2.旅の準備
「とりあえずアツシよ。一度わしと異世界へ行ってみないか?」
「うーん、良いけど。もし異世界へ行って、
爺ちゃんみたいにまた死んだことになったら困るかなぁ。
お母さんやお父さん、婆ちゃんが心配しないかなぁ」
「大丈夫じゃ、
こちらの世界の時間と異世界の時間の流れは違うんじゃ。
あっちの世界はすごく早いんじゃ。
だからもし行ってこっちに戻って来ても、
時間は殆ど経っていないんじゃ」
爺ちゃんの行っていた異世界は、
現在僕が住んでいる世界と時間の流れが違っているらしい。
爺ちゃんが死んでいた(本人は眠っていたつもり)間、
それはこっちの世界では50時間くらいだったが、
それが異世界では500年も経っているらしい。
現在の1時間が異世界では10年となるそうだ。
ただ異世界での時間感覚は、現在の世界の時間感覚と同じだそうで、
その上、異世界では年は取らないらしい。
まぁ仮に異世界で100年経っても、現在の世界では10時間だから当然である。
「でも誰が異世界へ移転させてくれるの?」
「もちろん、わしだけど」
「爺ちゃんが?・・・そうか、魔法使いなんだものね」
「そうじゃ、わしが過去に魔導士になった時、
世界を移転させる力を持つ神と出会い、この力を教えて貰ったのじゃ。
しかしすごく魔法力が必要だったため、今回は魔法使いになって魔法力を高め、
やっとこのたびこの力を自由に駆使できるようになったのじゃ」
「それが本当なら行きたいな」
「そうか、じゃあ今から行くか」
その時、お母さんから
「アツシと爺ちゃん、コタローを散歩に連れて行ってあげて」
「爺ちゃん、行く前にコタローを散歩に連れて行かなくっちゃ」
「そうだな。1時間くらいだからコタローも連れて行くか・・・」
「えっ?コタローも一緒でいいの?」
「別にいいぞ。それに犬なら行った事を話せないしちょうどいいな。
さぁ、コタローも異世界へ連れて行ってやろう。きっと驚くぞ」
「へぇ、コタローも良いんなら、他も大丈夫だよね?」
「大丈夫じゃ。たくさん連れて行けるぞ。
わしのこのドングリのイヤリングに預けてのぅ。
誰を連れて行くんじゃ?」
アツシは『イヤリングに?』と思ったが、もう爺ちゃんには疑問を持たないことにした。
「それならミュウやキンタローやカメオやヒョウを連れて行きたいな」
「お前のペット、いや友達じゃな」
「そう僕の大切な友達なんだ」
「わかった。一緒に行った方が楽しいな。そうしよう」
「爺ちゃんありがとう」
「うむ、楽しみじゃ。行くぞ」
爺ちゃんは、ドングリのイヤリングを外して、そっと掌に乗せると
「グリンちゃん、お願いがあるんじゃ」
するとドングリがスウ―と空中に浮かぶと茶色い光を発し、
光の中から、こげ茶色の服を着た10cmくらいの妖精が現れた。
「ノリリン、何か用?
あれっ、この子はだーれ?」
「この子はわしの孫のアツシとその友達じゃ。
今からあの世界へ戻るから、
この子も友達も一緒に連れて行きたいんじゃ」
「わかったわ。じゃあお友達は大切に私のお部屋に預かってあげる」
「すまんのう、助かったわ」
「お安い御用。いつものヤツをお願いね」
「わかっとる、わかっとる」
爺ちゃんはポケットからチョコレートを出してその妖精へ渡した。
「そうそうこれこれ・・・モグモグ。あまーい、ステキ」と大喜びをしている。
アツシは、コタローやミュウやキンタローやカメオやヒョウを
ペットの家と一緒にグリンさんの出した空間へと格納した。
「アツシくん、彼らの安全は心配しないで良いわよ。
私ってとっても強いから外敵から守れるわよ。
ただ、私の中は・・・」
「グリンちゃん、それは心配しなくていいのじゃよ。
彼らは彼らなりに強くなれば君の中が必要になる」
「それもそうね。まぁこちらの世界では元に戻るから心配ないしね」
「そうそう。では行くぞ。アツシ、グリンちゃん」
「う、うん」
「はぁーい。さぁ、いくぞぉー出発しん-こー」
「おぅ」
「じゃあ、行くぞ。ほれ」
一瞬で爺ちゃんと僕は草原の中に立っていた。
魔法使いだから、ゲームのように
どんな格好でどんな呪文をするのかと楽しみに思っていたのに・・・
『ほれ』の一言でこちらの世界へ来ていた。
アツシは、忘れ物を思い出した。
スマホとペット達の餌だった。
「爺ちゃん、忘れ物したよ」
「急すぎたかのぅ。まぁ一旦戻ろうか」
と言うなり、またすぐに元の僕の部屋へ戻った。
「今度は忘れ物をするなよ。
異世界転移術は、さすがに魔法力が持って行かれるからのぅ。
そうじゃ、わしも忘れ物を思い出した。
アツシ、ちょっと外に出て買い物をしようか」
「うん」
アツシは爺ちゃんと二人で街中のスーパーマーケットをはしごした。
チョコレート、和菓子系、ポテトチップスなどのお菓子。
カップ麺、カレー、ハヤシカレーなどのレトルト食品
日本酒、ビール、炭酸、お茶などの飲料水。
しょうゆ、ソース、味噌、酢、砂糖、塩などの調味料、
アイスクリーム、牛乳、バター、チーズなどの乳製品。
小麦粉、強力粉、片栗粉、餅、餡子などを大量に購入した。
一軒のスーパーマーケットを出て、
その大量の荷物をグリンちゃんの部屋へ入れて貰って
場所を変えて違うスーパーマーケットに入り様々な物を買い込んだ。
ちなみにグリンちゃんの部屋の中は、物が無限に入るし
時間が止まっているため入れている物が全く劣化しないらしい。
爺ちゃんは、前の500年間大好きな刺身も日本酒も食べられなかったらしい。
アツシは、『だから刺身や日本酒を食べて感激していたんだ』
と家族で食事した時の爺ちゃんが感激している姿を思い出した。
「あっちの世界では刺身とかないの?」
「そうなんじゃ、変な魚ばかりで気持ち悪くて刺身に出来んのじゃ」
「だったら刺身も買えばいいのに・・・」
「確かにそうじゃのぅ。
でもあまり刺身とかたくさん買ったら変に思われるじゃろう?」
「だったら海に行こうよ。そっちの方が安いし」
「おっ、いいアイデアじゃ。明日さっそく海に行こうかのぅ」
「それがいいよ。爺ちゃんは魔法使いなんだから、
その時に爺ちゃんが魔法で魚をたくさん捕まえればいいじゃん」
「アツシ、ナイスアイデアじゃ。明日が楽しみじゃ」
翌日、爺ちゃんと二人で海へ出掛けた。
暑い中、麦わら帽子を被って波止場へ行ったが多くの人が波止釣りしている。
この場所で爺ちゃんが魔法を使うと目立つため、どうしようかと考えた。
ふと見ると沖に小さな島が見える。
スマホで調べると無人島だった。
「爺ちゃん、あの島に渡ろうよ。あの島なら目立たないよ」
「わかった。ここではなんじゃから少し離れようか」
「そうだね。この暑さだし近くにある公園なら誰もいないかも」
「いざとなれば、まぁ人の認識を阻害すればいいだけなんじゃが、
まぁどこから誰が見ているかわからないから無理をする必要もないな」
波止場の近くにある小さな公園は、カンカン照りのため誰も居なかった。
「ちょうど誰もいなくてよかったのぅ」
爺ちゃんは沖の小島を見た。
「ホレ」
というなり、もう目の前には太平洋が広がっている。
「ねぇ、昨日から思ってたんだけど、
魔法使いって・・・何か・・・
そのぅ、呪文とか唱えたり、杖とかかざすもんじゃないの?」
「そういう奴もいるけど、それって何か気恥ずかしいじゃろ?
別にそんなことしなくても出来るからいいと思うんじゃよ」
「まぁね、だけど魔法使いなのに何か偉く見えないよね?
うーん、まぁ爺ちゃんは爺ちゃんだからまぁいいか」
「そうそう、他人は他人じゃ、では今から魚を獲ろうかのぅ」
爺ちゃんは、じっと海面を見つめて
「ほれ」
途端に目の前の海面が急に盛り上がって、
バシャバシャと波立って大小の魚たちが群がっている。
爺ちゃんは、こともなげに
「ほれ」
目の前に群がる地引網漁並みの大量の魚を
海水ごとグリンさんの部屋へ入れた。
グリンさんの家には、
『きっと水族館並みの光景が広がっているんだろうなぁ』
水族館好きのアツシは少し楽しみに思った。
それからは特にやる事も無く、誰もいない公園に戻って家へ帰った。
遠足前のお買い物みたいにたくさん買った二人。
今度こそいよいよ異世界か・・・




