第三十一話 六人の食卓
ギルドの会議室で、二組は情報を交換した。
フィアの記録には、アルノス地下に《忘却門》と呼ばれる遺物があると書かれていた。黒印の集団は住民の記憶を魔力へ変え、門を起動しようとしている。
「そんな話、魔族の作り話かもしれない」
リネットが言った。
「リネット」
エリシアが止めるが、フィアは正面から見返した。
「疑われるのは慣れてる。でも記録まで無視したら、この街の人が危ない」
それでもリネットは続ける。
「あなたの父親は魔王軍だったんでしょ」
「そうだよ」
「その軍に、私の村は焼かれた」
空気が重くなる。
でも、フィアは謝らなかった。
「私が謝っても、死んだ人は戻らない。私も、してないことまで謝りたくない」
リネットが立ち上がる。
伊織も腰を浮かせた。
「伊織さん、落ち着いて」
「お前は黙ってろ」
敬由の胸に、別の痛みが走った。
以前なら伊織は、自分より先に状況を判断してくれた。でも、今は目の前のフィアを守り、自分を遠ざけている。
伊織にもこの世界の仲間ができた。それは嬉しいはずなのに、置いていかれたように感じた。
バンッ!
ボルガが机を叩く。
「腹が減ってるから話がこじれる。飯にするぞ」
六人で囲んだ食卓は、恐ろしく静かだった。
敬由が場を和ませようと、百面鬼をつけて料理人の包丁捌きを披露する。見事に野菜を刻んだあと塩と砂糖を間違えた。
「変わってねえな」
伊織が呟く。
「褒めてます?」
「事実を言った」
フィアが料理を一口食べ、顔をしかめた。
「タカユキ、本当にすごい人?」
「会うまではそう思ってろと言っただろ」
その夜、城塞都市の鐘が鳴った。
地下水路から黒い霧が溢れ始めた。




