第二十話 守るという病
「一人で行く」
宿へ戻ったフィアが言った。
「駄目だ」
「私を捕まえるための罠だよ。イオリが来る必要ない」
「お前一人では何もできない」
「分かってる。それでも記録を取らなきゃ」
フィアの声は震えていた。
「なら俺も行く」
「どうして!」
フィアが声を荒らげた。
「イオリはタカユキを捜さなきゃいけない。私のために死んだら、その人はどうするの?」
伊織は答えられなかった。
正論だった。
敬由を捜すために生きる。フィアの事情へ深入りする必要はない。危険から遠ざけ、安全な場所へ送り届ければいい。
「私はお父さんみたいに、誰かを巻き込んで死なせたくない」
でも、放っておかなかった。一人の少女が覚悟を決めている。
「お前の父親は、巻き込まないため一人で死んだのか」
「そうだよ」
伊織はどこか自分の過去に重ねていた。
「残されたお前が苦しんでいても、それが正しかったと言えるか?」
フィアの頬が強張る。
言い過ぎたと思った。だが取り消せなかった。
「イオリだって同じでしょ」
「何がだ」
「危ないことは全部一人でやる。私に下がれって言う。自分が傷つけばいいと思ってる!」
「お前を巻き込まないためだ」
「それは優しさじゃない。残される側が怖いって、分かろうとしてないだけ」
フィアは部屋を出ていった。
伊織は一人で椅子へ座った。
敬由の腕を掴んだ瞬間を思い出す。守れなかった。だから次は失敗しない。誰も近づけなければ、自分の判断だけで守れる。
ガランの言葉が蘇る。
『強い剣を持たせりゃ、もっと一人で行くだけだ』
白蓮を見つめた。
刀身へ流した三つの属性が互いに反発し、消えた。




