1.爺ちゃんが死んだ朝
これからお気楽ロールプレイングゲーム風の物語が始まります。
夏休みに入ったある日
僕の大好きだった爺ちゃんが死んじゃった。
僕が朝に「もう朝ご飯だよ」と部屋へ起こしに行ったら、
爺ちゃんは、目を瞑りいつもの微笑みを浮かべていた。
いくら声をかけても何も応えないので嫌な予感がして、
そっと胸に組まれた手を触るととても冷たかったことを覚えている。
年齢は今年で70歳と世間的にもまだまだ若く、
少し血圧が高いだけで内臓もどこも悪くないって聞いてる。
お医者さんの話では、理由はわからないが、
夜中に寝ている間に心臓発作を起こして死んだらしい。
僕は今引き籠っている。
高校に入ってすぐにクラスのみんなから『オタクだから』と馬鹿にされ
掃除の時に汚い水をかけられたり、
トイレで無理矢理下着姿の写真を撮られたり、
校庭の隅で殴られたり、お金を強請り盗られたりして
そのことを先生に伝えても逆にそれが彼らにばれて更に虐められた。
爺ちゃんも僕のために何かと用事を作っては、
「近くまで来たから」と学校の帰りに校門近くで待って一緒に帰った。
だけどそんな爺ちゃんにまで彼らは、
爺ちゃんの横を急いで通り過ぎるふりをして
「ジジイがフラフラして邪魔だ」とわざとぶつかったりし始めた。
後で知ったことだが、学校でイジメが判明すると
学校的に困るので何とか無い事にしたかったようで、
彼らへ裏でそのことを伝えて、
虐める彼らに問題化しないように先生がお願いしていたらしい。
やがて僕は先生も信用出来なくなって学校に行くのが怖くなり、
夏休み前からとうとう学校に行けなくなって引き籠った。
僕はコタロー(柴犬)、ミュウ(三毛猫)、キンタロー(金魚)、
カメオ(ミドリカメ)、ヒョウ(ヒョウモントカゲモドキ)
ペット達のお世話を毎日しながら部屋の中で引き籠った。
ほとんど僕と一緒にいて遊んでくれたのは爺ちゃんだけだった。
爺ちゃんはどんな時でも僕の味方をしてくれた。
爺ちゃんは大学で薬剤師の資格を取り、卒業後製薬会社に就職して、
普段の日は朝から夜中まで営業で病院やクリニックや薬局を駆け回り、
土日もゴルフや釣りなど接待漬けの毎日で忙しくて、
あまり仕事以外何も出来なかったようで、
やっと定年退職をして、爺ちゃんは喜んで
婆ちゃんと色々な場所へ旅行に行ったり
好きだった寺や神社に参ってゆっくりしていた。
そんな時、僕が引き籠ったと聞いて、
僕の部屋に入って来て一緒にお茶を飲んでいる時、
偶然、僕が好きなロールプレイングゲームやアニメを見つけてから
ゲームソフトやアニメのCDや本を借りて最初は自分の部屋でしていた。
だけど次々と色々とわからない事が出て来て、
その質問やアニメの感想で毎日の様に部屋に来る様になって、
やがて僕が一緒にするようになって
とうとう爺ちゃんは僕の部屋に居つく様になった。
65歳になっても病院の薬局で仕事をしている働き者の優しい婆ちゃんは、
僕達二人を「マゴジーヒッキ―ズ」と笑っている。
爺ちゃんの話では、
小さい時から祖父ちゃんのお父さん、つまり曾祖父ちゃんから
『学生は勉強以外をしては駄目だ』と言われて何もさせてもらえなかったらしい。
爺ちゃんが小さい時からずっとしたかったゲームや見たかったアニメを
借りて部屋の中で一人だけでするのもそれなりに楽しいけど、
僕と一緒にした方が色々と聞けるし楽しい事に気がついたらしい。
そのことは僕も嬉しかったし楽しかった。
いつも爺ちゃんはキラキラとした目で僕を見て優しい笑顔で
『アツシは色々と良く知っているなあ。すごいなあ』と言ってくれた。
なぜかあまり乗り気でない態度の婆ちゃんと悲しそうな顔つきのお父さんが
爺ちゃんの横たわる部屋の隅で、葬儀屋さんと打ち合わせをしている時、
僕は爺ちゃんの伸びて白くなった顎の無精髭を電気髭剃りで剃っていた。
その時、突然、爺ちゃんの目が開いた。
そして爺ちゃんが大きく伸びをして布団から起き上がった。
「ふぁーよく寝た。
アツシ、おはよう、もう朝ご飯か?」
「!?」(僕)
「!?・・・お父さん・・・えっ?・・・」(お父さん)
「爺さん・・・おかえり・・・」(婆ちゃん)
「!?・・・えっ・・・
そのーお父様はお亡くなりになったのではないのですか?」(葬儀屋さん)
「・・・そうなのですが・・・
おーい、母さん、大変だ。お父さんが生き返ったぞ」(お父さん)
「お父さん、疲れてるの?まだ若いのにボケるには早いわよ。
何を言ってるの・・・えっ?そんな馬鹿なことが・・・」(お母さん)
中学1年生の妹のミチコもそれを聞いて急いで部屋から走ってきた。
「お爺ちゃんが生き返った・・・
爺ちゃんすごーい、わーい、爺ちゃん、おかえりー」と叫んでいる。
僕は突然の出来事に驚きながらも嬉しくて、
布団に座っている爺ちゃんへ抱きついた。
「爺ちゃん、驚いたよー、
死んだのかと思ったじゃん。
生きてて良かったよー。僕、嬉しいよー」
「うん?・・・ワシは・・・死んでいたのか?」
「そうだよ。爺ちゃん、
昨日の朝、僕が起こしに行ったら死んじゃってたんだよ。
それからお医者さんも来て『ご臨終です』とか言ってたよ」
「そうなのか・・・ふーん、不思議な話だな・・・」
そんなこんなで、
もう一度お医者さんを呼んで診察してもらい、
「少し血圧が高いだけで他には特に何も異常はありません」
とお医者さんは首を傾げながら帰って行った。
その夜は、お祝いも兼ねて爺ちゃんの希望で大好きな”お寿司”を頼んだ。
爺ちゃんは、なぜか涙を流しながら呟いている。
「久しぶりに食ったけどやはり寿司は美味いなあ。やはり日本人はお寿司だな」
婆ちゃんはなぜかにこやかに見ている。
「そうだね。お寿司は美味しいね。
爺ちゃんはお寿司が大好きだものね」(婆ちゃん)
婆ちゃん以外の家族はみんな首を傾げながら
「確か先週にも回るお寿司に行ったと思うけど・・・」(お父さん)
「そうね・・・もう忘れたのかしら。やばいわねえ」(お母さん)
「確か爺ちゃん、先週も同じこと言ってたような・・・」(妹)
「まあ爺ちゃんが、喜んでいるからいいじゃない?
いつ食べても何度食べてもお寿司は美味しいね」(アツシ)
「そうじゃ、寿司はほんとに久しぶりでのう。うまいのう。
それに日本酒も久しぶりだし、ほんとにうまいのう。
やはり日本人には日本酒が一番じゃ」
「・・・(日本酒は毎日飲んでるけどねえ)」(爺ちゃんと婆ちゃん以外の家族)
爺ちゃんが生き返ってから数日たった夜、
いつものように二人でゲームをしていた。
そのゲームは、いつものように異世界冒険ファンタジーだった。
爺ちゃんが懐かしそうに不思議なある話をしてくれた。
爺ちゃんは死んだ(本人は寝ていたつもりなのだが)前の晩、
寝る前に起きていた婆ちゃんと色々と話していて、
僕とやっているゲームの楽しさを話して、
その間の僕の様子を話していたらしい。
爺ちゃんが、
「アツシがあんなに生き生きとした表情ができるのに惜しいな」
と呟いたら、婆ちゃんが
「そんなにいい世界なら二人で行ければいいわね。
でもどんな世界かわからないから
まずは爺ちゃんが先に行って調べた方がいいわね」
「もちろん、もしそうなればわしが先に行って調べるつもりじゃ」
という話をしながら寝たら、
わしは死んだことになっていたという話だった。
さらに爺ちゃんの話は続いた。
爺ちゃんは、今やっているゲームと同じ時代の異世界に行き、
500年間戦いながら旅をして、
格闘士、剣士、魔導士のマスターになって、
今の職業は、魔法使いになっているらしい。
まぁ爺ちゃんは少し前に一度死んでいるので、
きっと死ぬ前にプレイした異世界ゲームの記憶が混在して、
その間にそんな夢を見たのだろうと思っていた。
「へぇ、そうなんだ」と軽く返事すると
爺ちゃんが、突然
「アツシ、これを見てごらん」
「なに?」
ゲームから目を離して、爺ちゃんの方を見る・・・
なんと爺ちゃんの掌の上に“小さな炎”が浮いている・・・
「えっ?これなに?」
僕が触ろうとすると爺ちゃんは、
「危ない、アツシ、触ったら火傷するぞ」
掌の上に浮いている“小さな炎”は消えた。
「他にもこんなのも出来るぞ」
と言うなり、
爺ちゃんは胡坐を掻いたまま空中へと浮かんだ。
「・・・爺ちゃん、どうしたの?・・・」
「だから、わしは魔法使いだと言ったじゃろう?」
「だって、今までこんなこと・・・」
「だから、今は魔法使いだと言ったじゃろう?
これで信じてくれるかなぁ」
「・・・うん。信じる。爺ちゃん、すごいや」
ゆるゆるとした物語です。気楽に読み飛ばしていってください。




