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婚約破棄と、それにまつわるあれこれ。  作者: たまご


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6/8

子爵令息の日常。

 子爵令息アレクは、この世界において一介のモブに過ぎなかった。


 実直なだけが取り柄の父親の跡を継ぎ、幼馴染みであり婚約者である男爵令嬢と結婚し、これといった事件も起きず、その生涯を終えるはずであった。


 あの婚約破棄未遂パーティーの日までは。




「若様、品種改良の経過報告がきております」


「分かった。あとで確認する」


「新しい肥料の事ですが」


「それは、彼女に一任してある」


「アレク、いいか?」


 父親である子爵から声をかけられ、アレクは書類から顔をあげた。


「父上、どうしました?」


「少し、休んだらどうかな? 母さんも心配していたよ」


「ですが……」


 反論しかけたが、アレクは思い直した。

 確かに、最近オーバーワーク気味だったのは間違いない。


「そうですね。少し、休みます」


 アレクの言葉を聞き、父親はほっとしたように笑った。


「あとで、母さんにも顔を見せてあげなさい」


「はい、分かりました」


 父親が部屋から出て行くと、アレクはぐぐっと伸びをして窓の外の景色を見た。


 以前はこじんまりとした庭だったのが、研究のための小屋や畑に変わり忙しく人が行き交っている。


 あの日、貴族平民問わず、多くの者が日本人であった前世を思い出した。


 隣国から米が輸入されるようになり、この国の食生活は大きく変わり始めていた。


 日本人としての記憶が、懐かしいあの味を求めるようになったのだ。


 そして、アレクの住む子爵領は、大豆の産地であった。

 そう、味噌や醤油の原材料である。


 アレクは農大卒である前世の知識をフルに活用し、土壌を改良し、新しい品種を作り出し、領民達に農業指導を行った。


 婚約者である男爵令嬢は、実家が農家だったという前世を持ち、全面的にアレクに協力してくれている。


 子爵領は日々発展をし続け、アレクは忙しい毎日を送っていた。


 まだまだやりたい事は、たくさんあった。


 豆腐や油揚げといった加工品も作りたいし、ゆくゆくは豆腐ハンバーグのような物を領地の名物にしたい。


 今はまだ米食は上流階級だけのものだが、いずれこの国の至る所に広がっていくだろう。


「頑張らないとな」


 そう呟くと、アレクは久しぶりに母親に顔を見せるべく部屋を出た。


 一介のモブに過ぎなかった子爵令息は、今や「知識チートで領地改革」の主人公にまでのぼりつめたのである。






 








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