第六話 借り物の剣
ルーベルへ戻った敬由は、百面鬼の鑑定を受けた。
しかしギルドの鑑定士にも、その能力の全容は分からなかった。分かったのは、装着者へ強く結びつき、敬由以外がつけても反応しないことだけ。
「ですが襲撃者はこの面を神器と呼んでいました」
エリシアは表情を強張らせボルガを見る。
「敬由、それはお前が持っていろ」
襲撃者が神器を狙っている以上、王都へ報告が届くまで百面鬼は敬由が管理することになった。
敬由は浮かれていた。
リネットの盾術だけではない。百面鬼は、一度見た動きを再現できた。
ボルガの槌術。エリシアの弓術。宿の料理人の包丁捌きまで。
ただし、何でも完璧にできるわけではない。
弓を引けば腕力が足りず、戦槌を振れば腰を痛めた。料理人の動きを真似ても、材料の知識がないため塩と砂糖を間違えた。
「最大でも八割ほどでしょう」
エリシアは訓練場で記録を取りながら言った。
「動作は正確です。しかし、体の動きが遅く感じられます。それに本人の経験に基づく判断までは再現できていません」
それでも敬由にとってはチート能力のように感じていた。
「八割って十分すごくないですか?」
「残り二割で死ぬのが実戦です。それに、あなたの体がついていけてません」
リネットが盾を構えた。
「もう一回。今度は本気で打つよ」
「え、さっきも本気じゃなかった?」
「三割」
「やっぱり女の子って怖い!」
敬由は百面鬼をつけ、リネットと同じ構えを取った。
打ち合いが始まる。
足運びも盾の角度も、ほとんど同じ。だが十合もせず、敬由は地面へ転がされた。
「何でだよ!」
「攻撃が来るたび半歩下がってる」
「避けるのは大事だろ?」
「私の盾は、後ろにいる人を守るための盾。下がったら、その人に攻撃が届く」
リネットは盾の縁を指で叩いた。
「構えだけは上手。でも、あんたは痛いと思った瞬間に逃げる。その半歩の後ろに誰がいるか、考えてない」
敬由は言い返せなかった。
数日後、ギルドに新しい依頼が入った。
旧街道の先にあるベルク村から連絡が途絶えた。遺跡の襲撃者たちが関係している可能性が高い。
三人は調査隊へ志願した。
「俺も行きます」
敬由が言うと、エリシアは即座に首を振った。
「駄目です」
「百面鬼があれば戦えます」
「それが理由なら、なおさらです。あなたは今、自分が何でもできると思っている」
「実際、三人の技を使える」
空気が変わった。
リネットの耳が伏せられ、ボルガが眉間へ皺を寄せる。
「俺たちの技を、だろうが」
「同じじゃないですか」
言った瞬間、間違えたと分かった。だが、引っ込みがつかなかった。
「俺が行けば戦力が増える。村の人を助けられる確率も上がる」
「今のお前は、助ける側じゃねえ。助けられる側だ」
ボルガの言葉に、敬由の胸が熱くなった。
「じゃあ、いつまで雑用やってろって言うんですか」
誰も答えなかった。
翌朝、敬由は一人で宿を抜け出した。




