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91/104

91粒目

珍しくお客様が少なくてと、マダムと宿の主人が仲良く連れたって小島へ散策へ向かった。

我等も、やっと、

「今日出発をする」

と渋々我等の部屋へやってきた桃色小鳥を連れて、組合へ行こうとすれば。

「フンフン」

「のの?」

狸擬きがテーブルに、やはり後生大事に持っていたらしい桃の種を置き。

「フーン」

組合で預からせている、わたくしの村での働き賃で、この桃の種を、熊の村長宛に送り。

「ふぬ?」

「フーン」

「屋敷の敷地に種を植えるように頼んで欲しいのです」

と狸擬き。

「なんの」

珍しく労働に勤しんでいたのは、桃の種を送るためであったか。

「フーン」

実はそうなのですと、したり顔狸。

(ぬぬん)

それでも。

狸擬きが日当で稼いだ分を計算すれば、鳥を半分も飛ばせればいい方か。

狸擬きの稼ぎが悪いのではなく、いやむしろ破格であれど、郵便鳥を飛ばす金額が桁違いに高い。

しかし。

「それなら足りるだろう」

と男がさらりと嘯(うそぶ)き。

金筒に、男が村長宛に書いた手紙と狸擬きが後生大事にしていた種を詰める。

しかしである。

そんなことをしなくとも。

「桃の種は、熊の村長に頼んで、そこいらから桃を仕入れて貰い種を植えれば良いのではないかの」

「フンッ!?」

狸擬きはその場で飛び上がるけれど。

「向こうの桃とは少し違うかもしれない。君が好んだのは、あの土地の桃だろう?」

男が声を出さずに笑い。

「ぬぬ」

まぁそうの。

組合へ向かえば、桃色小鳥が受付の奥へ飛んで行き、村を飛び回る小鳥の待機するとまり木へ向かい、

「ピチッ」

挨拶をしている。

それくらいの常識は持っているらしい。

「よぉ、タヌキさん」

狸擬きが、きっとこの辺りを行ったり来たりしているであろう行商人と思われる男に声を掛けられ。

「フーン」

その隙に男が、預かって頂いている彼の賃金分をを含め、鳥を飛ばしたい、足りない分を教えてほしいと受付で問えば。

「郵便鳥代は、宿に請求を回すようにと承っておりますので」

今日も肩に鳥を乗せた男が、代金は受け取れませんと緩くかぶりを振って拒絶された。

(ののん)

男も、一度目ならともかく、二度目は、これ以上ご厚意に甘えるわけにはいきませんと当然渋ったけれど。

鳥を肩に乗せた男は、ううんと空咳をし、

「でしたら、半分は組合と村で負担をしましょう」

と、妙案と言わんばかりに手の平を合わせ。

なんの。

こやつにそんな権限があるのかと思ったら、こやつこそ、この村の村長兼組合長だった。

まこと失礼ながら、村長感がない。

臨時の手伝いの者かと思っていたくらい存在感が薄い。

肩に鳥を乗せていてもである。

「少しお時間を頂けますか?」

と天井を指差され、村長の癖に我等の相手をしている暇があるのかと思えど。

そう言えば、前回より客は少ない。

村長が受付から出てくると、右手の階段へ向かう。

受付のある床は勿論、階段にもうっすら砂埃。

「掃除する間もなくて、そろそろしないとダメですねぇ」

あははと気にした様子もなく先導する村長に、階段からすぐの手前の部屋に通された。

籐のソファ、とだいぶ草臥れた脚の短い木のテーブル。

男が我をソファに座らせてから、隣に腰を降ろす。

狸擬きは、窓際の1人掛けのソファに飛び乗ると、くるりとその身を丸める。

ちょっと待ってて下さいと出ていった村長が、

「よいしょ、とと、失礼します」

自ら赤い液体の入ったグラスを盆に乗せて運んできてくれた。

スイカのジュースである。

途端に狸擬きがソファに座り直し、寄越せと短い前足を伸ばしている。

改めての自己紹介の後。

「この度は、獣人様と、こちらの“タヌキ様“にも、村で活躍して頂いて、感謝しています」

手伝いでなく、活躍とな。

「えぇ。ここは土地も村ものんびりした気性ですが、夏の盛りはやはりそれだけでは、色々滞りがちになってしまうのです」

けれども。

この夏は、外から来たぽっと出の、半獣半人の男がせっせと働き、見慣れぬ4つ足の獣も、お使いの依頼をすれば、あっという間に仕事を終わらせてくるため。

「臨時の働き手の方ばかりに負担を掛けてはいけないと、若干村人の士気もあがりまして」

いつもなら、のんびりが裏目に出て、色々と滞りがちになり、行楽でこの土地にやってきた客たちと、多少のいざこざが起きてしまうけれど、この夏はそれもなかったと。

開いた窓から向かいの建物の屋根に視線を向ける村長は。

「あとはですね」

ふぬ。

「……言葉にしにくいな」

肩に乗せた鳥を、腕を上げて反対の肩に乗せ直し、ボソリと呟くと。

「?」

「あの獣人の彼は、あれだけ魅力的な若者でありながら」

ありながら。

「村の、若い娘たちと必要以上に親しくならない、非常に紳士な振る舞いも、こちらしては勝手ながら、有り難い部分でありまして……」

モゴモゴと口ごもる村長。

ほほぅ。

なるほどなるほど。

一夏のなんとやらであるの。

むしろ。

「いっそ責任を取らせてこの村に定住させよ、なんて囁きもあったのではないのの?」

狼男の定住を望む声もあった様であるし。

にんまり唇を引き上げて見せれば。

男は、苦笑いしながら村長に伝えている。

村長は平たい目を見開くと、

「実は、お察しの通りです。でも、彼はどうやら最後まで紳士な様子」

肩を揺らして笑うと、鳥も揺れる。

しかし。

最後まで。

「えぇ。出発前に、少しでも目的地から近い土地から鳥を飛ばそうと考えていたのでは……?」

ほうほう。

男が、もう少し村が落ち着くまで、彼の仕事が減るまでは居させてもらう予定ですと答え。

「それは、村としても助かります」

夏の盛りが過ぎると、少し疲れも出てくる頃。

助っ人の存在は心強いと、パッと笑みが浮かぶ。

「大袈裟でなく、あの彼はこの村の住人の3人分は働きますし、こちらの“タヌキ様”も、鳥より荷を運べて仕事振りも優秀なので」

旅立たれてしまうのは、やはりとても惜しいと、指を組む村長。

フンッと鼻を高くする従獣。

金筒を託した村長に見送られて組合を出ると、

「お主のお小遣いが増えたの」

「石に替えておこうか?」

「フーン」

男の提案に、食材を買って主様に甘味を作って欲しいのですと狸擬き。

宿の部屋でコンロを使うわけにも行かない。

「小島で何か作るかの」

「フーン♪」

食材仕入れていると、

「おやの」

両肩に大きな箱を抱えた狼男が、

『おぉっ』

ニコニコと道を横断してやってきた。

中身は柑橘類と思われる。

広場まで運ぶというため、ノコノコ付いていきながら。

「この村はどうの?」

問うてみれば。

『いい街だ』

「愛らしい娘はいたかの?」

『あぁ。君くらい小さな子は、オスもメスも皆可愛いな』

ぬぬん。

言ったそばから、小さな男児が2人駆けてくると、狼男にまとわり付いている。

狸擬きは、素早くささっと我の後ろに隠れ警戒モード。

男児たちは、我の後ろに隠れる狸擬きに残念そうな顔になるも。

我と目が合えば、どちらも人懐っこく、白い歯を見せて笑ってくれる。

言葉の通じぬ代わりに、胸の前で右手を小さく振って見せると、何か問われた。

「どこから来たのかと聞かれているよ」

のの。

正確には我自身ではなく、我にひっつく狸擬きの出生が気になる様子。

とても遠い山の麓だそうだと、狼男が答えている。

並んで歩きながら、我が日に焼けていないことを不思議がられているとも。

男児たちは綺麗に焼けている。

狼男が屋台の前に荷を卸すと、男児たちは待ってましたと言わんばかりに狼男にしがみつき、狼男の肩に乗せて貰い大喜びではしゃいでいる。

「元気であるの」

男は、広場で麻の布を売っている若い女に声を掛けられ、仕事用の笑みを見せ、愛想よく何か答えている。

仕事になるやもしれぬ。

なら邪魔をしてはならぬのと、すぐ近くの木のベンチに腰掛ければ。

「フーン」

狸擬きが、隣に腰掛ける前に、広い道沿いに鼻先を向け。

「フンスン」

「?」

「ピチーッ」

足に、金筒を付けた桃色小鳥がバビュンッと飛んできた。


桃色小鳥は、狸擬きの頭に着地し、

「ピチチ」

今から出発をすると、嘴で金筒の先をコツコツ叩く。

「頼むのの」

「ピチッ」

貴様等と出会えて僥倖、またいつか会えたら盛大にもてなせと言ってると狸擬き。

「なんの。お主は引退したら、あの宿で世話になるのであろう?」

我等の部屋の寝室で不貞腐れたこやつに、マダムが、

「えぇ、えぇ。私たちはいつでもお客様を歓迎します」

引退後は是非、この宿で羽根を伸ばして下さいと、ちゃっかり言質をもぎ取っているのだ。

「ピチッ」

そうだ、だから引退したら自分に会いに来いと桃色小鳥。

その上で、もてなせとな。

「ピーチー」

その通りだと。

なんの。

「我等が世話になった桃色小鳥たちの中でも、頭1つ、いや2つ分は欲深き個体であるの」

軽口を叩いてみせれど。

桃色小鳥は、我の挑発には乗らず。

「……」

代わりに、じっと我を見つめて来た。


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