第二話 適正無し
森から半日ほど歩いた先に、石壁に囲まれた街があった。
レイグラン王国東部、街道都市ルーベル。
門を行き交う人々の中には、人族だけでなく獣の耳を持つ者、小柄でがっしりした者、長い耳を持つ者など様々な見た目の者がいる。敬由は首が痛くなるほど辺りを見回した。
「異世界だ……本物の異世界だ……」
「さっきから言ってる、そのイセカイって何?」
リネットが尋ねる。
「俺のいた世界とは違う世界です。つまり俺は、世界を越えてやってきた選ばれし――」
「何を言ってやがる?」
ボルガが言った。
「迷子だね」
リネットは呆れたように言う。
「壮大な迷子ですね」
エリシアが頷いた。
ボルガは辺りを見回す敬由の襟首を掴む。
「ギルドに向かう、逸れるなよ」
「着いて行くので離してもらえません?」
エリシアはその光景を見て飽きてたような顔をする。
冒険者ギルドは街の中央にあった。酒場と役所を足したような建物で、武装した者たちが依頼書の貼られた掲示板を囲んでいる。
三人は森で倒した角猪の討伐報告を済ませ、敬由も身元不明者として受付へ連れていかれた。
「えっと...」
受付係は困った顔をしたが、異邦人や記憶喪失者がまったく存在しないわけではないらしい。犯罪歴を確認する魔道具にも反応せず、仮身分証を発行してもらえることになった。
「それでは魔法適性も確認しましょう」
透明な水晶へ手を置くよう促される。
敬由は息を呑んだ。街へ向かう道中、ボルガに魔法の話を聞いていた。
火、水、風、雷、土、希少とされる光と闇、敬由は胸を躍らせていた。
「あるいは誰も知らない伝説の属性!」
水晶に触れる。
淡い光が灯り――すぐに消えた。
受付係が首を傾げ、別の水晶を持ってきた。もう一度。結果は同じだった。
「えっと.....魔力はあります。ですが、属性適性が確認できません」
敬由は鼓動が早くなるのを感じていた。
「それってつまり、全属性を超越した無属性の王みたいな!」
「いいえ。属性魔法を使用できないという意味です」
「えっ......」
敬由の中で、何かが音を立てて崩れた。
「ですが無属性魔法なら習得できますよ。身体強化、魔力感知、障壁、武器への魔力付与などです。ただ......戦闘で使える水準まで学ぶには時間が必要ですね」
敬由は床へ両手をついた。
「そんな....俺の...異世界無双が……」
「元いた世界では強かったの?」
リネットの素朴な質問が突き刺さる。
「……まあ、スコップなら一日振れます」
「十分すごいじゃない」
慰めに悪意がないぶん、余計につらかった。
宿代も食費も、この世界の金もない。ひとまず三人の雑用を手伝う代わりに、安宿の大部屋へ置いてもらうことになった。
リネットはCランク。エリシアとボルガはBランク。三人は固定パーティーではなく、古い街道の調査依頼のため一時的に組んでいたらしい。
その夜、敬由は藁を詰めた寝台で天井を見つめた。
選ばれた力はなかった。伊織もいない。
「伊織さんなら、俺と違ってすぐ活躍するんだろうな……」
枕元の窓から、二つの月が見えた。
異世界へ来た実感が、興奮ではなく孤独として初めて敬由を包んだ。




