第二十三話 選ぶ未来
ヴァレスの持っていた黒い箱には、侵攻計画の写しが収められていた。
レイグラン王国東部の遺跡。神器《百面鬼》。黒印を使う現地協力者。そして、数か月後に予定される複数都市への襲撃。
伊織は負傷した兵士たちを殺さず、武器を奪って拘束した。
目を覚ましたヴァレスが、フィアを見る。
「なぜ止めを刺さない」
「.....お父さんなら、そうしたと思うから」
「父親の真似か」
「違う。私が選んだ」
フィアは黒い箱を抱えた。
「魔族が間違ってるんじゃない。六種族が正しいわけでもない。だから私は、種族じゃなく自分で決める」
ヴァレスは目を伏せた。
「セイン殿も、同じことを言っていた」
彼がフィアの父を裏切った理由は、上層部に家族を人質に取られたためだった。命令へ従えば救うと約束され、それでも家族は既に処刑されていた。
「許してくれとは言わん」
「許さない。でも、死んで逃げるのも許さない」
フィアはヴァレスをカナリスのギルドへ引き渡した。彼の証言によって、侵攻計画の信憑性が認められた。
情報は自由都市連盟から各国へ送られることになった。
伊織はギルドの治療室で、右脚を固定されていた。
「《迅雷》は当分禁止」
フィアが腕を組む。
「医者か、お前は」
「相棒」
さらりと言われ、伊織は黙った。
「嫌?」
「別に」
「じゃあ決まり」
フィアの表情に、追われていた少女の怯えはもうなかった。




