天才と孤独
「それでは2戦目終了です。模擬戦場の外へ出てください」
大林のアナウンスで4人は外へ出る。
「水、水!!」
三浦は水を探して駆けていく。
「模擬戦2戦目お疲れ様でした。もう1戦の方は即時終了してますので少し差はありますが1度休憩になります。怪我のある方は医務室で花澤先生の処置を受けてください。1時間後に最終模擬戦となります。」
「ああ…2回とも負けた…もう失格になるのかな…」
柿沼がうなだれながら外へ向かう。
武尊は藤丸に問う。
「どうしますか?」
「まあ怪我って怪我はないからね、いいかな僕は」
「じゃあ俺もいいや」
「そっか、じゃあ軽くミーティングしようか」
「うっす」
武尊と藤丸は休憩室で作戦会議を開始した。
「次はいよいよ久瀬くんのペアだね。久瀬くんの能力は君も痛感している通り、多分恐怖に依存するタイプだ。正直あれはかなり厄介だ。発動されたら動けなくなってあっという間にやられる。実際2戦とも一瞬で終わってるし。」
「久瀬…!」
武尊はあの恐怖を思い出し、拳を握る。
「だからまずは森田くんを取る。申し訳ないけど森田くんの能力は能力測定の時に見たけど、確か犬を顕現するって能力で、多分ノーマークで大丈夫だ。さっきの僕らみたいに久瀬くんがストラップ2つ持ってたりしたら大変だけど、あの2人が連携取るとは思えない。キャラクター的に。」
「たしかに…」
「だからまずは森田くんのストラップを取って久瀬くんを あとが無い状態にする。まあ、もう2戦とも取ってるからそれで焦ってくれるかは分からないけど。」
「ああ…余裕ってことっすね…久瀬はどうします?」
「能力自体は脅威だけど、前回の能力測定の時は発動まで少しだけ時間があった。ほんの数秒だけど。あと久瀬くんの能力はタッグ戦には不向きだと思う。恐怖依存なら、味方ごと巻き込む危険があるから、きっと単独で行動するだろう。そこがこういうタッグバトルでは付け入る隙になる。そこが唯一の勝ち筋かな。森田くんを先に落として、発動される前に叩く。作戦と呼ぶにはあまりに稚拙だが、それしかないと思う。」
「森田を落として、ちょっぱやで久瀬ってことっすね」
「ちょっぱや…まあ要約するとそうなるね」
「じゃあそれで!藤丸さんの作戦今んとこ当たってるし」
「ギリギリだけどね…」
「俺も能力もっと使えるようにならないと…ちょっと外で軽く試してきますわ」
「お、いいね、それじゃまたあとで。」
「うっす!」
武尊は外のベンチに腰掛け、石を触っている。
「生命判断!」
石は力なくフワフワと浮いている。するとすぐに落ちた。
「うーん…なんだろうな…」
「武尊ー!」
真樹の声が聞こえた。
「お、真樹」
「休憩?」
「そう」
「わたしも」
「どう?そっち」
「うん、まあまあかな、やった事ないことやってる感じ」
「俺もだよ」
武尊は石を浮かせた。
「うわ!すごい!」
「でもすぐ落ちちまう」
カランと石が落ちた。
「ふぅん…どうやって浮かしてるの?」
「どうやってって、こう石が浮くイメージして」
「石って本来浮かないじゃん?イメージっていうよりそれって想像でしょ?」
「ん?」
「わたしの能力もそうなんだけど、イメージにないものには変えられないのね?あと、曖昧なものってイメージしづらくて。石って転がるとか、割れるとか、積み上げるとか。そういうイメージが大事なんじゃない?」
「イメージ…なるほど」
「まあ分かんないけど、わたしはそんな感じ」
「あれ、宮國さん!」
向こうから藤丸が歩いてきた。
「藤丸さん、こんにちは!」
そう言いながら真樹は飲み終わった空き缶を紙に変化させ、クシャッと丸めてポケットに押し込んだ。
「?!」
藤丸が驚いた顔で真樹を見ている。
「どうしました?藤丸さん」
武尊が藤丸に問いかけた。
「い、いや、さっきの作戦の件で」
「じゃあ私戻るね、がんばって!」
真樹は立ち上がり戻って行った。
「おう、お前もな、で、作戦の件?」
「ああ、ちょっと詰めようと思って。それより宮國さんの能力って、紙を木に変える、もしくは木を紙にっていう相互変換じゃなかったの?」
「真樹っすか?いや、他のものも出来たはずですけど、なんでですか?」
「ううん、幅広くて便利そうだなって」
「便利じゃなくて悪かったっすね」
武尊はいじけたように言う。
「汲み取りすぎだよ、人のこと言えないし僕も。それで作戦の件だけど…」
「それでは本日最後の模擬戦をはじめます。両者所定の位置へ。」
大林の呼びかけで武尊と藤丸が準備につく。
「まずは森田を探すところからっすね」
「そうだね、さっき言った通り森田くんを『隠し通す』っていう戦術にされた場合、僕らの作戦は全く意味をなさなくなる。久瀬くんが出てきて能力発動して捕まってはい、終了が一番情けないからね。」
「っすね、んじゃさっき言ってた一旦久瀬はシカト作戦で」
「うん、常に2対1の構図で戦えるようにしよう。森田くんを探して連絡取り合おう」
「うっす!」
大林のアナウンスが入る。
「では最終戦を始めます。お疲れかと思いますが最後頑張ってください。それでは、はじめ!」
武尊が飛び出す。
「っしゃ、まず森田を探し…!」
「!?」
飛び出した少し先にいたのは森田だった。
「あれ?!藤丸さん?!」
「どういうことだろうね…見たところストラップもちゃんと持ってるみたいだし」
「まあでも出てきてくれたなら手間省けていいっすよね」
「きな臭いけどね」
「取ってきます!」
森田が言う。
「やっぱり全然ダメだ、最初から相手にされてない。頑張ってライセンス取って、金さんに認めてもらわなきゃ」
「なんか1人で喋ってんな…こーわ…」
武尊は森田に向かいながら言う。そのまま武尊は攻撃体制に入った。
「悪りいけどもらうぜ!ヒューマロック!」
石が積み上がり、人の形を成した。
「イメージ…人の形、人の動きのイメージ…!」
人の形をした石の集合体が森田へ駆け出した。
「うわぁ!」
「っしゃあ!出来た!いけ!」
森田がよろける。石の人形が森田のストラップへ手を伸ばしたが辛うじて森田がかわした。
「ケンケン…お願い…!!」
森田はバタバタと逃げ回りながら言った。石の人形は相変わらず森田を追いかける。
「うわっ!」
森田がつまづいたところに人形の手が伸びる。
「っし!もらった!」
その瞬間、石の人形がガラガラと崩れた。
「?!ダメだったか…!?」
砂煙が晴れると、森田の周りを黒い影が飛び回っている。墨のようなものを撒き散らしながら飛んでいるそれは、鳥のようだった。
「なんだありゃ?!」
「ケンケンです…友達の…!」
膝に手をついて肩で息をしながら森田が答えた。
「あれ?!鳥!?犬って話は!?」
「いますよ…!」
森田の足元からこちらも水墨画のような犬が姿を表した。と同時に、森田の腕には水墨画のような猿が掴まっているのが見える。
「おいおい…聞いてた話とずいぶん違うなあ…!」
焦ったような声を漏らした武尊に森田が答える。
「嘘はついてませんよ、能力測定の時はポチ以外を『呼んでいなかった』だけです。」
「藤丸さん!」
武尊の呼びかけに藤丸も飛び出してくる。
「藤丸さん、なんか全然思ってたのと違うんすけど」
「僕も驚いてるよ、2対1の構図かと思ったら2対4になっちゃったね」
森田が言う。
「僕は助けられてただけなので、3対2ですよ。ケンケン!」
森田の呼び掛けにキジが藤丸のストラップを狙い飛び出してくる。
「おっと!!」
辛うじて避けた藤丸に更にキジが追撃する。
「ヒューマロック!」
石の人形がキジを止めた。
「じゃあこれで5対3だな、ヒューマロック!」
石が積み上がり石の人形が更に1体姿を表す。
「お!武尊すごいね!」
「勢いでやってはみたものの動かすとなると、2人分のイメージでめちゃくちゃ頭おかしくなりそうっす…!」
1体の石の人形が森田に向かって駆け出した。
「ポチ!ジョージ!お願い!」
犬と猿が石の人形に飛びかかる。石の人形は止まった。その間に藤丸が森田に駆け寄る。
「もらうよ!」
その瞬間、藤丸の腰をなにかがかすめた。驚いた藤丸が後ろを向く。キジを止めていた石の人形が崩れている。
「すんません…藤丸さん…!やっぱ2体はしんどくて…」
武尊は膝をつき、キジは藤丸のストラップを咥え、森田の元へ戻っていく。
「くっそ…!やられた…!」
藤丸が森田へ向き直る。武尊が藤丸に問う。
「藤丸さん、これがギャップってやつっすか…?」
「してやられたね」
「ありがとうケンケン。残るは息吹くんの分だ、僕ら4人で頑張ろう」




