第十五話 角を隠す街
自由都市カナリスは、高い城壁ではなく無数の商館に囲まれていた。
様々な種族の商人、冒険者、傭兵が行き交い、金さえ払えば大抵のものが手に入る。
ただし、魔族だけは別だった。
門の手前でフィアは角へ布を巻き、フードを深く被った。
「怪我を隠すみたいだな」
「見つかったら本当に怪我するから」
数年前、この街も魔族部隊の襲撃を受けていた。魔族を見れば衛兵へ突き出す者も、報奨金目当てで殺す者もいる。
伊織は反論しなかった。
街へ入ると伊織は冒険者ギルドを目指した。
冒険者ギルドでは人探しもしていると商人に聞いたからだ。
「ここか」
ギルドについた伊織は敬由の情報を探した。黒髪の異邦人、奇妙な作業着。該当者はいない。
代わりに、伊織の三属性が知られていた。ここに着くまで一緒にいた商人が言いふらしたのだろう。
「俺たちとパーティーを組まないか」
「うちの傭兵団なら幹部待遇だ」
「俺なら領主様への紹介状も書ける」
勧誘を断り続ける伊織に、フィアが呆れる。
「少しくらい利用すればいいのに」
「借りを作る方が面倒だ」
「本当に面倒くさい人」
二人は安宿へ入ったが、一部屋しか空いていなかった。
「俺は廊下で寝る」
「どうして?」
「私が魔族だから?」
「お前が十七歳の子供だからだ」
フィアは数秒考え、悪戯っぽく笑った。
「イオリ、もしかして女の子が苦手?」
「京野と一緒にするな」
「タカユキも苦手なんだ」
「今のは忘れろ」
夜更け、廊下で眠る伊織は物音に目を開けた。
部屋の中で、フィアがうなされている。
「お父さん……逃げて……」
その言葉を聞いた伊織は扉の前に座ったまま、朝まで動かなかった。




