第十九話 父の手紙
カナリスへ戻った二人は、フィアの父が使ったという商会を探した。
手がかりは古い銀貨一枚。縁に小さな空間座標が刻まれている。
フィアが魔力を流すと、銀貨の内側から声が聞こえた。
『フィア。これを聞いているなら、私はもういないだろう』
父の声だった。
フィアの指が震える。
『私が残す記録は、魔王軍東征部隊の進路、協力者、そして神器《百面鬼》の回収命令に関するものだ。これを六種族側へ届けてほしい』
百面鬼。
伊織はその名を覚えた。
『だが、命令ではない。お前は私の罪を背負う必要はない。生きて、自分で選べ』
声が途切れた。
「ずるいよ」
フィアが呟く。
「最後に選べって言われたら、やるしかないじゃん」
伊織は慰めの言葉を探さなかった。ただ隣に立った。
銀貨が示した保管庫は、商業区地下の貸金庫だった。
地下についた伊織たちが目にしたのは内部が既に荒らされている光景だった。残っていたのは、半分焼けた地図と黒い羽根だけ。
「一足遅かったか」
伊織は呟く。
「魔王軍の暗号羽根」
フィアが拾い上げた瞬間、羽根が燃えた。
空間が閉ざされる。
壁をすり抜け、黒鎧の兵士たちが現れた。先頭に立つのは、顔へ古い傷を持つ魔族の男。
「久しぶりだな、フィア」
「ヴァレス……」
ヴァレス・ギド。フィアの父の副官だった男。
「記録は私が預かっている。欲しければ、三日後に灰風峡谷へ来い。一人でだ」
「罠だよね」
フィアは自分が捕えられると分かりながらも聞く。
「当然だ。それでも来るだろう?」
ヴァレスの視線が伊織へ移る。
「六種族の男に守られるとは、セイン殿も浮かばれない」
伊織が白蓮へ手をかける。
故人の名を使いフィアの心を惑わす魔族に苛立ちをあらわにする。
「次に父親の名を使って挑発したら斬る」
「今はやめて、イオリ」
フィアが腕を掴んだ。その腕は震えていた。
ヴァレスたちは空間の裂け目へ消えた。




