表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/60

54粒目

我自身。

遺憾ながら、むやみやたらと忌諱されることは多い。

ただ。

ある一定の、人でも獣でもない何者か共には、我は非常に美味しそうに見える場合もある様子。

空を飛ぶ鳥たちに寄生した何かにも。

きっと、今ですら見た目は幼子である故に、気狂い鳥たちには美味なご馳走に思えている可能性は高い。

ならば、我は。

更に、優秀な囮となろうではないか。

目を閉じ。

この。

このちんまき身体の中に。

普段は無意識に閉めている我の中の枷を。

どこぞの扉の鍵を、1つ。

たった1つだけ、外す。

それは、音もなく。

あっさりと。

外れれば、まるで鍵など存在しなかったかのように。

「……」

外れる。

さすれば。

人を模した我は。

ふわりふわりと、普段は押し止めているものが、爪の先から髪の先まで張り巡らされ。

したらば。

「……フッ!?」

日頃から我の従獣ですと憚らない狸擬きは、毛を膨らませるどころか、荷台の端に飛び退き小さく縮こまり。

「フーン、フーン……」

わたくしめは今の主様がとても恐ろしいのですと震えている。

狼男は、我の隣にはいるものの。

『……今すぐ、この馬車から飛び降りて逃げ去りたい……っ』

と奥歯を食い縛って耐えている。

ならば我等を乗せて馬車を走らせている、まだまだ人である男は、今は、どれくらい顔色を青くしているのであろうか。

少しばかり見てみたい。


そんな。

我の大事な仲間たちには申し訳ないけれども。

我が、枷を1つばかり外したお陰で。

「……来たの」

まんまと。

そう、まんまと。

村の特に建物の上を旋回していた鳥たちの、大変に耳障りな鳴き声が、こちらに近付いてきた。

(よいの)

大変に良い塩梅である。

やはり今の我は、お主等には、非常にいい(にえ)に感じるであろうの。

「くふふ」

我の漏らす笑い声に全力で隣から退いた狼男は、荷台の柵を掴み、奥歯を鳴らす程に震えを隠せず。

フォークを乗せた先を急ぐ馬車が村から、村の建物からも外れれば、人は勿論、羊たちも今は建物に避難させられている放牧場が広がり。

「よいしょの」

我は馬車が停まるなり、怯える狼男の力で荷台が破壊される前に、荷台から飛び降りる。

さすれば、

「……フーン?」

わたくしめの恐ろしく尚おぞましき主様と、いらぬ異名付きで狸擬きに呼ばれた。

「ぬ?」

「フゥンフン」

お着替えはされずともよいのですかと。

お着替え。

巫女装束であるか。

今は白いフリルの可憐なワンピースであるけれど。

「あの程度の小物、このままでも全く問題なきの」

なんなら勿体ないくらいまである。


こちらを意識しながら放牧場を旋回する鳥たちを見上げていると、

「ここで大丈夫か?」

心持ちでもなく顔色の悪い男がベンチから降りてきた。

「平気の」

槍投げの要領で鳥に飛ばす予定のフォークを狼男が荷台から下ろしてくれる。

「ありがとうの」

礼を述べて受け取ってみたものの。

「のん」

我の背丈では、真ん中を空に向けて持ち構えれば、フォークの尻が地面に当たる。

『高さが必要なら、俺の肩に跨がるか?』

顔色の悪い狼男が健気に屈んでくれたけれど。

「そうの。ただ、飛ばした時の反動で、お主の首の骨か腰骨が折れるやもしれぬからの」

『う……っいや、耐えてみせよう』

その心意気だけは認めるけれど。

「端を持つから大丈夫の」

狼男の身体が、衝撃に耐えられなかった時が困るのである。

フォークの尾に近い部分を持ち構えれば。

「……フーン」

やっと荷台から降り、そろりそろりとこちらにやって来るへっぴり腰は、自称我の従獣。

そして快晴の空から届くのは、とかく不快な鳴き声。

すでに我の姿に興奮を抑えられず、飛びながらも呼吸を乱しているのが分かる。

「本当は、綺麗な鳴き声の鳥だそうだよ」

今は、なまじ音量があるから厄介であり。

「早く済ませなくてはの」

我はフォークを握った手の平に力を込めると、

『……うぉっ』

人より敏感な狼男が身体を固くし、狸擬きはぴゃっ!飛び上がりと遠くへ逃げている。

男からは、ヒュッと息を飲み込む気配。

むしろ、それだけで済んでいるのだから凄い。

我は力を込めて握ったフォークの竿を、ぺろりと一舐めしてから。

「よいしょの」

こちらを見下ろしつつも騒がしく旋回する鳥に向けて、飛ばせば。

「……」

『お、おおお……』

フォークは、その質量をものともせず飛んで行き。

「ふぬ」

日射しの眩しさに目を細めて空を仰げば。

「あぁ……」

我が空へ投げた巨大なフォークは、一直線に鳥に向かい、まずは1羽を仕留めると、そのまま勢いを落とさずに曲線を描いて、すぐさま向きを変えて逃げる2羽目へ追撃し、

『おおお……っ!?』

1羽目同様に頭を貫けば。

仕事は終わったと言わんばかりに、放牧場へその勢いを落とさぬままに落下を始めた。

我の隣に立つ男の、その感嘆と思われる、大きく吐き出す息と共に。

「……君は、本当に凄いな」

落ちていくフォークを目で追いながら呟かれ。

「それほどでもないの」

謙遜くらいはしておく。


狼男が、鳥の突き刺さったフォークを肩に掲げて組合へ向かうと、当然、大きな大きな歓声が沸いた。

鳥たちは餌がなくだいぶ疲弊していたため、討伐も案外容易だったと嘘を吐き。

更に、自分達はあまり目立つことは好まないため、おおっぴらにしないで欲しい。

するならばすぐに街を立つと、あらかじめ組合ではそう言えと伝えていた言葉を狼男が伝えれば。

「その、でしたら、大変に図々しくも、旅人のあなた方には助言を頂き、組合の私たちと共に退治したと言うことにさせてもらっても構いませんか?」

組合の面目が立たずでして……と組合長。

フォークを運んできたのは彼等であるしの。

恐縮し小さくなる組合長と、組合の人間たち。

我等は構わぬけれど、組合が、鳥たちをどう退治したのか村人達に話すのかは気になる。

組合長が囮になったとでも口裏を合わせるのか。

しばらく辻褄を合わせるための話し合いが行われ。

「ええと、俺たちが貸した罠を組合の方たちが仕掛けて、それに引っ掛かったことにするらしい」

ほうほう。

あくまでも組合が主導を取ったと。

目立つに済むならそれでいい。

気がつけば、窓から西陽が射し込み。

「村で、鳥討伐の、小さいですがお祝いを行いますので、それまではどうか村に」

と滞在を勧められた。

お祭り。

どうやら討伐祝いのただ酒が振る舞われそうな気配に、狸擬きがそわそわふわふわ尻尾を揺らしている。

「しかし、功績を残したい冒険者の方も多い中で、少し珍しいですな」

『冒険者ではなく、一応行商人の身なので』

狼男が訂正すれば。

「おおっ?ならばお礼の一貫として、是非、品物を高値で引き取らせてください」

組合長曰く小さな村なため、換金などもうちでやっているのですと。

琥珀を、この辺りでは価値の高い橙色の石と換えて貰い。

組合長が自ら、村の小さな宿まで案内してくれる。

討伐の話はすでにあっという間に村に広がっているため、宿の女将もニコニコと出迎えてくれた。

男に抱かれた我は、ここでも当然、言葉が全く通じないことになっているし、狸擬きがいなければそれは嘘でもなく。

そのためか。

「夜の殿方用の店には、あなた方を歓迎するようにと声を掛けておきますので、どうぞご利用下さい」

お客様たちならば、彼女達も喜びますとのでこそりと組合長。

その間、我と狸擬きは、宿の女将が預かってくれるらしい。

なんとも、至れり尽くせりではないか。

男は作った笑みで無難にニコニコしているだけれであれど、

『……あ、あぁ。いや、俺は。……ええと、そうだ。その、気持ち、気持ちだけ、有り難く頂戴する』

狼男の心底困った顔と態度に、思わず小さく笑ってしまうと、

「こら」

男に小声で(たしな)められた。


我等の世話になる小さな宿は、本日の客は我等だけれども、

「今日はお祝いの席だからとね」

挽き肉と芋のグラタン、ボクスティ、他にも大皿の料理に、組合からの差し入れもあり、肉の塊までも並び。

「あんたたちの食事代は組合持ちだから、今日は遠慮なく飲んでね!」

豪華なのはそういうことらしい。

「フーン♪」

そして一番何もしていない狸擬きが、カパーカパーとここぞとばかりに酒を流し込んでいる。

どこぞの国の教員とやらは、組合長の家で世話になっているのだと。

あやつは。

「村には初めて来た人だよ。でも組合長とは知り合いみたいでね」

討伐された鳥は、あの教員の手で慎重に布に包まれた後、箱に仕舞われ組合で冷やされつつ保管されていると。

(意識を乗っ取る寄生虫の類いは、やはり寄生場所も頭になるのかの)

何の意識もせずに鳥たちに向かって投げたならば、フォークは鳥たちの頭を貫いた。

大きくない頭を細くないフォークが貫通すれば。

見事に頭皮の皮だけでぶら下がっていた。

それでも、あの教員はそうガッカリした顔も見せていなかった。

研究員のサガよりも、気狂い鳥を退治できた、村の脅威が去った安堵や喜びが勝っていたのであろうか。

男に切り分けて貰った肉を咀嚼しながら考える。

まぁそれに付いては後から、

「いえいえ、頭だけでなく毛の1本すらも貴重なサンプルになりますから」

と、やはり研究員らしい返事は貰えた。


翌日は朝から、飾り付けや屋台の準備が始まり。

暇人である我等も組合の方で、何でも屋となりお使いや屋台の設置の手伝いをしていると。

「あ、いたいた!」

茶屋の、髪がボサボサ弟が駆けてきた。

「組合の討伐を手伝ったって聞いたっ」

やっぱ凄かったんだなあんたらと、店を開き今は祭りの準備で忙しい姉の分も含め礼を言いに来たと。

義理堅いの。

我とは大違いである。

『自分達はほんの手伝いに過ぎない』

と謙遜する狼男に、

「かっけぇ……!」

尊敬の眼差しを向ける若者は。

木材を運ぶ男や我を見た後。

「な、あの茶色のまるっこいのは?」

キョロキョロしている。

「彼は散歩へ出ています」

男が答えると、

「えー自由だなぁ」

会いたかったらしい。

「な、うちの店にも後で来てくれよ」

姉ちゃんもお礼言いたがってるからさと忙しそうに帰って行き。

様子を窺いつつやってきた行商人たちが、賑やかな村の様子に、脅威は去ったと知るなり、

「近隣の街にも伝えて来る!」

と荷を卸せばとんぼ返り。

そのうち組合の外の広場で忙しく手伝う男たちを、我は危ないからと組合の椅子に座り、1人ぽつりと窓から眺めていたせいか。

組合の受付の、割りと年齢が高めの女がやって来ると、

「可愛い旅人さん、お使いを頼んでもいいかしら?」

そんな文字の書かれた紙を見せられた。

「?」

放牧場の方にいる妹にお昼ご飯を届けて欲しいと、我をご指名でのお使いの依頼。

村の敷地の中ならば、広くとも子供1人でも安全だからと。

退屈だろうと気を遣われた様子。

「の」

ならば有り難く依頼を受けようではないか。

「行ってくるの」

パンの詰まったカゴを受け取ると組合を出て、

「お使いへ行くの」

肩に木材を担いでいた男の元へ向かい告げれば。

「じゃあ俺も……」

木材を下ろしかけたけれど。

「兄さん、それはこっちに頼む!」

「う……っ」

どうにも大事な主戦力。

抜けるのは難しいであろう。

「我は大丈夫の」

伝えども。

「俺が大丈夫じゃない」

真顔で言うなの。

「今は、君のお供もいないだろう」

そうの。

「ならば、お迎えがてら少し歩いてくるの」

男の渋い顔。

(ぬぬん)

このままでは埒が明かぬため、そして、我は男の仕事の邪魔をすべきではなしのと手を振って歩き出せば。

男の溜め息だけが、後を追うように長くまとわり付いてきた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ