第七話 八割
ベルク村は静まり返っていた。
家々の扉は開き、食卓には冷えた食事が残されている。争った跡はあるが、死体はない。
敬由は百面鬼をつけ、リネットの足運びで村を進んだ。
「見てろよ。俺だって……」
背後で小さな泣き声がした。
物置の床下に、見た目が十歳ほどの少年が隠れていた。
敬由は自身の興奮を抑えつつ話す。
「大丈夫。助けに来た」
「み、みんな、連れてかれた。黒い印の奴らに……」
襲撃者たちは村人を古い採石場へ連行したらしい。
敬由は少年を安全な場所へ隠し、自身は単独で採石場へ向かった。
「俺だって、やれる」
谷底には巨大な魔法陣が描かれ、村人たちが作業させられていた。遺跡から運び出した石材を並べさせられている。
黒印の男たちの中心に、灰色の外套を着た魔導師がいた。
黒印の男の一人がこちらに気づいた。
「面の所有者が自分から来たか」
敬由は短剣を抜いた。
「村の人を解放しろ」
「神器が命じたのか? それとも英雄気取りか?」
男たちが一斉に襲いかかる。
敬由はリネットの盾術で剣を逸らし、ボルガの足運びで間合いへ踏み込み、エリシアの魔力操作で短剣へ力を流した。
一人、二人と倒す。
できる。三人がいなくても戦える。
そう思ったとき、灰衣の魔導師が指を鳴らした。
地面の魔法陣から、石でできた巨人が立ち上がった。
「遺跡守護者を修復したものだ。お前の面がどこまで写せるか試してやろう」
巨人の拳が落ちる。
敬由はボルガの動きで戦槌を受けるつもりになり、短剣を構えた。
武器が違う。
「まずいっ」
気づいたときには遅かった。
拳が地面を砕き、衝撃で敬由は宙へ投げ出された。
呼吸ができない。肋骨が軋み、口の中に血の味が広がる。
倒れた敬由に目もくれず巨人が村人へ向かう。
敬由は立とうとした。脚が動かない。
頭の中にあるのは正しい動きばかりだった。だが、どれを選べばいいか分からない。
戦闘経験がない。判断がない。覚悟がない。
「残り二割で死ぬ……か」
灰衣の魔導師が面へ手を伸ばす。
その時、炎をまとった剣が、その腕を弾いた。
「うちの馬鹿に触るな!」
リネットが敬由の前へ立った。
水の矢が巨人の関節を撃ち、戦槌が膝を砕く。
エリシアとボルガもいた。
「.....みんな」
「遅いっすよ……」
「勝手に先に来た奴が言うな!」
ボルガの拳が敬由の頭へ落ちた。痛かったが、少しだけ安心した。




