第三十三話 偽りの証拠
レオルが指を鳴らすと、石像から黒い霧が噴き出した。
周囲を霧が包み込む。
伊織の頭から、敬由の顔が一瞬消える。
忘れている、いや忘れかけている。
「……誰を捜して、ここまで来た?」
問いかける自分の声で記憶を繋ぎ止める。
「イオリ!」
フィアが伊織の袖を掴んだ。
「私を見て。名前は?」
「フィア」
「あなたは?」
「阿部伊織」
「捜してた人は?」
「京野敬由」
言葉にするたび、少しずつ輪郭が戻る。
エリシアが精霊へ呼びかけ、水の膜で三人を包んだ。
「長くは保ちません」
レオルの背後に空間の裂け目が開き、黒印の兵士が現れる。
「行け」
レオルの声が不気味に響く。
伊織は雷と風で斬り込み、エリシアが援護する。だが霧の中では、敵と味方の位置が曖昧になる。
フィアが二人の間へ空間の線を結んだ。
「この線の先が味方。切らないで」
「私を子供扱いしているんですか?」
「さっきイオリの背中を射ちかけてた」
「霧のせいです」
言い争う二人に伊織は注意する。
「二人とも言い合いは後にしろ」
三人は黒印の兵士を倒していく。
視界が遮られ地下を支える支柱を砕く。
レオルは戦わず、別の空間扉へ退く。
去り際、レオルは煽るように言う。
「門は都市全体と繋がっている。ここを壊せば水路が崩れ、住民ごと沈む」
地下天井が軋む。
「フィア!」
「わかってる」
―――――
一方、地上では大規模な陥没が発生した。
リネットが落ちかけた馬車を盾の鎖で支える。だが足場が崩れ、本人も穴へ引きずられた。
「リネット!」
敬由が腕を掴む。
片腕では二人分の体重を支えられない。
そのとき空間が歪み、伊織たちが現れた。
フィアは連続して空間魔法を使用する。
リネットの身体が一瞬だけ軽くなり、地上へ転移する。
フィアは反動で膝をついた。
「どうして……」
リネットが呟く。
「助けるのに、理由がいる?」
フィアは息を切らしながら答えた。
リネットは何も言えなかった。




