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43粒目

街で話題の“騎士様”が、我等の寝泊まりしている貸家を訪ねてきてくれた。

「のの?」

『“美味しいと喜んで頂けたので、取り急ぎのお礼です”』

と、たんまりと焼かれた、焼き菓子の入ったカゴを渡された。

「ぬー♪」

「フーン♪」

忙しくないならばと部屋へ誘えば、

『それでは、遠慮なくお邪魔させてもらいます。……人様の家。宿とは言え、不思議な感覚がありますね』

本当はもう少し早く到着する予定が。

『“街の皆様は、刺激が欲しいのか物珍しさか、仕事でもないのに、よく声を掛けられてびっくりします”』

足留めをくらっていたと。

「お主は人気者であるからの」

『“この見た目、敬遠されておかしくないのですが”……』

甲冑男は、少しばかりでなく、何か言い澱んでから。

「?」

『“こ、声が』

声が。

『私の声が、とても素敵だと褒められる事も多くありまして。……勿論嬉しいですし、声を授けてくれたあなたたちに感謝する気持ちばかりなのですが”』

あくまで“授かりものの声”であり、本来の自身のものでも、努力でもないため、褒められる度に、忍びない様な申し訳ない気持ちになると。

ほうほう。

謙虚な性格であるの。

ならば。

「ほれの」

やはり、鳥の嘴でも描いて試してみるべきであると、男と話していた事を話せば。

甲冑男は、

『……“ンッフッ!!”』

と盛大に吹き出し。

謎にツボに入ったらしく、身体を震わせつつ屈め、甲冑が軋む音がする。

一頻(ひとしき)り、何とも大変にいい声で笑ってから、

『この身体から、小鳥や弱き女性の声を漏らす事も出来たら、一芸として財をなせそうですが』

小さなあなたの身体をむやみに傷付けるわけにはいきませんと、男と似たような事を言う。

ふぬふぬ。

「あれの、お主は劇団やら活劇でも活躍出来そうの」

「あぁ、確かに、見映えもしそうだ」

男も頷き。

「役は限られるけれどの」

『“劇……”』

『とても迫力がありそうだな』

そう言う狼男も、大概に見映えしそうだけれどの。

甲冑男は、考える様に少し俯き。

『“……私には、この身体になっても、まだ出来ることは多くあるのですね”』

大きく息を吐いてから、仮面の顔を上げた。

寧ろ。

「増えたのではないかの」

『“その通りです”』

茶畑の話などを聞いていたら、再び客人。

「誰だ?」

男が立ち上がる。

千客万来であるのと思えば。

「おはようございます、今朝のご機嫌はいかがでしょうか」

今日も今日とて、優雅にその身を着飾っている洒落男がやってきた。

しかし。

用もなく我等の元へやってくる程、こやつは暇ではなかろうと思えば。

「えぇ、えぇ。宿に居てくれて僥倖でした。仕事のご依頼がありまして」

やはり手伝いをせよとの事。

洒落男にお熱な、あの娘のいる上客の屋敷に配達を頼みたいと。

「大物でして、お2人がかりで頼めたらと」

簡単なお使いの依頼。

ならば我は留守番で良いであろう。

さすれば、

『“でしたら、お2人が仕事を終えるまで、留守番役として居させて貰います”』

ちんまき幼女と獣1匹で留守番させるのはあまり歓迎しないと。

昨日、我をさらりと留守番させていた男が微かにぎくりと身を強張らせている。

男たちを見送ると、我は甲冑男に手伝ってもらい、土産の1つとして渡された木の実を炒って蜂蜜に漬けながら。

「の」

『“なんでしょう”』

「ただの好奇心であるけれどの。お主は、その自身の命を終わらせる方法を知っておるかの?」

蜂蜜に浸けられた木の実を、涎を垂らさん勢いで眺めていた狸擬きが、ぴくりと片耳だけを反応させる。

甲冑男も、その唐突な問い掛けに、戸惑いは見せるけれど。

『“そうですね……”』

我がじっと見上げているせいか。

『“試したことはありませんが、甲冑を外し、崖などの高い場所から落ちれば、骨はバラバラになって、再生はしないのではと思いますが……”』

考え考え、答えを口にしてくれる。

ふぬふぬ。

けれどそれでは、長い時間を掛けて骨同士が集まる可能性もある。

何なら、土の中でも、一度は肉と共に骨も消えたのかもしれない。

『“ははぁ、それはあり得ますね”』

我の問いの意図がただの与太話と察すれは、仮定の話は楽しいですと大きく頷き。

『“あなたは、そういった勉強や研究をなされているのですか?”』

我の勧めた椅子にゆっくりと腰を掛け、そう問われた。

「のの。先刻の前置き通り、ただの好奇心の」

かぶりを振ってから、我も椅子によじ登れば。

『“……では、好奇心に便乗させてください』

ぬん?

『あなたは、自身の消滅の方法をご存知なのですか?』

異形同士の会話もなかなかに楽しい。

こういった、とかく繊細な、“デリケート”な話題は、男も狼男も酷く悲しそうな顔をするから、あまり出来ないのである。

「そうの。最近も濁流に呑み込まれて半日程度流されていたけれども、この身には、擦り傷の1つも付かなかったからの」

我ながら頑丈である。

『“大変に丈夫なお身体なのですね”』

ううんと唸られた。

「ふぬ。ただ、お主も知っての通り、我だけは、我自身を傷付けることが出来るの」

『“……”』

甲冑男は、じっと黙った後。

『……では。あなたの死は、自害以外存在しないと?』

「今のところの」

『“……それは”』

残酷であり痛ましいと頭を垂れる。

「当分、死ぬ気はないからの。有り難いことの」

あの狼男とは濁流に呑み込まれたお陰で出会えたことや、人外ならば、最近は熊村長やリス、吸血鬼とも友人になれたと話せば。

『“いつか、その彼等を、あなたの友人を、私にも紹介して頂けませんか?”』

ウキウキと甲冑が揺れる。

「勿論良いの。吸血鬼なんかは、そのうち、ふらふらとこちらまで遊びに来るのではないかの」

吸血鬼宛の手紙に記しておこう。

(手紙)

先日、街でふわりと浮かんだ気掛かりを思い出した。

「の」

軽く椅子から跳ねた我に、

『“どうされました?”』

首を傾げる甲冑男。

「のん、託されていた手紙を放っておいてしまっているの」

うっかりしていた。

『“それはそれは”』

帰ったら男にも伝えなければ。

隣でおとなしい狸擬きも、からっきし忘れていたらしい。

食べ物の事でないから、こやつが忘れていてもなんの不思議もない。

今も欠伸をしている狸擬きに、役に立たぬのと溜め息を吐いて見せれば。

「フンッ?」

ぐりんとこちらに鼻先を向けてきた狸擬きが抗議を訴えてくる前に。

テーブルで甲冑の指を組んでいた甲冑男に。

『“純粋な好奇心ではありますが、失礼に当たったら謝ります』

そんな前置きをされ。

「ふぬ?」

なんのと促せば。

『“貴方の従者に当たるあの紳士は、ただの、人間の男に思えます』

ぬん。

「そうの」

『“なぜ、こう、……力のない人間を、従えているのかと……”』

ぬぬん。

『“勿論、あの彼が人間の殿方として、とても魅力的なのは、人でない自分でも解るのですが”』

ふぬぬ。

外に気を飛ばしてみれど、男も狼男も、しばらくは帰って来そうにない。

こやつになら伝えても構わぬであろう。

「我はの、他所(よそ)の世界から飛ばされてきた身であるの」

『“……”』

甲冑はびくりとも動かず。

『“……は?”』

充分な間を置いて、更に気の抜けた一文字を漏らされた。

「この世界に飛ばされてしばらく、旅を始めたばかりの頃の。この世界をよく知らぬ時に、あの男が好奇心で、我に声を掛けてくれたのの」

今思い返してみても、面倒を背負うお荷物でしかなかっただろうに。

相当なお人好しなのは知っているけれど、相当な変わり者でもある。

『“他所の、世界ですか……”』

甲冑男の思考は、まだそこで躓いている。

「存在するのの」

『“……それは、遠い土地とは違うのですか?”』

ぬぬん。

「空から飛ばされてきたと言えば早いかの」

天井を指差せば。

釣られてしばらく天井を見上げていた甲冑は、我に視線を戻すと。

無言のまま、ゆっくりと頷いてから、

『“とてもとても、色々と興味は尽きませんが”』

大きく両手を広げ。

『“ようこそ、この地へ”』

柔らかな美声で、歓迎してくれた。

(のの……)

『“あなたを歓迎する者は、私を初め、あなたが思っているより、きっと遥かに多いでしょう”』

そうであるかの。

「フーン」

それには同意ですと狸擬き。

「おやの」

きっと間抜け面を晒している我に、甲冑は小さく身体を揺らして笑うと、

『“私は、しばらくはこの地で茶葉を育て続けます”』

そうであるか。

『“当然、義務ではないのですが、当分はこの地から離れられないのは確かです”』

ふぬ。

『“なので、あなたがこの世界へ来てからの、旅のお話を聞かせて貰えませんか?”』

胸に手を当てて問われた。

「勿論よいの」

ただ。

「元いた世界の話ではないのの?」

『“そちらも、聞きたくて聞きたくてウズウズしていますが、それはまた後日に、じっくりと腰を据えて聞きたいのですよ”』

そんな大層な話でもないけれどの。

狸擬きも交え、道中の話を楽しく話していると、やがて2人が些か疲れた顔で帰って来た。

大方、お嬢様の相手でもさせられていたのであろう。

「その通りだよ」

男が真っ先に我を抱き上げて、ぎゅうと抱き締めてくる。

『土産を貰えた』

狼男が抱えているのは酒やら何やら。

甲冑男は、

『”大したおもてなしも出来ませんが、我が家にもまた遊びに来てください”』

と帰って行き。

そんな甲冑男は、街中でも多くの者に話し掛けられ、なかなか帰路に着くのは大変そうであるけれど。

我の頭に頬擦りし、さりげなくでもなく髪の匂いを嗅いでいた男は、

「珈琲でも淹れるのの」

の言葉に、やっと我を水場の踏み台に降ろした。

「お主等は珈琲と紅茶どっちがいいのの?」

『ええと紅茶を、ではなく、俺も手伝うぞ』

「フーン」

わたくしめはカフェオレを所望しますと狸擬き。

土産に持たされた甘い焼き菓子を齧りつつ。

届け先の賑やかな娘に、

「『あの御方に私を売り込んでくださいませ』と言われてしまった」

と困った顔で煙草に火を灯す男。

『人の一生は長いから、伴侶選びにも慎重になるのだな』

狼の世界は、ほぼ“フィーリング”だと。

単純明快が一番であるの。

「の」

そうである。

託された手紙をほっといたままであると男に伝えれば。

「あっ……!」

男も、椅子から飛び上がった。


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