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第三十五話 百面鬼と白蓮

 エリシアとフィアの二人が魔力の流れを探り杭の場所を特定する。


 六つの空間杭は、城壁、兵舎、広場、工房、鐘楼、地下路に配置されていた。


 合図は鐘楼の鐘。


 敬由は最も構造が複雑な水路を担当した。百面鬼をつけ、ボルガの槌術で杭を砕く予定だった。


「敬由、一人で大丈夫か」


 伊織が尋ねる。


「大丈夫じゃないですよ」


 敬由は正直に答えた。


「怖いし、失敗するかもしれない。でも俺の場所は俺がやります。伊織さんも、自分の場所をお願いしますよ」


 伊織は僅かに目を見開いた。


「成長したな」


「今頃気づいたんですか?」


「少しだけな」


 六人が各地点へ散る。


 伊織は鐘楼を鳴らし、さらに駆け上がり《風纏・天翔》で空中の杭を断つ。


 リネットは城壁で、避難する衛兵たちを守りながら杭を破壊した。


 エリシアは広場の噴水を利用し、水魔法で杭の魔力を洗い流す。


 ボルガは工房の炉を爆発させ、埋め込まれた杭を壁ごと砕いた。


 フィアは兵舎に隠された空間を見抜き、杭だけを収納空間へ落とした。


 敬由は地下水路で戦槌を構えた。


 だが鐘が鳴る直前、レオルが現れた。


「百面鬼を渡せ」


「断ったら?」


「お前の仲間から、お前に関する記憶を消す」


 黒い霧の中に、リネットたちの姿が浮かぶ。三人は敬由の名を呼べず、知らない男を見る目をしている。


 敬由の足が震えた。


 死ぬより怖い。


 仲間の中から、自分だけが消える。


「忘却こそ、人に訪れる二度目の死である」


 百面鬼の内側から声がした。


 その声は敬由の心に響く。


 敬由は戦槌を握り直す。


「だったら、何度でも覚えてもらう」


 鐘が鳴った。

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