へ。
そちらのお子は、どなたですか?」
「この子は、わしの孫じゃ。遠くに住んでおったが連れて来た。
明日には冒険者登録をするつもりじゃ。よろしくな」
「えぇ、ノリオ様のお孫さんならきっと立派な冒険者になるでしょうなぁ。
我々としても安心してこの町で住めます。どうぞ、どうぞ」
二人は衛兵に案内されて町の中へ入って行った。
「爺ちゃんって、有名人なんだ。
それはそうとこの町の人って、日本語なんだね」
「ううん、違うぞ。日本語とは一切似ていない言葉じゃ」
「えっ、じゃあなんでわかるの?」
「それはよくゲームやアニメにあるチートとかいう能力の一つじゃ。
以前、この世界の言葉を統べる神に会った時に自分の国の言葉で話せば、
相手には相手の民族の言葉で聞こえる術を教えて貰った。
それは相手の言葉も一緒じゃ。アツシにはその術をかけている」
町の中はもう夜のために薄暗かったが、
中世風の街並みで色々な店の窓から灯りが道へ漏れている。
しばらく歩くと、宿屋のマークの付いた家に着いた。
「アツシ、ここが宿屋じゃ。さぁ入ろうか」
アツシは街の中にある宿屋や居酒屋や武器屋のマークが、
爺ちゃんといつもしているゲームと同じことから、
この世界がゲームと同じ世界であることがわかった。
「うん、楽しみ」
宿屋に入ると丸々太ったネコミミのおばさんが受付にいる。
「いらっしゃいませ。旅立ちの町の宿屋でございます。
あらっノリオ様。二人とは珍しい。
いつものようにお泊りですか?お食事はいかがされます?」
「二人の泊まりと今日は、晩飯をお願いしたい」
「はい。ブリンカ、お客様をお部屋へ案内して」
「はぁーい。あぁなんだ、ノリオジイ・・・
いやノリオ様・・・いつもの部屋ですね?」
「今日は二人だから二人用に部屋にしてね」
「二人?・・・ふーん」
ブリンカと言われた女の子は、アツシを上から下までじっと見た。
もちろんネコミミで妹のミチコと同じくらいの年齢に見えた。
「ノリオ様、こちらでございます」と部屋へ案内された。
「あのー身体を洗う水は、二つ用意すればいいですね?」
「いや、今日は汗を掻いていないから大丈夫じゃ」
「えぇっ?・・・昼間あんなに暑かったのに?・・・ふーん」
部屋からブリンカが出ていく。
廊下を歩きながら独り言を言いながら離れて行った。
「ケチジジイ。いつもそう・・・水は私のお小遣いなのに・・・」
しばらくして晩御飯は、宿屋の1階で食べた。
「ピヨピヨ豆のスープ」:底に豆みたいなものが沈んでいる。
「コケッコーの焼肉」:何の肉かわからない肉の焼き物。味は鶏肉に似ている。
ケチャップとソースを混ぜたようなソース。
「蒸しファンの実」:薄く切ったパンのような実を蒸したもの。
爺ちゃんは、ビールのような色の飲み物「ビルス」を飲んでいる。
「こちらのビールのようなものじゃが、苦みも無いからいまいちじゃのう。
まあそれなりには酔うから飲むけど」と少し不満そうだった。
意外としっかりした味で、それなりに満足したものだった。
食べ終わって食器を取りに来た時に「ごちそうさま」と伝えると
なぜかブリンカが無い胸をえらそうに張っている。
翌日になって爺ちゃんと教会に行く。
神父さんは、丸い大きな玉のついた杖をアツシの前で高く掲げ、
恭しく神像へお辞儀をして
「全能なる神よ、この者の力を、職業を教えたまえ」と叫んだ。
すると突然、玉が明るく光り始め、
アツシの持っている羊皮紙のような巻物が光った。
そこには『魔物使い』と記載されていた。
爺ちゃんがそれを見て、
「アツシは、やはり『魔物使い』だったか、
昨日の夜の感覚からして、もしかしたらとは思ったんじゃ」
「神父様、魔物使いって何ですか?」
「あなたの職業は、
あの危険な魔物を使役できるようになる極めて貴重な職業です。
この世界は魔物で溢れています。
人間にとってはとても危険な世界です。
あなたは、その力でこの世の人間を魔物から守って下さい」
と神父様から告げられた。
「はい、ありがとうございます。少し教えて下さい。
どのようにしたら魔物を使役できるのですか?」
「それは町の真ん中にあるギルドの受付に聞いて下さい。
彼女達は各職業の説明のエキスパートですから・・・」
「ありがとうございます。今からギルドへ参ります」
爺ちゃんは、結構多めのお布施を渡しているのか大きな袋を渡している。
神父様がニコニコしながら、深くお辞儀をしている姿が見える。
「爺ちゃん、ありがとう。僕は魔物使いだって」
「そうみたいだな。楽しみじゃ。あまり聞かない貴重な職業だぞ」
「へぇ、あまり聞かないのか・・・ちょっと心配だな」
「大丈夫、モーマンタイ。わしが付いとるぞえ」
「そうだった。今からギルドに行くんでしょ?」
「その前に冒険の準備をしようや」
「そうだね。ここが旅立ちの町だもんね。色々準備しなくっちゃ」
町の中の色々な店を見て、
初心者アイテムの旅人の服と靴と帽子を揃えた。
武器と防具は、爺ちゃんが指輪の専用格納空間から出してくれた。
その指輪は、非常に高かったらしい。
貴重なドラゴンの1匹分の素材を売ったお金が必要だったらしい。
さるアニメのネコ型ロボットのお腹についているポケットみたいな機能の
空間を内包しているらしい。
爺ちゃんは、『これがあるから大きな鞄は不要じゃ』と言っている。
「よく考えたら、指輪が無くてもいいんじゃない?
グリンさんの家があるんだからそこに入れておけば一緒じゃないの?」
と僕が聞くと
「グリンちゃんは、『ノリリンのことは好きだけど、その加齢臭だけは無理。
私と一緒にいる時は、2時間に1回は魔法で体臭を消してね』
と言われておるんじゃ・・・酷い話じゃろ?
だからこの指輪を買ったんじゃ」と悲し気な顔をしている。
『グリンさんて可愛い顔してるけど・・・結構きついんだな。
僕も気を付けなくっちゃ』とアツシは思った。
するとアツシの脳裏にグリンさんからの言葉が届いた。
『アツシ君、君は大丈夫よ。
ノリリンたら、以前変なお店でお酒を飲んで安物の香水の匂いを
身体中に付けて私の家に入って来たことがあったの。
だからそれを怒ったの』
「うちの爺ちゃんがごめんなさい。
きっと悪気はないと思いますから、
許してあげて下さい」
「ふふふ、もう許しているわ。
でも同じ事をされると嫌だからいつも強めに言ってるの」
「グリンさんて優しいから好き」
「ふふふ、アツシ君は素直で可愛いから好きよ。
この話はノリリンには内緒ね。二人だけのひ・み・つ」
「はい、絶対に爺ちゃんには言いません」
『はい、よろしい。ではまたね。
あっ、そうそう、言い忘れていたわ。
君が魔物使いとわかったから話しておくけど、
君が使役した魔物は、私の家の中でも飼えるわよ。
仮に怪我していても魔素量が減っていても
私の家の中ならいるだけで治療できるし補充できるわよ。
だからあなたの使役している魔物は安心よ。ではまたね』
と会話が切れた。
やっとアツシと爺ちゃんのゆるゆる異世界冒険の始まりです。




