前世、ぶいちゅうばあにつき。
「お弁当、持ってきたの。皆の分も作ってきた」
ピンクブロンドの髪を揺らしながら、ユミィがふんわりと笑った。
「本当ですの?」
「助かる、腹へっててさぁ」
アリシアとリカルドが、ユミィの手元をのぞきこんだ。
はらりと包みを開くと、たくさんのおむすびが燦然と姿を現した。
「お、おにぎりだわ!」
「すげぇ!」
歓喜の声をあげたアリシア達だったが、ある事に気づいて首を傾げた。
「これ、どうしたんですの?」
隣国から米が輸入されるようになったとはいえ、いまだ上流階級にしか流通していない。
ユミィのような平民が手に入れる事は、ほぼ不可能なはずであった。
「うちから、わけた……」
干からびたクラゲのようになっていたマーガレットが手を上げる。
ライル殿下が、ようやく自国に戻ったとの事だった。
帰り際に散々甘い言葉を囁かれ、そこでマーガレットは全てを使い果たしたらしい。
「おべんとう、つくってもらったから……」
ライル殿下が在国中、色々な意味でストレスを抱えたマーガレットは食事を取れなくなっていた。
次第にやつれていくマーガレットを見かねて、ユミィが差し入れがわりにお弁当を作って渡していたらしい。
派手さはないが、昔懐かしい雰囲気のお弁当は身体にも心にも染み渡った。
何かお礼を、との申し出にユミィが望んだのは「白い飯」であった。
「まぁるいのが梅干しで、三角のは昆布の佃煮」
「この黄色いのが入っているのは何ですの?」
「それは、がっこを刻んだやつをまぶしたの」
「がっこ……?」
どうやら漬け物の一種らしい、という事だけは理解できた。
「それと、とっておき!」
じじゃん、と口で言いながらユミィが出してきたのは、香ばしい香りのする焼きおにぎりであった。
「おおーっ!」
「味噌と醤油、両方あるの」
「素晴らしいですわ、ユミィ!」
オーディエンスの興奮は、最高潮に達しようとしていた。
「みそと、あと、うめぼしください……」
いまだに憔悴しているマーガレットも、食欲だけはどうにか復活してきたようである。
おむすびを頬張ると、はらりと米の粒がほどけ、口一杯に懐かしい味が広がった。
絶妙な握り加減である。
「美味しいですわ……」
「うまっ、おいし、うまっ……、げほっ」
「焦って食べるから。ほら、茶っこ飲め」
マーガレットの背をさするユミィを見ながら、リカルドは四個目のおむすびへ手を伸ばした。
ユミィといると縁側で日向ぼっこでもしているような、心地よい空気感に包まれる。
十六人の孫ひ孫に囲まれて、百一才での大往生だったと聞いてからはときめく事こそなくなったが、癒される存在であるのは間違いない。
ただ、普通の高校生だった自分と違い、百年以上生きた記憶に現世での言動が引きずられたりはしないものなのだろうか。
リカルドが疑問を口にすると、ユミィはうふふと愛らしく笑ってみせた。
「だって、私、ぶいちゅうばあだったし?」
「まじで?」
ユミィの話によると、孫達と一緒にゲーム配信などを行い、そこそこ人気のVtuberであったらしい。
「別のキャラクターになりきればいいだけの話でしょ。ろーるぷれい、ってやつ?」
時々、無意識に何か出ちゃうけど、とユミィは笑った。
なるほどなぁ、と頷いたリカルドは、ふとアリシアの方を振り返った。
「そういや、アリシアの前世って?」
アリシアは、うっすらと笑みを浮かべた。
背後に、何かが見えた気がした。
「世の中には、知らない方がいい事もありますのよ?」
「はい……」
触らぬ神に祟りなし。




