第三話 役に立たない男の使い道
翌朝から、敬由は働いた。
ギルドの倉庫整理。角猪の素材運び。宿の薪割り。文字が読めないため受付業務はできないが、身体を使う仕事ならいくらでもあった。
「適正属性さえあれば」
敬由は悔しそうに呟く。
三日目、街の東門へ続く道が雨で陥没した。
荷馬車の車輪が穴にはまり、作業員たちが土を放り込んでいる。敬由はしばらく眺めたあと、思わず声を上げた。
「そこ埋めても、また沈また思いますよ」
現場を仕切る男に睨まれた。
「何だ、お前は」
それでも敬由は続ける。
「水の逃げ道がないんですよ。下がぬかるんでるから、上から土を入れても荷重で押し出されます。先に横へ排水を――」
作業員たちは一様に首を傾ける。
説明しても用語が通じない。敬由は借りたスコップで小さな溝を掘り、石を敷く位置を示した。
半信半疑だった作業員たちも、次第に水が溝へ流れ始めると態度を変えた。
ボルガは腕を組み、黙ってその様子を見ていた。
「お前、穴掘りじゃなく道を作る仕事をしてたのか」
「穴も掘りますけどね。側溝入れたり、擁壁作ったり、舗装したり」
「ヨウヘキ?」
「土が崩れないように支える壁です」
敬由は地面へ簡単な断面図を描いた。
ボルガの目が変わった。
「剣も振れん。属性もない。だが、どこへ水を逃がしゃ道が保つかは分かる。だったら十分、使い道はある」
「えっ....」
「……俺、役に立ちます?」
「今そう言っただろうが。忘れっぽい奴だな」
「よく言われます」
その日の夕方、ボルガは次の調査依頼に敬由を同行させると宣言した。
リネットは賛成したが、エリシアは眉を寄せた。
「街道周辺では魔物の活動が増えています。非戦闘員を連れていくべきではありません」
「崩落箇所がある。俺一人より、こいつがいた方が早い」
「危険になったら俺、真っ先に逃げますから!」
「胸を張って言うことではありません」
エリシアの冷たい視線に、敬由は背筋を伸ばした。
ボルガの説得によりエリシアは渋々同行を許可する。
「一つ条件があります」
「死にたくないなら、私の指示には必ず従ってください」
「はい、師匠!」
「師匠ではありません」
翌朝、四人はルーベルを出発した。
敬由に与えられた装備は短剣一本と、荷物の詰まった大きな背嚢。
夢見た冒険者の姿とはだいぶ違った。それでも街の門をくぐる足は、昨日までより少しだけ軽かった。




