表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/23

4話 魔王様は気まぐれ

「ふんふんふふーん♪」


 数日後。


 私は魔王城の屋上で、大量の洗濯物を干していた。

 城の屋上は思っていたよりも広く、風通しがいい。

 

 高い場所からは城下町が一望できた。

 黒い屋根が並び、その向こうには荒れた大地と、さらに遠くに青い海が見える。


 この世界には、大陸は1つしかない。


 大昔の戦争で、すべて海に沈んだと教わった。

 そう思うと、目の前に広がる景色が急に心細く感じられた。


「しかし……洗濯物が多いですね……この数、私1人で干せるでしょうか?」


 兵士の服。メイド服。

 寝具にタオル。


 物干し台には、次から次へと布が増えていく。


「明らかに仕事の量と人数が合っていない気がします。先輩に聞くと、今は人を雇うのに慎重になっているそうですし……なぜでしょうか?」


 独り言をこぼした、その時だった。


 ガチャリ、と屋上の扉が開いた。


「あれ、誰か来ましたね。もしかしてシスさんですか?」


 振り返ろうとした瞬間、強い風が吹いた。


「わっ、洗濯物が!」


 干したばかりのタオルが一枚、風に煽られて飛んでいく。


 慌てて手を伸ばしたが、タオルは私の手をすり抜け、ちょうど屋上に出てきた人物の顔にばさりとかかった。


「ああっ! ごめんなさい! 洗濯物がぶつかりました!」


「大丈夫よ。気にしないで」


 柔らかな声だった。


 タオルを外したその人を見て、私は固まった。


 白く美しい肌。淡い金髪。穏やかな微笑み。


「ほわああ……とても美人な方で――」


 そこまで言ってから、頭の中で警鐘が鳴った。


「魔王様ああああああああああああああ!?」


 目の前にいるのは、間違いない

 魔王ミーレ=フォース様だった。


「そんなに驚かなくても」


「な、なんでこんなところに!?」


「書類仕事に疲れてね。少し息抜きと思って屋上に来たの」


「だ、だめです! お身体に障ります! お腹にお子様もおられます!」


「いいじゃない。息抜きは大事よ」


「え、えええ……」


 相手は魔王様だ。


 止めていいのか、止めてはいけないのか、私には判断がつかなかった。


 けれど、このまま立たせておくのはもっと怖い。


「じゃ、じゃあ! せめてこちらにお座りください!」


「ふふ、ありがとう」


 私は慌てて洗濯籠をひっくり返し、その上に畳んだ布を敷いた。


 ミーレ様は楽しそうに笑いながら腰を下ろした。


「失礼だけど、あなたは?」


「私はメイと申します。3日前にメイドとして入った者です」


「あらあら。新人さんだったのね」


「は、はい!」


「ここに来る前は何をしていたの?」


「えっと……宿屋で働いていまして……」


 最初は緊張で舌が回らなかった。


 けれどミーレ様は、身分の差を感じさせないほど穏やかに話を聞いてくれた。


 宿屋『豊穣』のこと。オニオンスープのこと。

 ミアロのこと。酔っ払い客の相手が大変だったこと。


 話しているうちに、いつの間にか私は笑っていた。


「随分長いこと話してしまったわね」


「い、いえ……気にされないでください」


 その時、屋上の扉が勢いよく開いた。


「おい、メイ。遅いぞ。いつまで洗濯物を干して――」


 シスは途中で言葉を失った。


 そして、次の瞬間――。


「魔王様ああああああああああああああああああ!?」


「シスさん!?」


「メメメ、メイ! これは一体どういうことだ!?」


「あらら。シスったら、そんなに慌てちゃって」


「ま、ままままさか……メイ! 貴様、魔王様を屋上に連れ出したのか!?」


「違います! 違います! 違います!」


 私は全力で首を横に振った。


「あはは。メイに暇つぶしの相手をしてもらっていたのよ」


「失礼はありませんでしたか!?」


「何もなかったわよ。とてもいい子ね」


 ミーレ様がそう言うと、シスは安心したような、余計に胃が痛くなったような顔をした。


「いいかメイ! 魔王様は隙があれば、すぐどこかに抜け出す癖がある! もしまた同じことがあれば、必ず魔王様のそばを離れるなよ!」


「は、はい!」


「もし魔王様が転んで、お腹の子に何かあってみろ! お前と、その教育係である私は責任を取らされて首が飛ぶぞ!」


「ひええええええ!」


 ミーレ様だけが、くすくすと楽しそうに笑っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ