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102/104

102粒目

現れたのは、小さな白兎。

『“あぁ、彼は、僕の友人です”』

なんと。

種族違えど仲良しであると。

白兎も、山の異変と友である白蛇を心配し、気配を追ってやってきた様子。

「フーン?」

『?……♪』

「フーン♪」

同じ4つ足同士か、白蛇と比べると白兎との会話は容易に成立した模様。

しかし、残念ながら白蛇とは違い、我は白兎との会話は難しいらしい。

顔を突き合わせて話す狸擬きと白兎を眺めていた白蛇は。

『“あなた様は、ああいった害虫を退治する事を生業(なりわい)となさっているのですか?”』

我に向き直ると、そんなことを問うてきた。

「のの、たまたまの。普段は行商人の男にくっついて旅をしているだけの」

我の返事に白蛇は、今度は少しばかり変な間を取った後(のち)。

『“……安心したと言ってしまったら、怒られるでしょうか”』

「?」

何故(なにゆえ)であるか。

『“あなた様が満足出来る報酬が、果たしてこの山にあるかと不安になっていたのです”』

目を半分程伏せるため。

「我は勝手にこのお山に立ち入って、勝手にあやつを殺生(せっしょう)しただけの」

仕事ならば、もっと慎重に、かつ幾つかの手順も踏んでいる。

我の返事に分かりやすく安堵(あんど)をする白蛇に、白兎が前足を軽く上げて地面を柔く叩く。

「??」

『それならお礼として、甘い果物が実る木の生えている場所まで案内しようと』

狸擬きが訳してくれる。

『山の奥で人も入らないとも』

のの。

「それは有り難いの」

昼間にでも案内をお願いしよう。

それと。

「の、我はあの芋虫の寝床に案内して欲しいのの」

濡れ髪の匂いを嗅げば、粘液が落ちたせいか、水だけでも臭いが落ちている。

白蛇と白兎が我の頼みに仲良く跳ね。

「なんの?」

『あまり勧められないと』

狸擬き。

「なぜの?」

『“最近は腐臭が漏れ始め、獣も寄り付かなくなっているのです”』

腐臭。

粘液の臭いで間違いないのであろうけれど。

(ふぬ)

「の、その寝床からは、黒い靄が漏れていたりはするのの?」

当てずっぽうで訊ねてみれど。

『“?”』

『?』

どちらもピンと来ていない表情。

当てずっぽうはハズレであるか。

「フーン」

ならば、気狂い鳥たちの方に近いかもしれませんと狸擬き。

寄生虫の可能性。

「そうの」

確かめるためにも行ってみたいとせがめば。

どうしてもと言うならばと白蛇が折れてくれたけれど。

夜目が利くと言え、昼間の方がいいでしょうからと、我等も一先ず男達の元へ帰ることにした。

びしょ濡れなままな、更にびしょ濡れなワンピースを着直した我は、狸擬きには乗らず走って山を抜ける。

「フーン」

狸擬きは背中が濡れる位構いませんと言ってはくれたけれど。

「気になることもあるから走るの」

我の代わりに蛇が狸擬きの背中に乗り、皆で走り出せば。

(まだ身体が軽いの)

普段よりだいぶ早く走れている。

山を駆けながらも、白蛇が気になったと言う気狂い鳥の話を、二度目は大きなフォークを投げて仕留めたと話せば。

『とてもエキサイティングなお話だと、兎もはしゃいでおります』

ぴょんこぴょんこと我等の隣を軽快に走るこの白兎は。

『元は人里で飼われていた両親から生まれたけれど、はしゃいだ折に柵からすり抜けてしまい、外の世界を知り、そのままこの山にまで来て、そのまま暮らしているそうです』

のの。

色々な意味で強い個体な模様。

我の駆け足では異例な程に早く麓手前まで辿り着けば。

『“では、また日が昇ってからお会いしましょう”』

狸擬きの背中からするりと地面に落ちる白蛇と白兎に見送られ、天幕の張られた男たちの元へ帰ると。

「遅い。……それに、どうして濡れている?」

すでに作り笑いすらしていない男が迎えてくれた。


天幕の外で腕組をしながら煙草を咥えていた男に、今もじっと山を見上げている狼男。

吸い殻を吸い殻入れに落とし、おもむろに我の前に屈み、きつめに眉を寄せてくる男に。

「非常に強力な粘液を頭からぶちまけられたのの」

嘘を吐く必要もなく正直に答えれば。

「……粘液?」

更に眉を寄せられ。

「の。でもほとんどはこのワンピースが粘液を被ってくれたから、身体は平気だったの」

両手でそれぞれのスカートの裾をぐいと持ち上げて見せれば。

「!?」

男の瞳が見開かれ。

「の?」

「下着はどうした!!」

男の大音量に、お山の鳥達が若干飛び立った。


「の?」

驚いたのはお山の鳥達だけでなく。

我等を遠巻きに窺っていた狸擬きと、お山を注視していた狼男。

狸擬きは全身を、狼男は尻尾をそれぞれ目一杯膨らませている。

(のの)

そうである。

「沢で脱いで、そのまま履き忘れたのの」

ドロワーズと共に草むらに放置されているはず。

わざとではない。

うっかりしていただけである。

ただ、それ以上我が口を開く前に。

額を押さえていた男は、

「とりあえず着替えが先だ」

我を天幕に放り込み。

荷台から取り出した布と寝巻きやら肌着などを、まとめて隙間から渡される。

「ぬぬん」

数枚渡された布で髪と身体を拭き、着替えたのと伝えれば、眉間に皺を寄せたままの男が入ってくると、我の髪を乾かしてくれる。

その間に、狼男が小鍋で牛の乳を温め、蜂蜜を垂らしたものを出してくれた。

「の♪」

温(ぬく)い。

「フーン♪」

温まりますと狸擬き。

「……それで、何があった」

あぐらをかいて煙草を咥える男に、お山での出来事を話し、明日も向かうと伝えれば。

「明日もか」

事後報告のためか、三度眉を寄せる男に、

『なら、明日は俺も行こう』

と狼男。

お目付け役であるか。

我は信用がない。

男がこの山の麓で1人になることに付いては、ここからお山の気配を探る限りは、好戦的かつむやみに人を襲うような獣はいなさそうだからと。

その狼男が言うには。

『ここからも、山で何か起きているとは感じていたけれど、大きな異変に気づいているのは、まだ極一部だ』

ふぬ。

『キミはとても静かに事を成すから、混乱も少ない』

褒められた。

「ぬん♪」

胸を張ってみせれど。

「……」

今は作り笑顔で醸(かも)す男の静かな怒気(どき)に、我も狼男も慌てて口を噤(つぐ)めば。

鼻の頭に牛の乳の膜を付けた狸擬きは珍しく、

「フゥン」

わたくしめは不甲斐ありませんとしょんぼりしている。

「フンフン」

害虫の気配に全く気づけなかったのは名折れであると。

「あれは、このお山で産まれ生きた化け物であるしの」

更に気配を殺すことに長(た)けていれば、初めてお山に入った我等が先手を取れるわけもなく。

『その、芋虫と呼ばれるものは、君を人の子と思ったのだろうか?』

男を気にしつつも、狼男が首を傾げ。

我も、男の大きな溜め息で発言の許可を得られたことを確認してから。

「どうであろうの。もしかしたら、風変わりな獲物が現れた程度やもしれぬの」

そして男からは。

我が積極的に面倒事に飛び込んだわけではなく、あくまでも、

「運悪く一方的に狙われた被害者」

であるため。

下着を履き忘れたことも含め、お小言は少なく済み。

ただ。

灯りを落とした天幕の中。

「俺が君を心配していたことだけは、覚えていて欲しい」

横になった布団の上で、胸に強めに抱かれ、低く囁かれれば。

「ぬ」

(ぬぅ……)

「……以後、気を付けるの」

殊勝に謝るしかないではないか。


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