第十七話 白き蓮
「売り物なのか?」
伊織が尋ねると、ガランは笑った。
「国が三つ買える値を出せるならな」
「そんなに金は持ってない」
白蓮は、歴代最高の名工と呼ばれたドワーフが生涯の最後に鍛えた刀だった。複数属性を反発させず、損失なく伝える。
ガランは続ける。
「だが白蓮が力をくれるわけじゃねえ。持ち主の下手さまで正直に通す。三属性持ちだから使えると思うな」
伊織が柄へ触れると、白銀の波紋が青、紫、緑へ移ろった。
氷、雷、風。
ガランの目が細くなる。白蓮が伊織に反応したのを確認した。
「三属性をこの刀に流す奴初めて見た。.....だからこそ渡せねえ」
「理由を聞いても?」
「今のお前は、斬ることしか考えてねえ」
伊織は黙った。心を見透かされた気分だった。
「剣が折れるまで一人で前へ出た。嬢ちゃんの足がふらついてるのにも気づかなかった。強い剣を持たせりゃ、もっと一人で行くだけだ」
ガランは伊織の後ろにいる少女を見る。
「フィアは関係ない」
「そう言う奴にゃ、なおさら渡せん」
工房を出たあと、フィアが頬を膨らませた。
「私のせいで断られた」
「違う」
「じゃあ明日、私がいないところでもう一回頼んでみれば?」
「必要ない。他を探す」
だが白蓮以外に、三属性へ耐えられる刀はなかった。
その夜、町の鉱山で落盤事故が起きた。伊織には転移前の敬由が脳裏に映る。
冒険者たちが救助へ向かう。伊織も折れた剣を置き、作業員から鶴嘴を借りた。
「武器はもっていかないの?」
「戦いに行くんじゃない」
地中では魔力を帯びた岩盤が崩れ続けていた。伊織は風で粉塵を払い、氷で亀裂を固定し、雷を細く流して生存者を探した。
フィアは狭い隙間へ収納空間を開き、瓦礫を少しずつ取り除く。
二人で七人を救出した。
最後の一人を背負って戻ると、入口にガランが立っていた。
「白蓮は、斬るためだけに鍛えた刀じゃねえ」
ガランは鞘ごと伊織へ差し出す。
ガランは元々、白蓮を渡すつもりでいた、だが伊織の本質を確認したかった。
「今のお前なら大丈夫だろう」
「持っていけ。代金は、お前の生き方で払え」
伊織が白蓮を受け取る。
その刀身へ氷を流すと、白い冷気が蓮の花のように広がった。




