第四話
第四話
また新しい一週間がやってきて、そして去っていった。
次にやってきた日曜日は、今までと同じ日曜日ではなかった。
街中でサイレンの話題が語られるようになっていた。
理由はわからないが、サイレンが聞こえると主張する者と、サイレンなんて聞こえないという者が街には現れていた。
マキにはどんどん大きくなるサイレンの音が、いまはもう日中の昼間に聞こえるようになっていた。だが、アキにはサイレンの音はまったく聞こえないという。
「何も鳴ってないよ」
とアキはいつもの冷静さでマキにそう言った。
マキの心は穏やかではなかった。職場ではずいぶん前からサイレンが聞こえる、と言っていたサキの様子がどんどんおかしくなっていた。サキは今はもう、完全に恐怖に怯えるようになっていた。サキが言うには、サイレンの音は、もう耳をつんざくほどの大きさになっていると言う。マキにはまだ、かなり遠くで鳴っているように聞こえるのだけど。
テレビの中でも、ネットの世界でも、すでにサイレンの話題があふれかえるようになっていた。
サイレンが聞こえる専門家とサイレンが聞こえない専門家が対立し、サイレンが聞こえる政治家とサイレンが聞こえない政治家が対立した。科学者も、心理学者も、精神科医も、小説家も、文化人も、ジャーナリストも、老若男女あらゆる人々がサイレンが聞こえる者と聞こえない者に分かれて対立した。
ある者は、これは地球からの警告だ。と言った。
ある者は、これは集団幻聴だ。と言った。
ある者は、これは宇宙からのメッセージだと言った。
ある者は、これは未知の精神疾患だと言った。
ある者は、これは神からの警告だ。と言った。
ある者は、これは悪魔からの宣戦布告だ。と言った。
真相は誰にもわからない。あらゆる意見が、推測が、想定が、真偽不明の噂話が、テレビに街にネットに溢れかえった。
だが、だからこうしよう。という結論が出てくることはなかった。
ただ聞こえる者と聞こえない者の噛み合わない対立だけが、えんえんとどこまでも続くのだった。
そして、今日もマキの耳には、また大きくなったサイレンの音が響く。
そんな世の中になっても、月曜日はやってくる。
アキは仕事に行き、マキもまた職場に出勤した。
そしてマキは、園にサキが来なくなったことを知る。
「サキちゃんは退園しました」
そのことだけが職場の朝礼で告げられた。
「何か、私に問題があったのでしょうか?」
マキは上司にそう質問した。
「いえ、あなたは関係ありません。あの馬鹿げたサイレンみたいですよ。東の方に引っ越すとか」
小馬鹿にしたように、上司はそう言った。
マキの脳裏に、サイレンの音に怯えるようになっていたサキの姿が浮かぶ。サイレンは、確かに西の方角から聞こえる。だから、東に引っ越す。というのはマキには納得できる理由に思えた。だが、上司はサイレンが聞こえないという。だから、サキの両親の行動が酷く馬鹿げてみえるのも仕方がないのかもしれなかった。
この恐怖は、聞こえる者にしかわからない。
今はかなり近い距離で聞こえるようになったサイレンの音を聞きながら、マキは心の中でつぶやいた。




