革命②
翌日、WLSの教習生1名が拉致されたというニュースが駆け巡った。権藤所長が救出されたことによって、規制されていた情報は一部を除き公となり、国中が混乱に落ちた。
「ただいま警察と管理局と連携を取って捜索を──」
「安全性につきましては再度教習所側としても再考──」
「連れ去られた教習生の詳細につきましては──」
「あのね……!我々も全力で…!」
「教習生につきましては必ず…取り返します…!」
WLSには新聞社や国民からの多くの問い合わせがあり、講師陣はその問合せの対応に追われることとなった。WLSが設立してから38年、堅牢かと思われていた次世代を育てる砦が強襲され、そして被害者を出したというそのニュースは、人々の不安を煽るには十分だった。花澤の治療を終えた武尊たちは、医務室で安静をとっている権藤のもとへ来ていた。
「本当にすまなかった──。」
医務室のベッドで権藤は森田や久瀬たちに頭を下げた。
「私がいながら…宮國くんを連れ去られ、挙句その行き先すら分からないとは…どれだけ悔いても悔やみきれない。」
「後悔なんか…何の役にも立たないだろ…!」
武尊は医務室の入口側の壁にもたれかかり、まっすぐ権藤を見て言った。
「やめろ息吹。権藤さんだって被害者なんだ。お前の気持ちも分かるが、権藤さんに八つ当たりすんのは筋が違う。」
前澤は窓の外から煙を吐きながら言う。その前澤に対して権藤が言う。
「前澤、お前はなんで」
「あんたが攫われたって聞いたから後輩連中連れて助けに行ったんでしょうが。もう一人攫われたのもこいつらと同期だって言うしな。」
「そうか。今回の事で、相手側の末端の戦闘員数名とミランダという幹部の逮捕、一方こちらは宮國くんの拉致と記録、そして…世間の大混乱。私が言えたことではないが、態勢としての完敗だ。」
権藤は窓の外を遠くを見るような目で見た。
「だが、私が協力できることは全て協力させてもらうつもりだ。なんとしてでも、宮國くんを救う為に。」
武尊はその言葉に答えずに医務室を出た。全員はその武尊の背中にかける言葉が見つからなかった。
「息吹ィ!」
外のベンチで座っていると聞き慣れた声がする方へ視線を向ける。激怒している小田桐と、それを必死で止める柿沼がこちらへ向かってくるのが見えた。
「お前ェなにしてた!?久瀬もバカも森田もコソコソしやがって!」
「小田桐さんまずいって!あんなことがあったばっかりの武尊くんにそんな…!」
「あぁ!?知らねえよ!あたしらに黙って勝手なことするからそうなったんじゃねえのかよ!なんであたしらに何も言わなかった!?そんなにあたしらは頼りねえかよ!」
制止する柿沼を引きずりながら小田桐が武尊の目の前に立つ。
「ごめん…」
武尊は絞り出したように言う。その声を聞いて小田桐は先程までの勢いを失った。
「……!しょぼくれてんじゃねえよ…どうすんだ、このあと」
武尊は小田桐に問われ、俯いたまま小さく答える。
「俺にできることはなにもない。実際、何も出来なかった。前澤さんも久瀬も森田も郷原も…みんな所長と真樹を助けるために必死に戦ってた。なのに、俺は…」
「足手まといにしかならなかったってか?」
小田桐の言葉に、武尊はピクっと反応する。
「ちょ、小田桐さん!?」
柿沼が慌てたように言う。小田桐は続けた。
「お前が足手まといになることは行く前から分かってたことだろ?お前は何にいじけてんだ?何も出来なかったことに対してか?宮國を救えなかったことに対してか?出来なかったことを数えていいのは勝った奴だけだ、負けていじけてる暇があるなら出来ること増やせよ。まだ終わってねえんだろ?宮國助けたいんじゃないのかよ」
「……」
武尊は小田桐の言葉に答えることができなかった。柿沼が割って入る。
「小田桐さん、何も今そんなこと言わなくても…」
「武尊!!」
郷原が叫びながら走ってくる。
「筋肉バカテメェ!お前も同罪だからな!なんであたしらに何も言わ…」
「すまん!今はそれどころじゃない!武尊!早く来い!大変なことが起きてるぞ」
武尊は顔を上げた。
「……?」
「なんてことだ…」
教官のアレンはパソコンの画面を見て言う。パソコンの画面には白い背景に黒いリンゴと羽をモチーフにしたロゴ、そして真ん中にはATの文字が入っていた。
「武尊くん!」
郷原に連れられてきた武尊を見て森田が声をかける。
「AdamTerrace…その頭文字ってことですか」
森田の横にいた久瀬が言う。
「これは…?」
武尊はパソコンの画面を見て言う。
「動画が拡散されてる。所長と宮國を連れ去った奴らからのメッセージだろう。」
アレンはその動画を再生した。動画の画面はロゴのまま、音声だけが再生された。
「みなさん、初めまして。神田と申します。これから皆様にお話するのは、隠されていた真実のお話です。と言っても、信じてもらえる方は少ないでしょう。ですので、まずこちらをご覧ください。」
画面が切り替わり、拘束された権藤が映し出される。
「!?」
武尊は目を見開いた。
「僕たちはWLS所長、権藤厳氏を略取し、ある記録を取り出しました。あ、ご安心ください。権藤氏に関してはほぼ無傷でお返ししました。」
「ふざけたことを…!」
アレンは机を拳で打った。画面が再度ロゴに切り替わる。
「ご存知の方も多いと思いますが、権藤氏の能力は記録保存。見聞きしたことを細部まで完全に記憶し、そして記録として残す。この情報は本人の意思で削除しない限り、後世へ記録として引き継がれる。彼の中にはこの能力者社会の根源の情報が入っていた。そして、その記録と僕らが調べた情報を照らし合わせた結果、ある結論にたどり着きました。それは、この能力者社会は『作られたものである』という結論です。165年前、世界各地で、そしてこの日本でも初めて、能力発現の報告がありました。その約4年後には爆発的に増えたその能力者たちは、一般的に認知されるようになり、ワンダーと呼称するようになった。ここまでは知っている方もいるでしょう。ですがその起源、なぜワンダーが生まれたのか?ここは長く不明とされてきました。そして今回、権藤氏の記録から分かったことを皆様にも共有します。」
その動画はたちまち拡散され、街では多くの人々がスマートフォンを片手にその動画を見て立ち止まっていた。その動画について話す者もいた。
「これ本当かな?」
「どうせテロリストの言うことだろ」
「情弱が騙されそうなコンテンツだな」
「権藤所長が映ってる…本物っぽくない?」
動画が続く。
「177年前、ある研究者が海外で射殺されました。彼の名はミト・ゴードン。射殺の理由は水面下で危険な因子の研究をしていた事が露見したことによるものです。その研究されていた因子、Factor of Wonder。この因子こそが、我々ワンダーと呼ばれる能力者発現の起源となるものです。そして、ミト・ゴードンという世紀の大犯罪者の家族は、ゴードンの死と同時に狙われることを危惧しこの日本へ姿を隠します。『権藤』と名を変えて。」
「!?」
「なんだって…?!」
パソコンの画面を見ていた武尊たちはあまりの衝撃に言葉を失う。
「そしてこのゴードンの血を引く権藤家は日本でこの因子の研究を引き継ぎます。そして165年前、事件が起きる。この覚醒因子実験に使用したマウスが脱走したことによる、世界的なパンデミック。瞬く間に世界中に散らばった因子は、僕らの中に眠っていた能力を呼び覚ました。そして、ワンダーと名付けられ世界の監視下に置かれることになった。これがある1人の人間の欲望が世界中を巻き込み、そしてそれを隠し、あげく利用しようとする世界の成り立ちです。我々は被害者です。能力を持っているというだけで、首輪を付けられ、国に、世界に搾取され続ける。今こそ、そんな仕組まれた自由に、異を唱えるべき時です。僕たちAdamTerraceが、みなさんを本来の自由へ返します。」
動画が終わったあと、その場にいた誰もがしばらく口を開かなかった。世界が少しだけ、傾いた。




