第一章 4
敵兵「いたぞ!あの剣持ったボロのガキだ!」
「女じゃないならころせ!」
シンはシスターを探すため、走り続けていた。だが敵兵は容赦なく道を塞ぐ。
正面の曲がり角の先、瓦礫の影から二人の敵兵が姿を現した。
「っ……!」
息を整える暇すらない。それでも、シンの足は止まらなかった。走りながら、拾った二本の剣を同時に抜く。金属が擦れ合い、鋭い音が熱気を裂いた。
当然、迷いはもうない。
敵兵「死ね!」
敵兵二人が、剥き出しの殺意をぶつけながらシンへ突っ込んでくる。
シンはわずかに息を吸い、右手に構えていた剣を遅れて突進してくる方の兵へ向けて思い切り投げ放つ。
剣が風を切り、回転しながら飛ぶ。
――ドスッ!
先ほどと同じく、剣は敵兵の胸部に突き刺さった。
敵は目を見開き、刺さった箇所を押さえながらよろめき、その勢いのまま地面を転がる。
シン自身も驚いた。こんな状況だというのに、投擲の精度が異様に冴えているこに気づく。
――こんなに当たるものなんだ……自分でも君が悪いくらい
しかし疑問を感じている暇もないほど戦場は容赦ない。
「クソッ……!死んどけよ!」
敵が振り下ろしてきた縦斬り。
直線的すぎる軌道は、シンにとってとっさの判断でも十分に対応できるものだった。
水平に掲げた剣。だが力で止めるのではなく、寸前で“流す”。
柄を頭の左上へ、刃先を右下へ、
シンの剣は、一瞬で斜めに構えを変えた。
受けた敵の斬撃は、滑るようにして受け流された。
「なっ!」
シンは、その一瞬の隙を逃さない。
勢い余って前につんのめった敵兵。シンの視線は、その背中にぴたりと固定される。
そして次の瞬間、シンの身体は吸い寄せられるように動き出した。
軽いステップで地面を蹴り、滑るように敵の背後へ。体をひねりながら回り込み、倒れかけた敵兵と まったく同じ方向を向いて並ぶ体勢をつくり出した。
――ズバァッ!!
シンの放った一撃が、敵の背中を深々と斬り裂いた。
鮮血が吹き出し、敵は悲鳴すら上げられずそのまま膝から崩れ落ちる。
絶命の一撃、それは迷いを捨てたシンの覚悟そのものだった。だが、シンは止まらない。
剣を投げつけた方の敵が、胸を押さえて地面でもがいている。その姿を確認した瞬間、シンは一直線に駆けた。
倒れた敵の前に飛び込むみ、シンは迷いなく胸の剣を引き抜く。
――ズボッ!!
そのまま剣を握り直し喉元へ突き刺した。
――ドス!!
敵の喉から呻きが漏れ、すぐに静まった。シンは身体についた血を拭いながら、また全力で駆け出した。
――早く、急がないと!多分、敵同士で連絡が行き渡ってるんだ。絶対にまた邪魔をしにくる。
最初に殺した敵は"妊婦は使い物にも売り物にもならないから殺した"と言っていた。だったら他の女の人は殺されてない可能性が高い!ならシスターも生きてる!
敵兵「殺せ!ランドゥー隊長にすぐ報告しろ!」
またしても、二人の敵兵がシンの道を塞ぐ。
――クソ!まだいるのか……
「どけぇぇぇぇ!!」
シンは走る勢いそのまま、全身の力を剣へ込めて力任せの縦斬りを叩きつけた。
正面の敵兵は、慌てて剣を抜こうとしたが遅い。
ガキィンッ!!
シンの斬撃は、その中途半端な守りを砕き、刃はそのまま敵の肩口から胸へ深々と食い込んだ。
肉が裂け、鮮血が火花のように散る。敵兵は目を見開いたまま、抵抗する暇すらなく崩れ落ちた。
――急がないと、連れて行かれでもしたら探しようがない!
はやく!
はやく!!!
残されたもう一人の敵兵は、仲間が斬り伏せられるのを目の当たりにすると、悲鳴を上げるようにして一目散に逃げ出した。
逃げる敵をわざわざ追いかけている暇はない。そう、思った。思ったはずだった。
だが胸の奥で、何かが引っかかった。
――そういえば"隊長に報告"って……。まさか、その隊長のところに向かってる!?
シンは息を呑み、急激に進路を切り替えた。逃げる敵を絶対に見失わないよう追い続ける。
――追っていけば、もしかしたらそこにいるかもしれない!
しばらく追い続けた先、視界が一気に開けた。
そこは村の中心部。広い空間に、無惨な光景が広がっていた。逃げていた敵兵はさらに奥へ走り続けている。
そしてその行き先には7人ほどの兵士が集まっていた。その影は、まるで獲物を囲む獣のようだ。
――っ!あれは!
シンは目に飛び込んできた光景に、思わず足が止まった。広場の端の方に、巨大な鉄の檻が据えられている。
その中には、二十人ほどの若い女性たちが、押し込められるようにして詰め込まれていた。
混乱した表情、怯えた目、震える肩。状況を理解するだけで、胸が締めつけられる光景だった。
しかしその中に、シスターの姿はない。全身が硬直する。心臓が跳ね上がり、息が詰まる。
「隊長!あいつが、さっきから仲間を殺しまわっているガキです!」
?「おぉ?何だ、わざわざそっちから来たのか。ゆっくり晩飯でも食ってから探そうと思ったのによぉ」
敵兵たちが集まっているその一角、その中心にいた男が、ゆっくりと、しかし意気揚々と立ち上がった。
まるで自分の出番を待ち構えていたかのように、胸を張り、周囲の兵たちを見下ろすような態度で歩み出てくる。
「お前が、隊長か……」
「ご名答。俺がこの隊の隊長、ランドゥーだ。
お前、衛兵か?」
「……違う」
「あ?じゃあ治安局のやつか?」
「……違う」
「じゃあ何だ、ただの一般民か?うん?よく見りゃ思ったより子供だな……」
「黙れ、早く捕らえている人たちを解放しろ!あと、黒い修道服を着た金髪の女性はどこだ!?」
シンは捕らえた人たちの解放と、シスターの安否を問い立てる。
「まぁまぁ落ち着けよ。
まずは一旦……皆のもの!この勇敢な少年に拍手!」
すると突然、
――パチ、パチ、パチ、パチ、
ランドゥーの合図で、敵兵たちが、まるで舞台の開幕でも祝うかのように拍手をし始めた。それは喝采とも嘲笑ともつかない、不気味なほど堂々とした拍手だった。
シンには、その行動の意味がまったく理解できなかった。
「よくぞここまできたな、何人殺した?お?まぁいい、お前、俺のところに来ないか?」
理解を超えた怒りが、胸の奥で爆発するように湧き上がる。声を出そうとしても喉が固まり、シンは何ひとつ言葉を吐き出せなかった。
「聞けば予想できた。そして見て確信した!お前は俺の兵より強い!はっはっは!あーー、こんな子供に殺されるなんて、あいつらも弱ぇなぁ」
ランドゥーと言われる隊長は、高々と笑いっている。
「まぁお前の方がまだ役に立ちそうだ。ほら、こっちに来い。大丈夫だ、何もしねぇよ。お前を歓迎したいんだ。
俺の手下になる褒美として、捕らえた女、何人か抱かせてやるよ」
信じられない。そんな言葉では足りないほどの提案だった。シンは思わず拳を握りしめる。
血が滲みそうなほど、強く、強く。
「いいのが結構いたぞぉ?どうだ、胸のデカい奴がいいか?それともケツかお前は?好みの女を抱かせてやる。
それとも二人、三人同時か!?いやぁ、欲張りだねぇ!」
次々に吐かれる言葉は聞くに耐えない。シンの怒りはついに怒髪天を突き破り、抑えきれない叫びが喉から迸る。
「おい!!
……もう一度聞く。黒い修道服を着た金髪の女性はどこだ……」
「んーー、あーー……。黒い修道服……」
「隊長!あの黒い服着た金髪の胸とケツのでかい女ですよ」
「隊長がちょっと前楽しんだ女じゃないですか。」
その一言を聞いた瞬間、シンは完全に絶句した。
喉が固まり、声が出ない。
「あーあーあー!あの教会のシスターか!何だあいつお前の女だったのか!そーれは悪いことをしたな、すまないこの通りだ」
ランドゥーは、まるで誠意を示すかのように頭を下げた。謝罪の意、というやつなのだろう。
だがシンには、それがどうしても馬鹿にしているようにしか見えなかった。
シスターが傷つけられてしまった。その現実を、シンはどうしても受け入れることができなかった。
胸の奥で言い表しようのない上怒りが込み上げる。だがまだシスターが生きていることを願い、震える声で問いかける。
「その人は……今どこにいる!」
「あーそうだな。たしか……殺して燃やしちまったな。」
――……っ!
今なんて言った?殺して燃やした?シスターが?
「嘘だ……」
「すまん!燃やしたからどれがその女の遺体かもわからん!許せ。まぁいいじゃないか、燃やしてしまえば亡者にはなったりせん。ちゃんと人として死ねるんだ。俺様なりの配慮さ」
「嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!この、クソやろおおおおおおお!!」
シンの激しい慟哭が、響き渡っる。
シンは頭を抱え、悲鳴にも似た声をあげた。胸の奥から込み上げる叫びは止まらず、まるで血反吐を吐く勢いで何度も何度も声を絞り出す。
最愛の家族が、生きていると信じていた人が、陵辱され殺された。
もう話すこともできない。
もう二度と会えない。
あの優しい笑顔すら、永遠に戻らない。
その現実が、シンの心を容赦なく引き裂いた。気を抜けば、今にも狂ってしまいそうなほどに。
「うぁぁぁぁぁああ!……っ!
シンは、ランドゥーを鋭く睨みつけた。
その視線には、怒りと憎しみ、そして痛みが宿っていた。
「おいおい。そんなに怒るなよ、この村の女中でも一級品だったからつい我慢できずに手を出しちまった。でもよかったぜぇ?最初はめちゃくちゃ抵抗してたのに、最後らへんは快楽に顔を歪めてたぞ?」
その言葉を聞いた瞬間シンの身体は反射的に動いていた。気づけば剣を構え、そして次の瞬間には、ランドゥーへと斬りかかっていた。
「がぁぁああぁぁああ!」
「やっぱガキだな。賢くねぇ」
ところが、その瞬間だった。
ランドゥーが突如として片手を広げ、手のひらをシンに向けて構えた。
「……っ!?」
あまりに予想外の動きに、シンは一瞬だけ足が緩まる。まるで剣ではなく“素手”で迎え撃つつもりなのか?ランドゥーの意図が読めず、不気味さだけが胸に広がった。
「発火!」
突如、シンの目の前、ランドゥーの手元から炎が激しく燃え上がった。
「なっ!」
開かれた手から、炎が一気に放たれる。まるで空気そのものが燃えたかのように、周囲を熱が包んだ。
焼けつくような熱が一気に押し寄せ、シンは慌てて後方へ跳ねるように飛び退く。
――ま、魔法!?
「あっつ!!」
シンは後方へ飛び退いた勢いと、体を焼くような熱気に押され、そのまま 背中から地面へ倒れ込んだ。
「ぐぁっ!」
「ははは、何だ見たことねぇのか?これが俺様の魔術!
炎魔術さ。馬鹿正直に剣なんかで突っ込んできやがって。まぁ、俺様に斬りかかったからには容赦しねぇぞ」
――魔術!?まともに受けた。……熱い。少し火傷した。クソッ!何で俺は使えなくてこんなやつが使えるんだ……!
込み上げる怒り。噛みしめるほどの悔しさ。胸の奥に沈む絶望。
それにシンは押さえつけられていた。
「どうしたんだ?早く立てよ。それとも何か?ビビっちまったのか?」
「黙れぇ。お前だろ……村を燃やしたのは!」
「そうだ、最初は村を俺の隊の奴らで囲んだ。一人も逃げられねぇようにな。そして俺がちょちょっと火をつけてやったのさぁ。お前みたいに斬りかかってきた衛兵をみんな燃やしてやったよ」
「うぁぁぁ!!」
シンは――再び、ランドゥーへ斬りかかった
「ほんっとうに賢くねぇなぁ!発火!」
先ほどの炎がシンを襲う。
ランドゥーの炎がシンの体を容赦なく焼いた。肌が熱され、皮膚が裂け始める。
しかし、シンは一歩も引かなかった。
炎の中に身を投じ、ランドゥーの目の前まで迫った。
痛みは確かにある。だが、その何百倍もの“怒り”が、
彼の全感覚を塗りつぶしていた。
視界が揺らぐほどの熱を浴びているのに、シンの剣はランドゥーの胴体を斬りにかかる。
「ほう、なかなか胆力はあるんだな。まぁ怒りで感覚が鈍ってるってところか。でもまあ、やっぱり賢くねぇ」
振り上げられたシンの剣はランドゥーの胴体を捉えることはなかった。ランドゥーは予想していたかのように素早く剣を抜き、シンの腹目掛けて横に裂いた。
そのせいで、シンの動きが一瞬止まる。
「ぐっ!」
「あらよっと!」
ランドゥーが前蹴りを放つ。
「ぐぁ!!」
それはシンの体を捉え、後方へ飛ばした。
「度胸は認めてやるよ。ただ、まだまだケツがあおい。
勢いだけで俺の隊員は殺せたと思うが俺は無理だぞ。
いろんな修羅場を潜り抜けてきた。魔法も、剣も覚えた。強いんだ俺は」
地面に転がったまま、シンは歯を食いしばって身体を起こそうとした。
腕に力を込める。
脚に力を込める。
しかし……
「っ……く……!」
まるで自分の身体じゃない。火傷でただれた皮膚は触れるだけで激痛が走り、ランドゥーの蹴りで内側は骨まで軋むように痛む。そして、ここまで戦い続けてきた疲労が、
全身を鉛のように重くしていた。
指先すら思い通りに動かない。それでも、倒れたままでいるわけにはいかない。
シスターのために。
神父のために。
自分が守ると誓った村のために。
必死で、必死で、体を持ち上げようとする。だが、膝が震えて地面に崩れ落ちた。
「……っ、動け……! 頼むから……!」
悔しさと焦りが胸を焦がし、
けれど体は、それに応えてくれなかった。
「健気だねぇ……」
必死に起き上がろうとするシンを、
ランドゥーは冷ややかに見下ろしていた。
次の瞬間――
――ドカッ!
ランドゥーの足が容赦なく振り上げられた。
逃げる暇も、受け止める力もない。
シンの身体は、ただそこにある“的”にすぎなかった。
「っぐ……ああッ!!」
蹴りがシンの脇腹を的確に捉える。
鈍い衝撃が骨ごと軋ませ、肺の空気を強制的に吐き出させた。
シンの体は完全に浮き上がり、そのまま後方へと叩き飛ばされる。地面に転がり、土と血と煙の匂いが鼻を焼いた。視界が揺れる。世界が傾く。
立ち上がろうとする意志はあるのに、
身体はまるで言うことを聞かなかった。
「……まだ……まだだ……」
震える声で呟いても、
ランドゥーの影がゆっくりと迫ってくるだけだった。
「そうやって痛めつけた大体のやつは惨めに足掻く。」
するとランドゥーはシンの横に座り出した。
「いい機会だから死ぬ前に少し授業をしてやる。
よく聞け、この世界では所詮力が全てだ。
だから戦争も当然、人殺しも当然、略奪、陵辱、拉致、拷問、侵略……恨むならこの世界を恨め。
ユミルとか言う神様を恨め。
剣の使い方を見てわかった。まぁそれなりに努力はしてきたんだろう。でも努力しても所詮そんなものだ。
死んだら意味ねぇんだよ……!」
「黙れ……!戦争を……当然の出来事だと言うな……!
俺は……!戦争を……人同士が殺し合うのを……
止めたい!!!」
シンの目の端から、ぽたりと涙がこぼれ落ちた。
悔しさで。
無力さで。
それでも立ち向かいたいという想いで
「ヒャハハッ!あいつ泣き出したぜ!!」
「弱ぇくせに!やっぱランドゥー隊長には敵わねーな!」
後ろで見物している兵士の笑い声がシンの耳に響く。
「当然の出来事だ!!俺だって1番強いわけじゃない。俺より弱いやつはいるさ、しかしその一方で俺より強い年下の男もいれば老人!女!ましてや少女もいる!」
突然、ランドゥー荒々しく伸びてきた手が、シンの頭を鷲掴みにした。
「っ……!」
ランドゥーは、涙を浮かべるシンの顔を真正面から見下ろし、
冷たく、残忍な声音で吐き捨てた。
「戦争を止めたいみたいなことを言っていたが、どうするつもりだ?勝てるのか俺に!?俺より強いやつに!?
夢を見るのもほどほどにしておけ!この小童が!」
ランドゥーはシンの頭を掴んだまま、強引に投げ捨てる。空を滑る鈍い音とともに、シンの身体は数メートル先へ転がった。
砂埃が舞い、その中でシンの体は無様に転がり止まる。
そのままシンは指一本すら満足に動かせなかった。
痛みはもう限界を超えている。火傷の熱も、骨に響く衝撃も、すでに鈍く、遠い。胸の奥だけが、ひどく痛かった。力がない。守れない。届かない。
その“現実”が容赦なく突きつけられる。
「なんで……なんでみんな……こんなひどいことを平気でできるんだ!!!
あの人たちなら!!お前らなんか、一瞬で…………」
気づけば、声になっていた。
吐き出すつもりなどなかったはずの絶望が、
涙と共に漏れ出していた。
「なんで俺はこんなに弱いんだ!魔術も使えない!祈祷も使えない!もう剣でも戦えない!…………!
怖い!殺されるのが怖い!失うのが怖い!もう、
ひたすら怖いんだ!どうしようもできない!
何も守れない!得意げに特訓特訓って!
何にも意味ないじゃないか!
憧れて始めたただのお遊びだ!
あの人たちみたいになれない!
かっこよくなれない!
騎士になれない!
才能もない!
嫌だ……、
強くなりたい…………」
「俺もそんな時期があったな…………。
自分より強い女を見た。
俺の国じゃあ城のメイドだって魔術も祈祷も剣も扱える。
お前以上、はたまた俺以上にな。
絶望した。ただただ女に負けるのが嫌だった。
…………まぁこんな話してても無駄か。
俺はこの世界でとにかく得して生きるんだ。
すまんが、そのための犠牲だ、この村も!
あの女も!お前も!
戦いには付き合ってやる。
さぁ、かかってこいよ、お前みてぇなのは初めてだから一生の思い出に刻んでやるよ」
「負けない……負けたくない!!」
――動け!動け!動け!
神父様の仇を!シスターの仇を!
村の人たちの仇を!
俺が!倒すんだ……
涙と砂に濡れた頬を震わせながら、
シンはゆっくりと、ゆっくりと自分の身体を無理やり起こした。
「……っ、はぁ……っ……!」
腕が震える。
脚が言うことを聞かない。
それでも、シンは諦めなかった。
地面に転がっていた剣へ手を伸ばし、
血で滑る柄を強く握りしめる。握った瞬間、指先が裂け、また血がこぼれた。
剣は震え続け、まるで重りを十も二十もぶら下げたように重い。
「神父様……シスター……みんな……!」
震える身体を鼓舞するように、
自分自身へ言い聞かせるように、
シンは唇を噛みしめて立ち上がる。
限界を超えた身体が軋む音すら聞こえそうな中――
少年は、最後の力を振り絞った。
「があああああああああああああッ!!」
――お願いします!どうか!こいつを倒す力を!!!
叫びとともに、
渾身の力を込めてランドゥーへ斬りかかった。
足元はふらつき、剣は震えている。体力はわずか、冷静さも残っていない。
それでも、その一撃には――
“全部”が込められていた。
シスターのため。
神父のため。
村のため。
そして、もう二度と後悔しないために。
焼け焦げる空気を切り裂き、シンの刃は真っ直ぐに、ランドゥーへと迫った。
「残酷だよな、この世界は…………
発火!!




