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デウステラ  作者: 十座四季
第一章
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第一章 3


 シスターを探し求め、疾走していたシン。

店々や住宅が並ぶ道、そこに入ったその時だった。

 すぐ先の民家から、敵兵が二人、のんきに笑いながら出てきた。


 ――っ!あいつら……


 シンの胸に、怒りが一気に噴き上がる。

 敵兵の手には、金品の詰まった袋と、奪い取った食料が山ほど抱えられていたのだ。


「へっ、大量大量♩これで一月は遊んで暮らせるぜ!」


 「戦利品ゲットォ♩」

 

「でもお前やっぱひでぇな!あの女どう考えても妊婦だったろ。ぉお前、腹裂いて殺しちまうからよぉ!相変わらずおっそろしいぜぇ。」


「妊婦は使いモンに何ねぇだろうが!売りもんにもなんねぇし。まぁでもたとえ妊婦だろうが、この国の奴らは殺していいんだよ。まぁ子供の方は、この国の女に宿っちまったことを悔やむんだろうな。」


 あまりの下劣さに、目の前が真っ赤になったシンの堪忍袋は音を立てて切れた。


「止まれぇ!!」


 怒りに燃える表情、怒号が焼けた空気を裂いた。

 敵兵たちが仕方なく振り返る。


「あ?」

「生き残りかよ。男は全員片付けたと思ってたがな」

 

「おいガキィ!死にたくなきゃ金目のもん全部置いてけ!」


「……黙れ。お前たちに喋る権利なんかない」


 シンは怒りを押し殺すように、小さく息を吐いた。

 そして静かに剣を中段に構える。


「なんだぁ? その構え……ヒャハハハッ!」

 

「子供が剣振り回してんじゃねぇよ!」


 下卑た笑いが響く。


「黙れ、黙れぇ!!負けないっ……!お前らみたいなクソ野郎共に……!!」


「おー、そうかそうか……。わかった。じゃあ遠慮なくいかせてもらうわ、その代わり生捕りにして拷問してやるよ……」


 正面の兵が剣を抜いた。


「大丈夫でちゅか〜? ぼくちゃ〜ん?」


 その声を聞くだけで、耳が腐りそうだった。


「……くそっ……」


 シンの手は震えていた。

 初めて握る本物の剣。

 斬れば相手は死ぬ。斬られれば、自分が死ぬ。


 殺される恐怖、そして相手を殺してしまう恐怖――。


 ――怖い……

 ――いや、覚悟は決めたはずだ……

 ――殺すのか……?

 ――人を殺すのに賛成な人なんかいない、殺せば……報われるのだろうか……


 渦巻く思考が止まらない。

 だが、立ち止まっている暇はなかった。


「行くぞ、クソガキィ!!」


 敵が吠え、剣を振りかぶって突進してくる。


 その瞬間――。


 ――あれ……?

 なんだ、まったく怖くない……


「死ねぇぇぇ!」


 頭目掛け振り下ろされた剣。


 ――思ったより、遅い?こんなの……


 ギリギリでシンは剣を頭上に水平に滑り込ませ、十字に組むようにして受け止めていた。


「なっ……!」


 ――受け止めれた!……いやでもここからどうする!?

 ――早くしないと敵がまた斬りにくるぞ!……一旦距離を……!


 ――ドガッ!


 シンの渾身の前蹴りが敵兵の腹にめり込む。


「ぐっ……あああ!!」


 体勢を崩した敵兵。


 ――……っ!思っより聞いてる!斬るか!?……いや、最前は多分、攻め手を封じないと!

 

 シンはその隙を逃さず、相手の剣めがけて一撃叩き込む。


 ――ガキィィン!


 敵の剣が弾かれ、火花とともに飛んだ。


「ひ、ひぃぃっ!」


 シンは、胸の奥で荒い息を噛みしめながら思った。


 ――なんだ、……やっぱり落ち着くって大事なんだな


 尻餅をつき後ずさる敵兵。

 シンはその喉元へ剣先を突きつける。


「ヒィィィッ……!た、助けてください……お願いします……」


「っ……!そうやって命乞いした人を助けたのか!?」

 

 敵の血のついた剣を見ればすぐに分かった。


 シンの怒声に、敵兵は口を閉ざす。

 だがその手には、シンの死角で黒い球が握られていた。


 ――へへ、バカが……

 ――せいぜい、かっこつけてろ……


 その瞬間。


 ――ボカッ!!


「うあっ!?」


 シンは敵の顔面に蹴りを叩きこんだ。

 黒い球は宙に浮き、そのまま転がり落ちる。


――だめだ、顔を見てるだけで胸を掻きむしりたくなる……!怒りに任せて顔を蹴ったけど、なんか隠してたな


 シンは転がった球を拾い上げる。

 

それは持つと、シャリシャリと音がした。

「……砂?」


 そう呟いた時には、仲間の不意打ちが失敗したと、もう一人の兵士が焦って剣を振りかぶっていた。


 ――やっぱり……


 黒い球を敵めがけて投げつける。


「うわっ!」


 見事命中し、敵は目をかきむしり、怯んでいる。


 怒り狂った最初の敵がシンに掴みかかろうとするが、シンはすぐに気づき、再び顔面を蹴り抜いた。


 その一瞬の隙に、シンは落ちていた敵の剣を拾い、怯んだ敵へ向かって投げつけた。


 ――死なないでよっ……


 剣は唸りを上げて飛び……


「ぐっ……ああああ!!」


 敵の腹に突き刺さった。

 敵は尻から倒れ、もがき苦しんだ。


「はぁ、はぁ、はぁ、やっ……やった……!?」

 ――できた、毎日特訓しながらいろんなことを想像してやってたけど、案外できるのか……!?

 

 

 問わなければ。

 もう一人の兵ならまだ話ができそうだった。

 シンには、聞きたいことも、吐き出したい言葉も山ほどある。

 

「お前たち……!」


 シンは蹴り抜いた敵の胸ぐらを掴み、問いかける。


「女の人の亡骸を見なかったんだ。女の人を捕らえているのか?」


「さぁな……」

 

「お前たちの剣、血がついてた」

 

 「…………」

 

「一体何人殺したんだ!」

 

 「……へっ、殺してたらなんだよ……」

 

 さっきまで許せと懇願していた敵が開き直った。

「殺す?殺すだろ。」

「これは戦争なんだよ!何甘いこと言ってんだばーーかぁ!」

 

「お前っ!……いるかは知らないが、もし自分の奥さんや子供や、友達が殺されたり、酷いことされたらどうなんだ!」

 

「はぁー……そんなの、そいつは絶対許さないに決まってるだろ……」

 

シンには理解できない答えが返ってきた。

「っ!だったら……」


 その敵兵がシンの言葉を押し返す。

「これは個人の問題じゃない、国の問題なんだよ!さっきも言ったが戦争だ、こんなことが起こるのなんて日常茶飯事さこのあまちゃんが!」

 「お前の国の兵だって、俺らの国に侵攻してきた時、おんなじ事をやってるんだせぇ、へっへっへ……。恨むなら俺らの王様と、先に手を出したお前らの王様を恨むんだな!」

 

 シン自身、戦争は悪いと思っている。確かに、ほとんどの民は戦争は国の問題であって自分たちは関係ないというのが現実だった。

 でもことはそう単純ではない。


 「だからって……!戦う術を持っていない……、戦う気のない……、そんな人たちまで殺す必要があったのか!!!」


「あぁ、あったさ。そいつらを殺せば金品が手に入るかもしれない。女は剣を突き立てて脅せば、大人しくいうことを聞いたぜ……?」


「お前……、本気で言ってるのか?」


「本気さ。」


 会話を重ね、シンの中に積もっていた感情が堰を切ったようにあふれ出す。


「……戦争は国の問題かもしれない、でも!俺たちの問題じゃないって理由にはならない!」


 シンは胸ぐらを強く握り直し、重く、鋭く――言葉を叩きつけた。

 

「自分たちの都合のいいように解釈するな……!お前たちは逃げる人の背中を容赦なく斬り刻み、なす術なく、何もできない人たちを無情にもその手にかけ、財産にも手を伸ばした!」

「この鬼畜どもめ……!」 

「敵国なら何をしてもいいのか!確かに、俺たちの国にもお前たちのような下衆がいるかもしれない」

「でも、だから……戦争を無くさないと………」


 シンの目から涙が溢れ始めた。

 

「俺たちが、王も、騎士も、国民も、みんなで止めなきゃダメなんだ……」

「みんなで考えて、考えて……考えて!!答えを出さないと……」

「人同士が傷つけあって何になる、なんのために血を流す?みんな、人が敵なのか……」

 

――俺は……戦争はダメだと思っていた。

 だけどそれだけだ。何もしようとしていない、人に言いかけることもしなかった。

 

 ――なんの価値もない……ただ理想を思い描いていただけだ


――そうだ、俺の夢は…………騎士になって…………

 

       ――戦争をなくす

 

 ――もう誰も、苦しまず、血を流さず、悲しまないように…………!もう目を背けない、本気で考える……

 

「……へっ、なんだそりゃ……」

 大人しく聞いていた敵がいきなり話し出す。

 

「そんなこと言って生きてたら、お前、損するぜ?後悔するぜ…………?」

「お前、戦争がダメとか言っときながら、今俺たちをその戦争の根幹にある"武力"で抑えつけた!ケケッ!お前も一緒だ、俺たちと一緒だ!」

 

 シンの耳を下卑た笑いが突き抜けた。


「お前たちと一緒にするな、自業自得だろう!」

「俺は……、今は、この侵略を終わらせる……」


「なんだ?俺たちを殺してか?そんなんで平和がくるのかよ……、なぁ!この騎士気取りのクソガキが!!」

 

「俺は、戦争をなくすために剣を振るうって決めたんだ!だから、力で戦争を終わらせる!これ以上、誰も血を流さないように!」


 心の中で渦巻いていた想いが、いつのまにか言葉となって空間を揺らしていた。

 こんな極限の状況の中で――

シンの中に散らばっていた想いが、ゆっくりと形を整え、ひとつの“決意”へと結びついた。


「…………せいぜい夢をみてやがれ……!

   殺せよ……!さっさと殺せ!」


 シンは敵の首筋へ、そっと――しかし確かに刃を当てた。

 その瞬間、手が震えた。

 これまで感じたことのないほど激しく、止めようとしても止まらない震えだった。


――どうする……?殺さない……いや、それじゃこいつらの手にかけられた人たちは……!あぁくそ!何で俺はまた震えるんだ!くそ!くそ!くそ!


「……っ!あぁああ!」


 シンは震える手を必死に押さえつけながら――

 首筋に当てた刃を、一気に右へと引き抜いた。


「ごゔっ!ゔぉ、」

 

 刹那、空気が裂けるような音がして、敵兵の喉元から鮮血が噴き上がる。

 男は言葉を発する暇もなく、崩れ落ちるように地面へ倒れた。


「はぁ、はぁ、はぁ、」


 シンの身体から、汗がとめどなく流れ落ちていた。

 腕も足も震えている。それでも――彼は歩みを止めなかった。

 もがき、苦しみながら地面に倒れているもう一人の敵兵へと、ゆっくり、確実に歩み寄る。

 刃を握る手に力を込める。

 息を呑む間すら惜しいように、シンはそのまま剣先を構え、

   思い切り、腹へ突き刺した。


 肉を裂く鈍い抵抗と、骨に当たる感触。

 敵兵の悲鳴にも似ない声が漏れ、身体が大きく跳ねる。

 そして力が抜け、静かに沈んでいった。


 シンの思考は、そこでぷつりと途切れた。

 人を殺した。

 生まれて初めて、自分の手で命を奪ったのだ。

相手が下衆であろうと、どうしようもない悪人であろうと……その事実だけは覆らない。もう、後戻りはできない。

 胸の奥が冷え、足元が抜け落ちるような感覚に襲われる。

 わからない。

考えようとしても、頭の中で迷いばかりが渦巻くだけだった。


 ――覚悟は決めたはずだ……シスターを探さないと。

 そして、この村を襲った奴らを……全員――!


 武力を武力で止める。

 そんなもの、本来なら間違っているのかもしれない。

 迷いの渦の中で、シンはひとつだけ確かな答えを掴み取った。

 守りたいなら、戦うしかない。

 その考えを胸に刻みつけると同時に、シンは地面を蹴った。

 燃え残る瓦礫を越え、炎に包まれた道を抜ける。

 シスターを探すために、全力で駆け出した。

 後悔も恐怖も引きずったまま。

 それでも、前に進むしかないのだ。

 

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