7話 メイドのお願い
翌日。
私はミーレ様に呼び出された。
シスさんも廊下の途中まで同行してくれたが、私以上に顔色が悪かった。
「メ、メイ……魔王様に失礼なことをしたり、していないよな?」
「す、すみません……わかんないです……」
「出産の時、何かとてつもなく失礼なことをして、魔王様を怒らせたとかではないよな? 私たちメイドが魔王様に呼び出されることは滅多にないんだぞ」
「そんなことしませ――あ」
「何をした」
「赤ちゃんを取り上げる時、その……魔王様の、とても大切なところを……見ました……け、けどあれは不可抗力です! あそこから赤ちゃんは産まれるんですから!」
「メイ! きっとそれだ!」
「ええええええええ!?」
「魔王様は身持ちの固い方だ! 私たち下賤なメイドが、魔王様の恥部を見るなど許されることではない!」
「じゃあ、どうしたらよかったんですか!?」
王室前の兵士が、咳払いをした。
「お静かに。こちらです」
「す、すみません……」
「ほら、行くぞメイ」
シスが一緒に入ろうとしたところで、兵士が手を上げた。
「お止まりください」
「なんだと?」
「招かれたのはメイ様だけです。あなたはお引き取りを」
「そ、そうか。なら仕方ない」
シスは私の肩に手を置いた。
「頑張れよ、メイ。骨は拾ってやる」
「リーダーッ!?」
あまりにも不吉な激励を残し、シスは去っていった。
私は震える手で扉を押し開けた。
「し、失礼します……」
「あら、メイ。来てくれたのね」
「は、はひっ」
がちっ、と舌を噛んだ。
「あらあら。そんなに焦らなくていいのよ」
「しゅ、しゅいましぇん……」
部屋の中には、柔らかな光が満ちていた。
大きな寝台に身を起こしたミーレ様が、赤子を抱いている。
昨日よりも顔色は少し良くなっていたが、まだ疲れは残っているようだった。
赤子はミーレ様の腕の中で、すやすやと眠っていた。
「まずは、あなたにお礼を言わせて」
「お礼、ですか?」
「ええ。私とこの子が無事だったのは、あなたのおかげよ。ありがとう、メイ」
「えええええっ! 魔王様が私なんかに頭を下げないでください! 当然のことをしたまでですから!」
「当然のことを、あの場で本当にできる人は少ないわ」
ミーレ様は穏やかに微笑んだ。
「この子の名前は、ゼル。ゼル・フォースよ」
「ゼル様……」
「どう? 良い名前だと思わない?」
「はい。とても素晴らしいお名前だと思います」
そう言うと、ミーレ様は嬉しそうに目を細めた。
「それでね、メイ。あなたを呼んだ理由は2つあるの」
「2つ、ですか?」
「1つ目はお礼。何か欲しいものはない? ちゃんと報いたいの」
「そんな恐れ多いです!」
私は慌てて両手を振った。
その時、ゼル様が小さく身じろぎをした。
「あ……」
私は思わず視線を奪われた。
小さな頬。
小さな手。まだ世界の何も知らないような寝顔。
「あの……1つだけ、よろしいですか……」
「いいわよ。何でも言って」
「その……ゼル様を抱っこしたいです……」




