第一章 8
「聖王は一体どこへ行かれた?」
「しらねぇ。どーせいつもの寄り道だろ。
大王から召集かかってるってのに、呑気な人だぜ!
あははははは!」
すぐ近くの森の中を、二人の男が並んで歩いていた。
一人は、誰が見ても分かる典型的な魔術師。
もう一人は、重厚な鎧に身を包んだ、見るからに屈強な騎士だった。
「ハン♩ハハン♩ハハン」
「……あなたはもっと騎士らしくできないのですか……」
しばらく森を進んでいると、
不意に、騎士のほうが足を止める。
「んお?」そして前方を見据え、
その視線の先に……主人の姿を見つけた。
「おっははは!ご主人だ!
おーーーい!ごっしゅじーーん!」
騎士は、まるで母を見つけた子供のように声を上げ、迷いなく崖を駆け下りた。
足場を気にも留めず、そのまま聖王のもとへと走り出す。
それを追うように、魔術師も崖から身を投げた。
空中で魔力を操ったのだろう、着地の瞬間、ふわりと軽い音が響く。
「やっと見つけたぜえー!
お?なんだこのガキンチョ」
「ご無事で何よりです。
何をなされていたのですか?」
聖王「ヴァルブレッド、ローリアン、よく来てくれた。
今保護したこの子を、アースヴァロンへ連れて帰ろうと思う」
「え!でもいいのか?国境沿いの特級ダンジョンの攻略目的で来たってのに……そのガキ、連れて帰っても。
ていうかなんでそんな話になったんだよ?
ご主人、またどーせ魔眼で覗き込んだんだろ?
俺らにも内容教えてくれよなー」
ローリアン「聖王。一体、どのような状況なのでしょうか?」
「……今は少し急ごう。一旦城へ戻る。
そこでトニトルス、フリンズ、ヨーリックも交えて話そう。」
「って言っても、まずそのガキが行きたいかどうかじゃね?クラトス人だろ?」
マリア「……つれて行ってください……。
どうか私を連れて行ってください!」
「……あ……なんかもう俺ら抜きで話がまとまってるそうだぜ?」
「はぁ……承知いたしました。では城へ急ぎましょう」
「では、行こうか」
いつの間にか、話はまとまったようだった。
聖王はマリアをセラフィオンの背に乗せ、自身もその後ろへと騎乗する。
そして、
暗い森の中へ……四人と一匹は、静かに歩みを進めていった。
「なぁ、お前名前は?」
「あ、マリアって言います……」
「そうかマリア!俺はヴァルブレッド!この世で一番強い騎士だ!よろしくな」
「ヴァルブレッド。あまり大きな声を出さぬように。
魔物が集まりますよ」
――拉致だのなんだの言われなければ良いのだが……
・同時刻・
――クラトス帝国、王都 へファス
一方その頃、クラトス王国の王都――王城の奥深く。
誰の目にも触れぬ地下の隠し通路の前で、二人の男が声を潜め、密談を交わしていた。
「本気なのか?下手すれば反逆者になるぞ!」
「大丈夫だ。どのみちこの国にはもう戻らん。
バカの下で英雄などと呼称されて働いていられるか」
「……行蓮、考え直さぬのか?
他国が受け入れてくれるかわからんぞ!」
「3日前に前王の倅が国王となったが、あれはたまらん。前よりも国がはちゃめちゃになるぞ。
わしが法の改定を提案したが、犬如きが自我を持つなと暴論を吐かれたわい」
「……それはそうだが、滝那へ戻るのか?」
「いや、皇天国へ亡命じゃ。
特に理由はない。
強いて言えば食い物が美味そうだからじゃ。
麻木郎、わかったらお前もさっさとこい!」
そう言って、行蓮と呼ばれる大男は、麻木郎の体を大胆に持ち上げ、そのまま無理やり連れて行こうとした。
「ちょ!おい行蓮!…………。」
先ほどまで必死に止めていた麻木郎だったが、やがて何かを悟ったように力を抜き、抵抗することはなかった。
「……あーもう良い!私はお前に一生を捧げたからな……。ついて行くからおろしてくれ!」
「おーー!さっすがわしの右腕!頼りにしているぞ!」
そう言って麻木郎を地面に降ろすと、
行蓮は満面の笑みを浮かべ、その背中を勢いよく叩いた。
かなり強烈な一撃だったのだろう。
麻木郎は思わず前につんのめり、体勢を崩した。
「っ!あー!相変わらずの馬鹿力!!」
そうして二人は、王城の奥から……
やがては王都の外壁へと続く地下道を、静かに歩いていった。
「皇天に着いたら、まずは女の店に行こう!
あそこの女はみな美女と聞く!あとあれじゃ!
豚の肉と玉ねぎを皮のような生地で包んで蒸した
食い物があると聞いてな、それがたいそう絶品だそうじゃ!
あぁ!それとそれと!
王族の姫君も見てみたいものじゃ!!」
――はぁ……なんでこんな呑気に亡命できるんだ……
・同時刻・
――レイム帝国、王都 エリュシア
「現在、他国の動きはどうなっていますか?」
レイム帝国……七つの国の中でも、二番目の強国と称される国。
その王城にて、国王フィリアノーズを中心とした、大規模な軍議が開かれていた。
「特に皇天、クラトス、滝那の動きが活発になってきています。我がレイムとも最近何度か戦争がありました。
中でも皇天の動きがかなり大胆です」
軍議を取り仕切る指令から、他国の動向が告げられる。
それを聞いたフィリアノーズは、首を傾げ、思案するような難しい表情を浮かべた。
だが、その反応を気にする様子もなく、
指令は淡々と次の報告へと進み、軍議を続けていく。
「皇天はいきなりレイムの国境を犯すばかりでなく、内地深くまで侵攻、はたまた領地を襲い、領主たちを磔にして放置するなど……。我がレイムに対する挑発とも取れる所業を犯しています」
しかし、フィリアノーズの思案はなおも続いていた。
――また何かよからぬことでも考えておられるのか……
一方その頃、軍議が行われている部屋の扉の前では、警備に立つ二人の兵が、玉座に座る自国の王の姿を横目に、ひそひそと何かを話していた。
「なぁ、あの王様本当に40超えてるのか?」
「確かに、どうみても見た目は10歳そこらだな。
でもいいじゃないか、あの方が王になってからこの国は舐められることがなくなって、国自体もここ数十年でかなり大きくなった」
「らしいけどな、でもあの歳であの見た目……
俺は好きかな」
「やめておけ……もし聞かれでもしたら極刑ものだぞ」
そんなしょうもないやり取りが続く傍ら、フィリアノーズが静かに口を開いた。
「……私たちもそろそろ動きましょう。
世を統制するには、まずあの国から沈めなければなりません」
・同時刻・
――皇天国、王都 龐耀
「国王様……」
七つの国の中で、最も広大な領土を誇る国……皇天国。
その地にもまた、不穏な空気が静かに漂っていた。
王城の奥深くにて、
大王・犀鄴と、総司令・蓮李恭が向かい合い、言葉を交わしていた。
「レイムからのその……提案、どいたしましょう?」
「……。あのババアの考えることはわからん。
またロクでもないとこを考えてはいるだろうが……」
「こちらとの戦争があった矢先、いきなり協定を申し込んでくるとは……それを押し除けてまでのことなのでしょうか?」
「ふむ……」
犀鄴は首を傾げ、不審そうな表情を浮かべた。
しばらく沈黙が流れたのち、彼はゆっくりと玉座から立ち上がる。
そして大きく一つ、ため息をつくと……
重い口を開き、語り始めた。
「李白と李翔を呼べ」
「はっ!……しかし何故……?」
「決まっているであろう。この大王、犀鄴がわざわざ、出向いてやろうということだ」
現在、世界は七つの国が互いに侵略と戦争を繰り返し、
領土、金品、技術などを奪い合う混沌の時代にあった。
その七国とは――
アースヴァロン王国、
レイム帝国、
クラトス帝国、
皇天国、
テスラトリス、
ゲルモニア王国、
滝那の国。
七つの国家は、終わりの見えない殺し合いの渦中にあり、
その先に何が待つのか――
もはや、誰にも分からなくなっていた。
これは――
その果てに何を見るのか、
何を求め、そして何を救おうとするのか。
そんな問いを抱きながら進んでいく、ひとり……
いや、皆の物語である。




