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95/104

95粒目

「少し久しいね

私は今、茶の国を越えて青の国にいるよ

手紙を出すなら少しでも彼等に近いはずの青の国の方がいいだろうと

じじいの口車に乗せられてね

あんたたちの兄さんの言う通り、茶の国はよかったよ

生まれついた街もいいけど

好きな土地が増えるのはいいことだね

あの少しキリッとした人たちも服も

それを緩和する優しい茶色もね

そうだ

なんの巡り合わせかね

あんたたちが世話になった宿のじいさんと狼と知り合ったよ

うちのチビは

もうチビと呼べるほど小さくないけど

躾はしてるし普段は大人しいんだけどね

茶屋でじいさんとあの茶色の狼が入ってきたら

こっちが止める前に尻尾振って駆けてたっんだよ

相手は気性の優しい子で

ぶつかる勢いでチビが纏わりついても

尻尾振って相手してくれてさ

そんなんが切っ掛けでじいさんと同じテーブル付いて

ちょっと話をしてたら

そのじいさんに聞かれたんだよ

『あなたのお国には、茶色い多毛の丸さが印象的な動物はいますか』

って

いいや私は海向こうから来た海を挟んだご近所さんだし

そんな動物はいないけど見たことはあるって答えたら

じいさんよりも茶色い狼が尻尾振って見上げてくるんだよ

間違いなくあんたの従獣のことだろうね

世話になったよと話したら

茶色い狼はね

あんたたちが旅立ってから、よーくドアの外で人待ち顔で佇んでるって

お陰で表通りを散歩中の狼友達が出来たとじいさんは喜んでたけどね

せっかくだしじいさんの宿にも泊まったよ

あ?じじいの家?

あんな無駄にでかくてじじいの家族もいる屋敷なんか落ち着かなくて眠れたもんじゃない

一応挨拶だけはしておいたよ

じじいの孫娘にも、また会いたいって伝えて欲しいと頼まれたから

ここに記しておくよ」



「ふぬぬ」

「彼女は元気そうだな」

「フーン」

狼が好きなあの研師は、狼男を見たらどんな反応をするであろうか。

男が2枚目を捲ると。


「もう2枚目だよ

無駄話もそこそこにしないとね

まずはそうだね

青の国で組合に顔を出したよ

驚く程気取った服屋の店長みたいな男が相手してくれてさ

あんたたちも知ってるはずだよ

散々フクロウとミミズクの自慢されてから

手紙を遠くまで送りたいとジジイが話してさ

あんたたちの特徴話したら

あれよあれよと自室に招かれたよ

部屋も無駄にお洒落でいけすかないね

まぁ子フクロウだけでなくフクロウもミミズクも可愛かったけどね

それは認めるよ

うちのチビは宿で留守番させてたから安心しな

その青の国の組合長も

あんたたちに手紙を送ったらしいよ

でも届いてないかもしれないって

それでさ

各国の組合を経由で送ってみるのはどうかって勧められたんだよ

途中までは組合長の伝(つて)を辿って、先の国への組合にも伝わるように

鳥だけに頼らず先の国まで確実に手紙を届ける方法を試みませんかってね

そうだよ

これは安くない実験だよ

それでも無駄に懐(ふところ)のあったかいジジイが率先して話に乗ってたけどね

それでその話を進めるために

ジジイ自らが赤の国を越えて水の街まで行くとか騒いでるのが今だよ

あたしたちの新婚旅行だって

じゃあ今のここまで来たこの旅はなんだってんだとね

溜め息の1つくらいは吐かせて欲しいよ」


「この様子だと行くんだろうな」

「くふふ」

「フーン」


「参ったね

まだまだ伝えなきゃいけないことはあるのにもう3枚目だよ

私の身体のことをね

今も特に異常は感じられないんだけど

チビのことだよ

まだもう少しチビの時にね

庭でボールを投げてやって遊んでたときに

こちらにボールを咥えてやってきたチビが目の前でボールを落としてさ

拾ってやろうと手を伸ばしたらチビも鼻先を突っ込んできて

ボールを噛む勢いで見事に噛まれたんだよ

チビでも

噛む力は一丁前で

血が流れたら慌ててこっちの手を舐めてきてさ

危ないからやめなって慌てて引き剥がしたんだけどね

ほら

あんたちも知ってるはずだよ

“白い花の力は獣には効かない”

でも

私の貰った白い花には

“あんたの力”

が混じってるんだろ?

今のところチビには今のところなんの変化もない

あんたみたいな赤い瞳になっても可愛かったんだけどね

腕の傷の治りはね

驚く程早かったよ

取り急ぎで伝えたいことはそれくらいかね

もっとね

茶色の国の話や青の国の青い狼の話なんかも聞いて欲しかったけど

また次にするよ

ーーー

また会いに来て欲しいね

そうしたら

もう一度

あんたを胸に抱かせておくれ

あんたの従獣のもふもふのあの子と一緒にね」


男向けの手紙がほとんどの中。

「珍しく我宛であったの」

「そうだな」

男が我を膝に抱き上げる。

「フーン」

青い狼と、茶色の狼にも会いたいですと狸擬き。

「そうの」

それにしても。

「茶色の狼は、宿のおじじと同じくらい老いていたはずなのに、案外元気であるの」

しぶといと言うか。

良いことではあるけれど。

なんにせよ。

「この手紙は、研師の“パートナー”であるおじじの力業で届いた代物であるの」

男が小さく笑いながら、おじじからの手紙を開く。

「お久しぶりです。

お元気にしていますか?

書きたいことは色々ありますが、今回はこの手紙に関しての事だけお伝えします。

あなた方にこの手紙を送るのは、遠い組合同士の繋がるきっかけ、架け橋になりうるものです。

これには色々な労力が、はっきり言えば何より破格のお金が掛かってしまいます。

ですが、こちらも出来る限りの場所まで、組合へ話を繋げて行くので、あなた方からの協力もお願いしたい。

いつになるかは分かりませんが、お礼として、お嬢様のお洋服を各地で吟味のち買い漁るだけでなく、茶の国ではデザインから発注してのご用意もしておきますので、どうか力を貸して頂けると幸甚(こうじん)に存じます」


「やめるのの」

思わず声に出た。

男が身体を揺らして笑うため、我も釣られて揺れる。

「フーン」

わたくしめに対しての報酬が記されて御座いませんとご不満狸。

「……そもそもお主は何も用を頼まれておらぬであろうの」

視線を向けれど。

「おじじの依頼を効率よく果たすために、こやつをそこいらの組合に走らせるかの」

男を見上げれば。

「それもいいけれど、やはり実際顔を出して伝えないと説得力が違うだろうな」

ぬぬん。

その通りである。

そして手紙を読んでいて気になったのは。

もう1つ。

すっかりすっぽ抜けていた疑問。

「の、あの白いミミズクは、過去に“白い花”で一命を取り留めたはずの」

「あぁ」

「でも、この研師の書いている通り、白い花は獣には効かないはずの」

どういうことのであるか。

「違う花なんだろう」

何ともあっさり。

「のの?」

「土地により、育つものも種類も違う」

ほう。

「獣に効く白い花も当然存在するのの?」

「俺はそう思っていたよ」

ぬん。

ミミズクはだいぶ遠い場所からあの土地まで旅して来た様子。

飛べる生き物であるし、もしかしたら、反対側から飛んできた可能性すらある。

「気になるか?」

ふぬ。

「我の力の籠ったものと、どちらの力が強いかは少々気になるの」

「んん?君は案外負けん気が強いな?」

意外そうに顔を覗き込まれた。

「くふふ、知らなかったのの?」

地図を眺めながら、研師とおじじはどこの組合に、どこいらまで話を繋げに行くかのと話していたけれど。

「……暗いな」

気付けば、夕暮れ。

地図が見えにくいはずである。

男が部屋の部屋のランタンに火を灯していると。

「お待たせいたしました」

チーフと青年が迎えに来てくれた。


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